
2025年3月16日(日)。プログレッシブロックバンドJYOCHOが主催する『JYOCHO presents“超情緒大陸“』が開催された。プログレッシブロックバンドJYOCHOが主催する本イベントがスタートしたのは2019年。彼らの拠点である京都を皮切りに、これまで東京、大阪などでも行われてきた。JYOCHOの音楽性からもわかる通り、オルタナティブで先鋭的なアーティストをブッキングしてきたのが特徴である。『情緒大陸』シリーズとして7回目となった『JYOCHO presents“超情緒大陸”』は、過去最大規模。新宿LOFT(2ステージ)と新宿MARZ(1ステージ)の2会場を使い、昼からサーキットスタイルで開催された。
本記事では、Eggsでのオーディションを経て『JYOCHO presents“超情緒大陸”』のオープニングアクト出演を獲得した、新川莉子のソロプロジェクトゆうさりのライブの様子、そしてライブ後のミニインタビューをお届けする。


オルタナティブなサウンドスケープで観客を魅了した、ゆうさり(合奏)
この日、ゆうさりは「ゆうさり(合奏)」というスタイルで登場。本人(Vo./Gt)、サポートメンバーに佐藤日向子(Ba.)、椿三期(Dr.)という布陣だ。このバンド形態に同期で多彩な色を加えていく。幻想的なSEとともにメンバーが順番にステージへ。新川莉子は、ギターを爪弾きながら少し声を出す。自分の声をSEの要素として投げ込んでいるようだ。新川が手をあげるとSEのボリュームが低くなっていく。新川は、SEの余韻をひきとり最初の曲をギターの弾き語りで歌い始めた。「つきのうみ」へ。途中からバンドサウンドが入りダイナミックに展開していくミディアムチューンだ。最後にギターのフィードバックが響いた。ドラムのカウントから「ほころび」へ。新川はステージ中央を向き、他のメンバーとアイコンタクトをとりながら、バンドアンサンブルのキメを合わせる。ドリームポップやエスノアンビエントを彷彿させるナンバー。シンプルなメロディーが、新川のレンジの広い歌声で浮き上がってくる。平メロでは母音のニュアンスで緩急をつけていた彼女の歌声が、サビでは倍音が共鳴するような強さを見せる。ロングトーンではクレッシェンドとデクレッシェンドをつけるなど、メロディーと楽曲の雰囲気、メリハリと、細部にまでこだわりライブのサウンドを作り上げているのがわかった。変拍子で多彩なリズムパターンを見せながら、ワルツのような軽やかさを見せる「幽霊」へ。曲の最後では、ギターで綺麗なアルペジオも聴かせた。

続く「うろこ」や「ひかり」では、新川莉子のオルタナティブに対する解釈、そして音楽に対する自由度を感じた。儚さが滲む音源とは異なり、ライブならではのダイナミズムを放つバンドアンサンブルが、ひたひたと押し寄せるように、時にはどしゃぶりの雨のように、その場を“ゆうさり”のサウンドで満たしていく。新川は、チェストボイス(地声)のまま高音を気持ちよく響かせていく。スタンドマイクで歌っていた中、一音のトーンの途中で顔を横に向けるマイクコントロールを見せるなど、ボーカリストとしてのスキルも感じられた。曲、表現方法の自由度、己のイメージを再現した時の解像度の高さ、そしてボーカルスキルと、新川莉子は才能の塊だ。この日全7曲を披露した新川莉子のソロプロジェクトゆうさり。たゆたうサウンドスケープを軸にしながらも、リズムやバンドアンサンブルで楽曲の輪郭をくっきりと描き出し、メロディーと歌声で醸し出す無二の空気感を強烈に観客に印象付けだ。サウンドに色付けする音色にDIYスピリットを感じるところもいい。例えが古くて申し訳ないが、ゆうさりの音楽性は、米国のインディーレーベルの雄「Sub Pop」にいてもおかしくないと思った。インディーズオルタナティブシーンにおいて、今後も注目するべきアーティストであることは間違いない。
setlist
- SE.“Steamy Mirror”-Cuushe
- 01. つきのうみ
- 02. ほころび
- 03. 月
- 04. 幽霊
- 05. うろこ
- 06. ひかり
- 07. 輪

【インタビュー】ライブを終えた新川莉子をキャッチ!
3つの目標。バンドで楽曲制作、ソロでできることを突き詰める、野外のイベントやフェスへの出演
ライブを終えた新川莉子に話を聞いた。
――オーディションを経て『JYOCHO presents“超情緒大陸”』への出演が決まった時の気持ちを伺えますか?
新川莉子:Eggsさんからメールが来て“(オーディションに)落ちたやつかぁ”と思って開いたら受かってて。とても嬉しかったです。
――その日からどのように気持ちを高めていったんですか?
新川莉子:JYOCHOもösterreichもcinema staff昔から大好きで。そんな人たちと一緒のステージに立てる、見てもらえると思って。頑張ろうって思いました。
――実際にステージに立ってみていかがでしたか?
新川莉子:トッパーだし、(別のステージの)新宿MARZではめっちゃかっこいいひとひらが演ってるから“みんな、そっちに行っちゃうんじゃないのかな”って思って心配だったんですけど、その心配も吹き飛ぶような数の人が集まってくれた。集まってくれたのがまずすごく嬉しかった。それから海外から来た方の顔も見えて。JYOCHOって海外でもファンが多いから。最初所在なさげにしていた海外の方が、(自分の)ライブが始まったらニコニコしてくれて。“音出したらめっちゃ笑ってくれてるじゃん!嬉しい!”みたいな。そんな感触を楽しんでいるうちにあっという間に終わっちゃったって感じです。
――今後の目標をお聞かせください。
新川莉子:今回のサーキットフェスみたいなイベントや、ちょっと大きい野外イベントや野外フェスとかに出て行きたい。あとは(今日サポートで出てくれた)バンドで音楽を制作したくて。EPとか作りたいなって考えてます。それから逆にゆうさり1人にフォーカスして、1人でできることを突き詰めて音楽を制作してみたい。この3つが今の目標です。
――今後の予定を聞かせてください。
新川莉子:今日のような合奏では、4月25日に下北沢 BASEMENT BAR/THREE「クンフージャズフェスティバルvol’3」に出演します。ドラムの椿のお誕生日イベントでもあります。4月27日には、東池袋 KAKULULUの11周年記念パーティー「KAKULULU11」へ出演します。どちらもお祭りにふさわしい錚々たるみなさまとの共演なので、ぜひチェックしてください。独奏では5月に京都へ行きます。5月10日、三密堂書店、5月13日に茄子おやじ 花レで、それぞれ日髙晴野さんとの二人会です。13日には客演として幽体コミュニケーションズのpayaさんをお招きしています。こちらもぜひ!
――最後にこの記事を読んでくれている皆さんにメッセージを!
ゆうさり:まずは『JYOCHO presents“超情緒大陸”』で私のステージを見てくださった皆さん、本当にありがとうございます。JYOCHOのことが好きな方は、きっと多分ゆうさりの音楽も気に入ってくれるんじゃないかと思ってて。なぜなら私はだいじろー(『情緒大陸』の発起人。バンドJYOCHOではGu./Cho.を担当)さんの音楽をずっと聴いてきたから。だから良かったら私の音楽にも振り向いてもらえると嬉しいなと思ってます。よろしくお願いします!
撮影・佐藤 薫/文・伊藤亜希