2023年冬に結成されたバンドieyasu(イエヤス)。職場の同僚だった岩村(Vo./Gt.)とコン(Syn./Cho.)、岩村の友人である片上(Dr.)の3人で活動している。バンド名は、「人の名前や地名をバンド名にしたい」というコンの要望から名付けられたそうだ。テクノ、ポストパンク、ニューウェイブ、オルタナティブロックからディスコ、エレクトロニカまで、さまざまな音楽的要素を横断したサウンドを鳴らしている。ポップなメロディーと、シニカルな歌詞が特徴的だ。
今回取り上げる「Who You Are」は、2025年9月にリリースされた1st EP『Who You Are』の表題曲。先日Eggsでも配信がスタートした。初期のDaft Punkあたりを彷彿とさせるイントロの後、最初に差し込まれるのが、シャープなドラムとボーカル。ボーカルは、子音のアタックはしっかりあるのに、母音ではアンサンブルに溶け込むようなニュアンスを出している。バンドというフォーマットでダンスミュージックを成立させようとするバンドは多いが、このバンドは、ボーカルを軸にしたアンサンブルの組み方が非常に巧みだ。そしてそこには新しさもある。
「Who You Are」には、テクノ、もしくはダンスミュージック独特の反復がある。各パートが一定のフレーズやリズムを繰り返しながら、その組み合わせや音の密度を変化させていくのだ。ここで、ギター、シンセサイザー、ドラムというieyasuの編成も効いてくる。本曲では、ギターはロックバンドにおけるギターらしい主張をするわけではなく、シンセサイザーも単に楽曲を彩るためのものでもない。それぞれが短いフレーズや音色、リズムを担っている。一方、他の曲ではギターが前に出て、ロック然とした歪んだ音を聴かせることもある。このバンドが持つ音楽的な語彙の広さが、楽曲のバリエーションに明確に現れている。
ieyasuにとって、踊れる音楽とは特定のサウンドを再現することではないのだろう。異なるジャンルの語彙を用いながら、反復やリズムによって身体を動かす。身体が自然に反応するこの感覚を、バンドサウンドでどう生み出すか。それがieyasuにとって最も重要なことなのだと思う。
歌と楽器、その境界線の向こうへ――ファルセットさえ音色として響くボーカル
もうひとつ、記しておきたいのがボーカルだ。「Who You Are」においては、メロディーを大きく歌い上げて楽曲を牽引するのではなく、ビートやアンサンブルとの距離を保ちながら、言葉を置いていっている。そのアプローチによって、歌声もまた楽曲を構成するひとつのパーツとして聴こえてくる。なかでも印象的なのが、ファルセットの使い方だ。地声からファルセットへ移行すると、声の質感は瞬間的に軽くなる。しかし、その変化を単純に感情の高まりや浮遊感を表現するためだけに使ってはおらず、ファルセットへ切り替わったときの音色の変化そのものが、シンセサイザーの音色が切り替わるようにアンサンブルへ新たな質感を加えている。ファルセットさえもダンスミュージックを構成する音のひとつとして機能しているのだ。
「Who You Are」から見えてくるのは、既存のダンスミュージックをバンドで再現しようとする姿ではない。楽器だけでなく歌声まで含め、バンドを構成するすべての音の役割を捉え直し、反復の中へ配置していく。その結果として、3人の演奏からダンスミュージックが立ち上がってくる。表層的なサウンドではなく、音楽を成立させている仕組みを自分たちなりに解釈する。その柔軟な発想にこそ、ieyasuというバンドの個性が表れている。
文・伊藤亜希
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