2025年にリリースした3rdアルバム『Lux』を携えたワールドツアーをはじめ、『FUJI ROCK FESTIVAL “ROOKIE A GO-GO”』への出演や韓国ツアー(2023年)、アジアツアー(2024年)など、国内外を問わず活動の場所を広げてきた水中スピカ。変拍子を織り込んだリズム設計に、オルタナティブやマスロック、シューゲイザーを横断するサウンド、芯のある歌声を聴かせるボーカルと、独自のポップネスを確立してきた4人組である。本インタビューでは、千愛(Vo. / Gt.)、野口岳寿(Gt.)、内田潤(Ba.)、石川栞(Dr.)のメンバー全員に、海外ツアーに至った経緯、そして水中スピカの現在地を語ってもらった。

知らなくても熱狂する――海外で問われるライブの本質
──海外ツアーと国内ツアーで気持ちの持ち方は違いますか?また日本でやる楽しさ、海外ツアーの楽しさは違います?
千愛(Vo. / Gt.):2025年は 3rdアルバム『Lux』を出して、そのワールドツアーをしたんです。今まで日本中心に活動していたのが、いろんな国に行ってライブをするようになって。不思議に思うぐらい、海外で私たちを知ってくれている人がたくさんいることに驚きました。世界を周るうちに、音楽シーンや国ごとの特徴も学ぶことができましたね。
──海外と日本のお客さんの反応の違いで、おもしろいなと思った国はありましたか?
野口岳寿(Gt.):海外だと知らない曲でもライブが良ければお客さんがエキサイトするんです。逆に知っている曲でもライブのクオリティが低ければそうならないところがあって。僕ら、オーストラリアのSXSWというフェスにオープニングアクトで出させてもらったんです。会場にいた人たちは、水中スピカのことは1ミリも知らなかったと思うんですけど、僕らがライブをしてきた中で1番盛り上がってた(一同笑)。 たぶん日本だとなかなかないんじゃないかな。どっちにも良さがありますけど、日本と海外でライブのやり方も変わってくるのかなっていう。勉強になりましたし、おもしろかったですね。
──BEST LIVE ACT賞を受賞したんですよね。
野口:そうなんです。それはお客さんの盛り上がりのおかげかもしれないです(一同笑)。SXSWの会社の方がライブを見て賞を決めるんですけど、僕らのライブを見てくれた方が、これは本当にいいライブだと思ってくれたらしくて。オープニングアクトのライブでお客さんの心をつかめたことが評価されたんじゃないかなって思いました。
石川栞(Dr. / 以下、石川):個人的には音楽性の目新しさみたいな部分もフックになったのかなと感じてます。ギターの奏法や日本っぽいメロディが、海外の人の目に留まったんじゃないかなって勝手に思ってます(笑)
──ワールドツアーで、タイ、マレーシア、シンガポールなど、アジアを細かく周っていますよね。中国で1000人動員はすごいな、と。アジアでのライブの反応はどうでしたか?
野口:ちょうど僕らが進出したぐらいの時期に、中国では日本のインディーズシーンが流行ってたんですよね。『ぼざろ(ぼっち・ざ・ろっく!)』があったから。
内田潤(Ba.):そうだね。あの頃、中国で何個かバンドアニメやってたから。
野口:それで下北沢系バンドが中国でライブをしたら人が集まるみたいなカルチャーができていたんですよ。僕らのお客さん、ライブ中に(アニメの)人形を持ってました(一同笑)
千愛:海外から見たら、私たちは下北沢系バンドに見えてたっぽいですね。
──それがライブを見ると「おや、『ぼざろ』じゃないぞ」と思うわけじゃないですか。お客さんの反応はどうでしたか?
千愛:たぶん水中スピカを知った上でライブに来てくれてる人もいるんですけど、私たちが古くに出した「Oshiroi」のミュージックビデオが中国で1番跳ねてて。着物を着てお寺で撮影をして、すごく日本的なミュージックビデオなんです。それがよかったって思ってもらえたのかな。憶測でしかないですけど、ふふふ 。
野口:僕ら、2024年に初めて中国ツアーをしたんですよ。
──中国7都市ソールドアウトしたんですよね。これびっくりですよ。日本でドーム公演をするアーティストでもなかなかできないですよね。
野口:僕らもびっくりしました(笑)。僕らシューゲイザーっぽいところもあって、日本と同じく爆音でライブをしたら、お客さんから苦情が来てしまって(苦笑)
千愛:「歌が聞こえない」みたいな苦情が多かったんですよ。1回目のツアーの時は歌が楽器の一部になる音作りをしたくて音量を下げたんです。2025年のツアーからは、しっかり歌が聞こえるようなミックスでライブをするようにしました。
リハなし本番も当たり前――鍛えられる柔軟性とタフネス
──国によって出音を変えてらっしゃるんですか?
千愛:そこは考えますね。インストの対バンのイベントだと楽器を強めにしたいので、イベントによっても変えます。出演するハコによって、歌を聴かせたいのか楽器を聴かせたいのかを考えるようにしてますね。
──そうなんですね。ドラムはどんな風に音量を調整されてますか?
石川:基本ドラムだけ生音で、マイクで拾って音を出すので、どうしてもドラム基準で音量を考えますね。小さいハコだったら爆音を出さないようにするとか。ドラムのチューニングによっても音量は変わるんですけど、それよりも叩き方。例えば、痛い音を出したい時は、スティックをめっちゃ握って叩いたりとか。

──痛い音というのは“バンっ”て反響させる音ですか?
石川:そうですそうです。鋭い感じで出したい時は、力を入れてわざと叩きます。叩き方で聞こえ方が変わるので、それが音量や音色にかなり影響します。シンバルはギターみたいに音量を変えれないので、シンバルの裏にガムテープを貼ってちょっと音量を下げたりしますね。
千愛:海外って転換リハをあんまりやらないんですよ。音が鳴ったらレッツゴー!みたいな感じで始まります。
野口:前のアーティストが終わって「10分後スタートね」みたいな(笑)
千愛:だいぶ鍛えられたよね(笑)
石川:それでドラムの音がデカいと、どうしようもできないです(一同笑)
──海外ツアーで、ライブ以外に「ここ、日本じゃないんだ」と思った瞬間を教えてください。
潤:僕はお酒が好きで、ライブ終わりにお酒を飲みたくてコンビニに行くと、お酒の棚にシャッターみたいなのがかかってて、夜10時を過ぎたら販売しない国があったんです。宗教的な理由もありますし、法律的な理由もあるので、日本との違いは強く感じましたね。お酒は昼間に買っておくことを学びましたね。
野口:僕はコンビニ文化ですね。海外だと晩御飯をコンビニで買うのも難しくて、1番困りましたね。海外では出前を取ることもありました。やっぱり日本のコンビニは品揃えが豊かすぎだし、コンビニの数も全然違います。
“変拍子だと思っていない”――無意識に宿る水中スピカの個性
──水中スピカの曲は変拍子多くて、フック満載で刺激的ですよね。みなさん、変拍子がお好きなんですか?
千愛:実は私、変拍子はあんまり好きじゃなくて(笑)。
――え!
千愛:自分では変拍子だと思って作ってないんですよ。
――えぇええ!すごすぎる……。
野口:ですよね(笑)。そうなりますよね。
――はい。おもしろすぎます(一同笑)。
千愛:自分の弾きたいリフがたまたま変拍子だったんですよね。変拍子にも自分の中でアクセントがあって、7 を 3 と 4 でアクセントを分けるのか、2 と 5 で分けるのかみたいなのも考えます。作曲をする時はアクセントの共有をみんなでしますね。
──共有をうけて、皆さんはどう思うんです?
野口:勘弁してほしいな、とか(一同笑)。変拍子はノリにくいし、つまずくところもあれば突っ込んでいくところもあるので、そんなに魅力的には感じてなかった。でも、変拍子と変拍子の継ぎ目をシームレスに工夫するのがおもしろくて。場面が変わる演出としての作用が意外と強いなと思いましたね。シーンがガラッと変わる感じがあって、おもしろいなと思います。
──シームレスにするとなると、ベースが大切な役割を担うのではないか思いましたが、潤さんいかがですか?
潤:そうなんですよね。簡単な 4/4 から3/4 に変わるだけでも、シームレスにしないと違和感が出ちゃって。そういう時、ギターはそのままでベースだけちょっとずつ音数を減らしていきますね。ベースはメロディーラインでできないことをラインで自然に変化できるのが強みだと思っています。シームレスの舵取りはドラムとベースでやってますね。
新曲「361°」について――水中スピカのアンサンブルが立ち上がるまで
──例えば最新曲の「361°」では、リズム隊の2人はどのようにシームレスにリズムを組み立てていったんでしょうか。
石川:千愛さんのギターと歌に、それぞれが自分のパートをつけていく感じなんですけど、 「361°」はピアノとギターのデモをもらって、割とすぐドラムが思い浮かんだので打ち込んでおきました。
千愛:基本、ベースとドラムは口ドラムをしてイメージを伝えるんですよ。私が口ドラム下手くそだから、野口が口ドラムで伝えてくれます。ちょっとやってみてよ。
野口:ドゥドゥドゥス、パンバン。ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥ、ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥ。バラスバッバーッみたいな(一同爆笑)。
石川:「361°」は、ずっと16分音符で叩いてる感じだったので、ドラムが動いても同じセクションという認識から外れないかなと思って。でも、ずっと同じ音数だと何をしたいドラムなのか分からないかなと思って、音数やリズムの変化のメリハリは最近意識して作ってますね。
──「361°」のギターは、どのようにイメージを伝えて作られましたか?
野口:ギターが入った状態でデモが来ることもあったりなかったりなんですけど。
千愛:野口に「ピヨンピヨンピヨンってやって」みたいにチョーキングの加減を伝えたりとか、すごく細かく音色とかも言いましたね。
野口:いろいろ試行錯誤してやりました。
水中スピカの曲はファンが作ってると思う――歌詞や歌に対する変換のきっかけ
──バンドサウンドの中における、歌詞とメロディーの位置づけは? 千愛さんにとってはどういうものですか?
千愛:最初は椎名林檎さんや東京事変が好きで。難しい言葉の歌詞が多かったんです。作曲するのも言葉で表現するのも、自分で表現するってこと自体が小っ恥ずかしくて。今は感情を入れて明るい未来に向かっていくような歌詞をつけるようになったんですけど、きっかけはファンのみなさんからのメッセージ。“水中スピカの曲を聴いて明日からも生きていこうと思いました”というメッセージをたくさんもらうようになったんです。
──素晴らしいですね。
千愛:水中スピカの曲はみんなに生きる勇気を与えてるんだって気づいて、私たちの曲でもっとみんなに明日からの光を与えたいと思うようになりました。ファンのみんなが私たちの歌詞を作ってる、私たちの曲を作ってると言っても過言ではないです。

──そうなんですね。千愛さんの歌は、英語と日本語の印象が変わらないですよね。母音の扱い方が上手だと思うんですけど、歌詞を見るまで「361°」の<Just for now>が英詞だと気づきませんでした。「MATHRHYTHM」では、<12345>と数字から始まっているのに全部違うニュアンスで言ってますよね。
千愛:レコーディングとライブで歌い方を変えています。息継ぎはつなげたいところもあって。「MATHRHYTHM」のサビの<見える>は、ライブでははっきりと切りながら歌って、音源はさらっと歌っています。ライブは感情も聞いてほしいから、悲しみから喜びに変わるような歌い方で、顔の表情も考えながらみんなに届けって感じで歌ってます。
──歌詞を英語にしたのは何か理由がありますか?
千愛:ワールドツアーをしていくうちに、英語の歌詞と日本語の歌詞、両方ともちゃんと作っていきたいなって思いました。
バンドを続け、海外ツアーをするには――「今日もみんなでご飯行く?」
──Eggs 世代のバンドを始めたばかりの人たちへ向けて、バンドを長く続けていくための秘訣を教えてください。
石川:バンドを続けられているのは、第一に千愛さんの曲がすごい好きで……(照)。あとメンバーへの尊敬。それは演奏面でも人間性でも、リスペクトすることが大事かなと思います。
潤:自分のポリシーや信念を曲げる柔軟さが大事かなと思いますね。意見が対立する時って自分が譲れない部分もあるけど、相手も絶対譲れない部分あるわけだから、平行線になっちゃうじゃないですか。でも一歩引くだけでいい方向に進むんだったら、折れることも大事だなと思います。
千愛:いつも折れていただいて。ありがとうございます(一同笑)
野口:やっぱりメンバーが第一かなと思います。それぞれライフスタイルや生き方が違う 4人なので、バランスを取るためにバンドだけではなく、メンバーそれぞれのプライベートや仕事も尊重してバンドをやっていくのが長く続ける秘訣かなと思います。
千愛:いっぱい打ち上げをすることですね(笑)。美味しいご飯を一緒に食べる環境のあるバンドは続いていけると思うんですよ。みんなでおいしいご飯を食べてると…。あれ?何?みんな、微妙な反応?
野口:おもしろいなと思って(笑)。深い話から、まさかの打ち上げって(一同笑)
潤:大事やけどな(笑)
千愛:(笑)みんなの好きな食べ物、嫌いな食べ物まで知ってると、バンドメンバーから家族になれるというか。家族になると言いたいことが言いやすくなるんですよ。ちょっとの喧嘩は別に気にならなくなるじゃないですか、家族って。
──海外ツアーをしたいEggs世代のバンドたちへ、アドバイスはありますか?
千愛:最初は海外はやめようという意見もあったんです。リスクもあるし、お金もかかるし。でもみんなで海外に行く決断をしたことで、いろんなきっかけにつながっていくんですよね。だから海外に行くことを怖がらずに、チャレンジしていく気持ちを持つのは大事。あと、私たち海外のフェスはオーディションに応募して出演することが多いです。SXSWも自分で応募できるんですよ。合格できなくて諦めたら絶対にチャンスをつかめないから、海外に出ていくチャレンジ精神を常に持つことと、自分から繋がりを探して掴んでいく。自分から動くことが、私たちの海外への繋がりのきっかけかなと思いますね。
──最後にEggs世代のバンドのみなさんに、メッセージをお願いします。
石川:自分達の曲を人に聴いてもらうと、新しい発見もあるので、怖がらずにどんどんチャレンジしていくのが大事かなと思います。
潤:バンドをやっていくなら、絶対に目標を決めることをやった方がいいと思いますね。最初は漠然とした目標でもいい。目標が決まると、そのために何をしたらいいのかを調べないといけなくて、より具体的な目標が出てくると思いますね。
野口:海外で活躍したいのか、日本でメジャーデビューを目指すのか。バンドのビジョンによって、活動のスタイルやアピールポイントが変わると思うんですよ。それを実行しているバンドを参考にするといいと思います。例えば “機材のこと分からないんですけど、どういうの使ってるんですか?”とDMを送ったら、丁寧に返事をいただけることがあって。教科書を作るみたいな感じで、自分がなりたいバンド像を実現している人に質問をするのもいいと思います。
千愛:私たちの場合は、自分からライブハウスに「ライブに出たいです」と連絡してました。ライブに出ると、ライブを見てくれてた人や対バンしたバンドから次のイベントに誘ってもらって、いろんな可能性が広がりました。今はSNSが大事だけど、バズることだけに囚われずに頑張る方法も諦めないでほしいですね。
■スタッフクレジット
インタビュー・構成:伊藤亜希
文・橋本恵理子











