予定調和に着地しないポップネス――ヴェロニカにさよなら。「宵惚け」が鳴らす“行き先を決めない感情”

予定調和に着地しないポップネス――ヴェロニカにさよなら。「宵惚け」が鳴らす“行き先を決めない感情”

2026/10/21

2023年6月に岡山で結成された4ピースロックバンド、「ヴェロニカにさよなら。」。メンバーはYunD Yun(Vo./Gt.)、がたお(Ba.)、よーせー(Dr.)、もるしぃ(Key.)の4人。YunD Yunが生み出す独特の世界観を軸に、ジャンルの垣根を越えた音楽性を追求している。2025年7月には、初EP『サヨナラの夜に』をリリースした。  

今回取り上げる「宵惚け」は、聴き進めるうちに、最初に見えていた曲の景色が少しずつ変わっていくような1曲だ。冒頭から漂うのは、夏の夜のけだるさと、終わりの見えない堂々巡りの思考。爽やかな曲だが、少し寝苦しい空気を宿している。楽器同士が密集することなく、それぞれの音が鳴っているところも、少し不気味さを醸し出している。さらに、メロディーラインは耳が予想する場所へ収まらず、コード進行にもひと癖ある。曲の半ばからは、さらに景色が変わっていく。なかでも耳を引くのが、中盤に現れるクラシカルなニュアンスを帯びたパート。それまでのバンドサウンドとは明らかに趣が異なり、曲の中を流れていた時間が、そこでふっと切り替わったように感じられる。それまで歩いていた道から、知らない場所へ入り込んだような場面転換だ。こうした大胆な展開も含め、ひとつの曲調に安住しないところに「宵惚け」の面白さがある。 

その多彩なアンサンブルの中で、YunD Yunの歌声は独自の存在感を示す。柔らかな声質を生かしたアプローチ。声量や技巧を前面に出すのではなく、声音のニュアンスで感情を伝えるタイプだ。淡い声色でありながら、楽器の音に埋もれることなく、言葉がしっかりと耳に届くことに驚く。 

正しさと本心の“あわい”で――まだ醒めたくない夜に心を隠す  

歌詞で印象的なのが、前半の<正しい声忘れぬように>と、後半の<正しいだけじゃ生きられないの>という言葉だ。「正しさ」を手放したくない気持ちと、それだけでは生きていけないという実感が、ひとりの人間の中に同時に存在している。さらに<まだ本当は期待したいのに>と思いながら、<このまま寝惚けてたいな>と願う。未来への期待は残っているのに、そこへ向かって踏み出せない。諦めることも、進むことも選べない。そのどちらにも振り切れない感情は、まさに歌詞にあるように<心隠れんぼ>だ。 

 この歌詞を踏まえて効いてくるのが、「宵惚け」というタイトルだ。「宵惚け」は一般的に使われる言葉ではなく、この楽曲における造語だと考えられる。「宵」は、日が暮れて間もない夜の初めを指す言葉。歌詞には暑さや短夜、眠れなさといった夏の夜を示す言葉が散りばめられている。そこに「惚け」という、意識がはっきりと定まらない状態を思わせる言葉が重なる。答えを出さず、まだ夜の中にとどまっていたい。そんな主人公の状態そのものを、「宵惚け」という言葉が表しているようにも思える。  

そして興味深いのは、歌詞の主人公だけでなく、楽曲そのものも簡単には着地点を見せないことだ。「宵惚け」という不思議な言葉には、割り切れない感情と、ポップでありながら予定調和には収まらない、ヴェロニカにさよなら。ならではの“着地しない音楽”が凝縮されている。 

文・伊藤亜希 


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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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