毎年ゴールデンウィークに開催される『JAPAN JAM』。2010年にスタートした春フェスの代名詞のひとつでもある同フェスは、2017年から千葉市蘇我スポーツ公園で行われており、これまで幾多の名シーンをオーディエンスに届けてきた。本年も4月29日、5月3日、4日、5日の4日間に渡り開催することが既にアナウンスされている。
『JAPAN JAM 2025』のオープニングアクトとしての出演権をかけたオーディションが『ROAD TO JAPAN JAM 2025』だ。Eggsのページからエントリーし一次審査を通過した8組のアーティストが、最終審査となる公開ライブのために、3月9日、千葉スターナイトに集結した。『JAPAN JAM』は、積極的に千葉市と連携した地域密着型のフェスとしても知られている。この日も千葉出身のアーティストが多数揃っていた。
躍動するサウンドでフロアを満たした!トッパーを見事に務めたザ ドーベルマンション

トップバッターはザ ドーベルマンション。切れ味あるバンドアンサンブルで、ダイナミックなサウンドとキャッチーなメロディーを同時に放つ4人組だ。裕平(Vo./Gt.)と洋平(Gt.)は双子の兄弟。ギターソロの前に「はい!ギター、お兄ちゃん!」という紹介を入れる愛嬌もいい。そのタイミングもばっちりで、このバンドがどれだけ時間を共有し自分たちの音を合わせてきたかが窺えた。メンバー同士が笑顔でアイコンタクトをとりながら演奏する様子もいい。躍動するサウンドがフロアをあっという間に満たしていく。アグレッシヴなギターリフ、楽曲の緩急を大事にしたリズムセクション、中低音から高音を力強く聴かせる裕平の安定感。どれも抜群だ。加えて裕平は平メロでの母音の抜き方、切り上げ方などのボーカルアプローチの豊富さも見せた。ギターロック、邦ロック、ポップス、ラウドなど様々なジャンルをしっかりオリジナリティーに昇華している。最後は「I Love 千葉! I Love ロックンロール!」とシャウトし熱いパフォーマンスを終えた。
メンバーのパフォーマンスに観客がクラップでレスポンスしたジョンのステージ

2番手はジョン。本番前のリハーサルでしづき(Gt.)がステージから降りて音を確かめていた。最初の曲は開放感溢れるアップチューン。イントロでカッティングギターのリズムに合わせ、メンバーが頭上でクラップすると観客もクラップでレスポンスする。ど頭からしっかりフロアのムードを自分たちに引き寄せていく手腕が光る。少し抒情的なメロディーを伸びやかな声で歌う大槻泰人(Vo.)。そこにしづき、ジョン・カネヤマ(Ba.)、かわな ゆうや(Dr.)が、コーラスでさらに強さを添えていく。ボーカル以外のメンバー3人がコーラスをとれる。しかもその安定感は誰もがボーカル級で、サウンドの広がりの重要なファクターとなっており、間違いなくこのバンドの個性だ。2曲目はミディアムチューン。感情の機微を発音の強弱で出していくゆとりの歌声に、しづきとジョン・カネヤマが綺麗なハーモニーを重ねる。エンディングのブレイクもばっちり決まり、メンバー全員が笑顔でステージを後にした。
バンド編成で登場した岡本ジョウ(青)。既存曲のバンドアレンジに才能と手腕を発揮

次に登場したのは岡本ジョウ(青)。作詞・作曲はもちろん、ミキシングやマスタリング、アートワークやミュージック・ビデオの撮影編集まで自ら手掛ける。この日のライブは、岡本がボーカル&ギター、そこにサポートを迎えた4ピースバンドスタイルで挑んだ。最初の曲はサビで繰り返されるタイトなメロディーにポップセンスを感じる軽快なナンバー。ネオアコースティックを彷彿させる1曲だが、バンドサウンドでグルービーに仕上げてきたあたりに、プロデューサーとしての手腕を感じた。「ひたすら曲を書きまくってるので曲はたくさんあるんです」という頼もしいMCの後は、カントリーの要素を取り入れたポップナンバーを披露。途中のギターソロでは、岡本も定位置から前に出てきて気持ちよさそうにギターを弾いていた。1曲目では滑舌の良さを活かして言葉を単語単位で聴かせ、2曲目ではフレーズ終わりの母音を揺らすニュアンスで次の言葉と繋げセンテンスで聴かせるなど、異なるボーカルアプローチを見せた。
mukeikaku(ムケイカク)が見せた“天賦の才”としなやかなグルーヴ

4組目のアーティストとしてステージに立ったのはmukeikaku(ムケイカク)だ。フラッシュのように明滅するカラフルな照明。カウンターのような音圧。ソリッドでありながら迫力あるバンドアンサンブルがフロアを飲み込んでいく。ポストグランジやその後のインディーロックを彷彿させるサウンドに、一癖あるグッドメロディーがのってくる。サビ。まな(Vo./Gt.)のハイトーンの素晴らしいこと。チェストボイスとヘッドボイスの中間あたりで鳴らしながら、サウンドに合わせてクレッシェンドをつけていく。かと思えば、一音だけ弱音にして表情を加える。無意識でやっているのだとしたら、天賦の才と言っていいだろう。そして随所に倍音が出てくる歌声は神様からの贈り物だ。2曲目。まなは、歌詞の<暗闇に襲われる>というフレーズに合わせて目をつむり、右手の親指を眉間に当てる。涼(Ba./Cho)は笑顔で客席やメンバーに視線を送りながら、確実にしなやかなグルーヴを作っていく。アンセムになりそうなエバーグリーンなメロディーと美しいコーラスが会場に響いた。
未知なるマジョリティーを感じさせた、バイバイ・ニーチェ

5番手として登場したのはバイバイ・ニーチェだ。軽快なドラムのリズムからスタートした彼らのライブ。そのリズムの中でゆとり(Vo.)がステージ中央で「もっと前に来て!」と観客を誘う。ブライトなアップチューンで幕開け。綿密な、かといって詰め込み過ぎてないバンドアンサンブルが放つ、独特の開放感。この開放感こそ彼らの個性だ。加えて、非常にポップなメロディーライン、そしてゆとりの万人の心にするりと入ってくる声質に、このバンドの未知なるマジョリティーを感じた。<最愛の君はいずこへ>という歌詞に合わせて、ゆとりが左手をおでこの前にかざし、客席を見渡すようなパフォーマンスを見せる。数多くのバンドのライブやその映像を見て、普段からパフォーマンスを意識している証拠だと思った。2曲目ではテンポとリズムパターンが大胆に変わるトリッキーな曲で演奏のスキルを魅せる。まさと(Gt.)とあめちゃん(Ba.)のコーラスがメロディーに彩りを添えていた。披露された両曲とも、ボーカルとドラムだけになるアレンジがあり、メンバー全員の楽曲に対する意識が一致しているのがわかった。きっと、メロディーと歌をしっかり届けたい、のだと。
SEや同期を使い2曲の中でライブの起承転結を演出したMrs.シラストーム

SEが流れる。メンバーが順番に出てきてスタンバイする。Mrs.シラストームがステージへ。SEが鳴る中、4人がドラムの前で手を合わせる。ジャーン♪という一拍のブレイクの後、鈴木 優也(Vo.)の「Mrs.シラストームです。どうぞよろしくお願いします」という言葉から、疾走感あるアップチューンがスタートした。鈴木が歌詞に合わせ、様々な表情を見せる。最後のロングトーンで振り絞るように声を出す。ギリギリのハイトーンをチェストボイスで勝負するその心意気に、観ているこちらも胸が熱くなった。同期でピアノやストリングスの音を加えた2曲目。メランコリックなメロディー、ドラマチックに広がっていくアレンジが特徴のナンバーだ。バンドが一音一音を丁寧に出し、サウンドでドラマを作っていく。鈴木も平メロのファルセットは優しく、そしてサビでは一音のファルセットを力強くと、ボーカルコントロールのスキルを見せた。SEや同期を使い2曲の中で見事にライブの起承転結をつけたMrs.シラストーム。最後は全員が定位置に立ち一礼してステージを後にした。
ルーツロックからラップが飛び出した!音楽への貪欲なスタンスが窺えたWash My Friday(ウォッシュマイフライディ)

7番手に登場したのはWash My Friday(ウォッシュマイフライディ)。ロックンロール、ロカビリー、ブルースロック、ガレージロック、スワンプロック、ファンクなどをルーツに持ち、楽曲の随所にその破片を詰め込みながらも、タイトでポップなメロディーでグイグイ“くる”ところがいい。シンプルな構成もキャッチーだなと思っていたら、なんと、途中でラップが飛び出した。ここに、メンバーが熱心な音楽リスナーであり、貪欲に様々なジャンルを咀嚼しようとするスタンスが窺えた。ラップパートの最後には、シムラ タクミ(Vo.)が少し歪んだ声でシャウト風のアプローチを見せ、ラップをラップのままで終わらせない工夫が見えた。メロディーと歌詞とのマッチングも素晴らしく、軽快な言葉がダイレクトに聴覚に残り、中毒性も高い。曲の途中でシムラがしゃがみこみ、ほしか(Ba.)を見上げたりと、パフォーマンスも自由奔放だ。曲間をリズムで繋ぎ2曲目へ。1分強という短い楽曲の中で、演奏、歌、パフォーマンスでディープインパクトを残した。
曲調やメロディーの自由度にノリシロを感じた、オプティミストの楽曲

最後にステージに上がったのはオプティミスト。この日は宇井(Vo./Gt.)、いつもはドラムの浅野がベースを担当。理由は「サポートがベースだけ見つからなかったから」。ギターとドラムはサポートメンバーで挑んだ。オルタナティブ、ギターロック、ボカロPなどを想起させるソリッドなメロディーの中に、オーセンティックなギターソロが入ってきたり、リズムがラウドっぽい音色に展開したりと、その自由度にこのバンドののりしろが感じられる。音数の抜き差しでアレンジのコントラストをつけているが、基本的に情報量が多いのも特徴だ。そのど真ん中にいるのがストレートな歌声。随所で少し鼻にかかったような甘いニュアンスを出すが、これが絶妙なフックになって、1度聴いたら忘れない癖になる歌声だと思った。この日、人前でベースを弾くのは初めてという浅野は、チョッパーを披露し観客を驚かせる。2曲目。細かい歌割りのアップチューン。手を自分の胸に当て、時折目をつむって歌っていた宇井が、サビの<俺の声に耳を傾けろよ>というフレーズに合わせ、目を見開いて表情を変える。最後のサビの繰り返しでは観客からクラップが起こった。
全力を出し切った8組。結果発表を待つフロアではアーティスト同士の交流があった
審査発表までを待つ間、フロアでは出演バンド同士が会話に華を咲かせていた。ステージでは「絶対に『JAPAN JAM』に出たい。そのために来た」という決意表明するアーティストが多かった。しかしライブ中には、観客となり、ステージを一緒に盛り上げているシーンもあった。このオーディションをきっかけに、アーティスト同士の交流が始まる瞬間を目の当たりにし、純粋に心から感動した。
『JAPAN JAM 2025』へのオープニングアクト出演権を獲得したのは、ザ ドーベルマンション(4/29)、岡本ジョウ(青)(5/3)、バイバイ・ニーチェ(5/4)、Wash My Friday(5/6)の4組。授賞式では4組が順番に、歓喜の思いと『JAPAN JAM 2025』への意気込みを語った。
Eggsはこの日の終演後に、出演アーティストに動画インタビューを行った。ぜひともEggs公式SNSをチェックして『JAPAN JAM 2025』に備えてほしい。

撮影・緒車寿一/文・伊藤亜希