初のバンド編成で開催されたEggs×mona records『まどか vol.15』をレポート――歌とアンサンブルが映し出す、それぞれの音楽観

初のバンド編成で開催されたEggs×mona records『まどか vol.15』をレポート――歌とアンサンブルが映し出す、それぞれの音楽観

2026/10/22

2026年9月30日(水)、東京・下北沢mona recordsで、Eggsとmona recordsによる共同企画『まどか vol.15』が開催された。これまで弾き語りを中心に、アーティストとリスナーの出会いを育んできた本イベント。15回目となる今回は、初めてバンド編成のアーティストを迎える新たな試みとなった。出演したのは、まんぷくっ、ボタン、どっちつかズ、白い犬の4組。歌を中心に据えたポップロックから、ユーモアを織り込んだギターロック、エモーショナルなロックンロールまで、それぞれが異なるアプローチで音楽を謳歌した一夜をレポートする。 

歌を中心に広がる豊かなアンサンブル――まんぷくっが紡ぐ親密なポップロック

トップバッターを務めたのは、2020年10月に東京・小金井で結成された4人組ポップロックバンド、まんぷくっ。さかのひかり(Vo. / Gt.)、菊地紬(Key.)、中村ヒロキ(Ba.)、東川拳也(Dr.)からなり、西東京を中心に活動している。歌を中心に据えながら、菊地のコーラスやリズム隊が多彩な表情を生み出すアンサンブルを持ち味とするバンドだ。幕開けを飾った「あたたかい風」は、70年代~80年代のフォークロックのニュアンスを自分たちのポップスに取り込んだ1曲。鍵盤の柔らかな響きにバンドの音が重なり、さかのの歌声がフロアへと広がっていく。特徴的なのは、言葉を必要以上に強調せず、メロディーの流れに自然に乗せていく歌唱だ。そこに菊地のクリアな高音が重なるハーモニー。2人とも伸びやかな声質でありながら、どこか話しかけるような親密さがある。続く「サイダーの友達」では、軽快なビートに乗ってメロディーが弾む。さかのは、声を張る場面でも歌の輪郭を崩さず、柔らかな質感を保っている。その歌を支えるアンサンブルも、各パートが自分の役割を果たすことで、メロディーと言葉が自然に浮かび上がってくる。MCへ。「初めまして、まんぷくっです」と挨拶。この日の出演に感謝の言葉を述べ、イベント『まどか』が初のバンド編成での開催であることに触れ「それでトッパーなので、その役目を果たしたいと思います」と想いをしっかり言葉にした。中盤の「夏のはじまり」「新しい家」と、2曲続けてミディアムチューンを披露したブロックでは、豊饒なバンドアンサンブルをしっかりと聴かせた。注目したいのは、表情の異なる2曲のミディアムチューンが続いても、演奏のテンションや観客の集中力が途切れなかったことだ。メンバーが、ライブ、もっと言ってしまえばエンターテインメントに対して、共通の意識を持っているからこそだろう。楽器がそれぞれの旋律を持ちながらも、すべてが歌、そしてメロディーに向かっていた。まんぷくっのアンサンブルの豊かさが表れた場面だった。 

スケール感のあるイントロから始まる「ロングラン」、ホンキートンク調のピアノも印象的だったアップチューン「ロックンロールバンド」と畳みかけ、「最後まで楽しんでいってください」という言葉を残して、まんぷくっはステージを後にした。 

setlist

  1. 01.あたたかい風 
  2. 02.サイダーの友達 
  3. 03.この星空からはじまって 
  4. 04.夏のはじまり 
  5. 05.新しい家 
  6. 06.ロングラン 
  7. 07.ロッケンロールバンド 

音頭からサイケデリックまで――ボタンが描く予測不能な音楽の風景 

2番手は、2番手は、下山晃生(Vo. / Gt.)、本多然心(Gt.)、藤井亮哉(Gt.)、藤本一花(Ba.)、大竹生眞(Dr.)からなる京都発の5人組バンド、ボタン。3本のギター、ベース、ドラムという編成を生かした幅広い音楽性と、予測のつかない楽曲展開が魅力だ。「我々、京都から車を飛ばしてきました。それではいきますよ~!」と「おむすび音頭」へ。音頭のリズムとシンプルなメロディーを軸にする中で、下山はスポークンワードのようなアプローチも見せる。続く「君はいいやつ」では、本多と藤井がコーラスをとり、サイケデリックなサウンドを展開して、楽曲の多彩さを見せる。下山は表情豊かに歌声を放つ。声だけでなく、顔でも歌うタイプだ。たゆたうようなサウンドスケープからオーセンティックなギターソロを聴かせたイントロで、一瞬で観客を楽曲にひきこんだ「花びら」。下山は、ビートに必ずしも律儀に収まろうとせず、言葉を少し引き延ばしたかと思えば、次のフレーズでは軽く放り出すように歌う。語尾の力の抜き方にも独特の癖があり、メロディーが話し言葉へと近づく瞬間がある。しかし、その自由な節回しが演奏から浮いてしまうことはない。リズム隊が一定のビートを保ち、ギターが細かなアクセントを加えることで、歌の揺らぎがむしろ心地よいグルーヴへと変わっていくのだ。整ったメロディーを正確に歌うこととは異なる、言葉そのものの抑揚を音楽に取り込んでいるように思った。MCでは、ボタンにとってこの日が初めての東京ライブであると同時に、初めての関西以外でのライブであることに触れる。フロアから拍手が起こる。話し始めた下山はすぐに話をやめ「もっと聴かせたい曲がいっぱいあるんですよ!」と観客を笑わせ、次の曲へ。「笑い話」。ワルツを思わせるリズム。その滑らかなグルーヴに、観客もステージ上のメンバーも、揺れるように反応している。ボーカルの自由な節回しを、楽器が追いかけるような場面もあった。「最後に好きな曲やって終わります」と「団地のあの子」へ。カントリーロックの趣のあるアップチューン。ギターとベースがコーラスをとる。エンディングでは、メンバーそれぞれが熱量のある演奏とパフォーマンスを見せ、フロアから喝采があがった。 

setlist

  1. 01.おむすび音頭 
  2. 02.君はいいやつ 
  3. 03.花びら 
  4. 04.笑い話 
  5. 05.団地のあの子 

細やかなアンサンブルに宿る遊び心――どっちつかズが切り拓くニューレトロの可能性

3番手は、2024年に結成され、東京を拠点に活動する4人組バンド、どっちつかズ。遠藤晃(Gt. / Vo.)、井手将人(Gt.)、和氣彩奈(Ba. / Vo.)、長谷川遼(Dr.)からなり、オールディーズやギターポップ、ロックンロールなどを咀嚼し、独自の感覚でアップデートしたような“ニューレトロ”なサウンドが特徴だ。1曲目の「横目」は、ポップなメロディーと、コーラスとの掛け合いも楽しいポップナンバー。ドラムのダイナミックな演奏でつなぎ、次曲「短所(タマにキズ)」へ。マージービートとホットロッドロックを組み合わせたような痛快な1曲。フロントの3人が一斉に歌ったり、上手のギターが途中でタンバリンを叩いたりするなど、バンドの自由度とスキルを軽快なビートに乗せて見せていく。「生活の全てが僕を邪魔している!」では、歌のユニゾンやコーラスが効果的に使われており、彼らが普段から熱心な音楽リスナーであることが伺えた。MCでは「いいイベントですね。超楽しんでます。めちゃくちゃ気合入ってます」と語る。続く「眩しい」では、<眩しすぎて>という短いフレーズの中で“止め”と“勢い”の見事なコントラストを表現し、このバンドの伸びしろを印象付けた。ベースの和氣が透明感ある声でメインボーカルを務めた「コイン」。ヘッドボイスのような高音域を出した直後、中低音域に下りてきても安定したチェストボイスを聴かせる。「ごめんね」ではメロディーの持つ柔らかな表情がバンドのアンサンブルで包容力に変わっていった。間奏でニューウェイヴのようなギターを聴かせた「スケアリー・ゴースト」、歌詞とメロディーのマッチングで遊び心を見せた「ぶちねこ」と続き、最後は「手中」を披露。曲ごとに音楽的な表情を変え、それをひとつのステージとして滑らかにつなぎながらも、一貫していたのは楽器同士が互いの音に反応しながら演奏を進めていく姿勢だ。懐かしさを感じさせるメロディーの裏側には、細やかなアンサンブルの工夫がある。各パートが細かく動いているにもかかわらず、聴き手にはひとつのポップソングとして届く。その絶妙なバランスに、彼らの音楽的なセンスが表れていると思った。 

setlist

  1. 01.横目 
  2. 02.短所(タマにキズ) 
  3. 03.生活の全てが僕を邪魔している! 
  4. 04.眩しい 
  5. 05.コイン 
  6. 06.ごめんね 
  7. 07.スケアリー・ゴースト 
  8. 08.ぶちねこ 
  9. 09.手中 

音の引き算から爆発的な演奏まで――白い犬が体現した情熱の表情

トリを務めたのは、2024年に結成された東京発の白い犬。田尾結希(Vo. / Gt.)、もえか(Ba.)、斉藤(Dr.)からなる3ピースロックバンドだ。ギター、ベース、ドラムという最小限の編成で、ロック文脈の衝動とメロディアスな感覚を同時に鳴らすバンドである。「こんばんは、白い犬です。よろしくお願いします」という言葉から、1曲目「ただ愛を (ライブ ver.)」へ。柔らかな木漏れ日のような印象を受ける音源とは異なる、一音一音に迫力を加えたダイナミズムがある。興味深かったのは、彼らのパフォーマンスを観ていて、ただ単に音源とライブをわけているのではなく、その日、その場所に合った音で楽曲を鳴らすことを優先していることだ。最初の1曲から、楽曲に対するスタンスを提示できる実力を垣間見た。続く「白い犬のテーマ」では、リズム隊がアイコンタクトを取りながら土台を作り、3ピースならではの直線的なロックサウンドを響かせる。マッドチェスターの趣を感じた「まわる」では、エネルギッシュなバンドアンサンブルを見せたイントロとは対照的に、歌は語り掛けるような発音で言葉をメロディーに乗せていく。緩急をつけるのがじつにうまく、メンバー同士の呼吸もぴったり合っている。「白い犬です」と挨拶。「いいバンドばっかりでめっちゃ楽しいですよね」という言葉に拍手が起こった。ドラムが椅子から腰を上げ、田尾に視線を送りながら呼吸を合わせて「花束」へ。田尾とベースのもえかのボーカルが浮遊するようにサウンドレイヤーの中を行き来し、楽曲を広げていく。疾走感あるアップチューン「春」では、短いフレーズを畳みかけるようなボーカルが、曲にスピードを加えていく。声を張り上げることで生まれる切実さと、メロディーが持つ叙情性。その2つがせめぎ合うように響いていた。<君はうつむいて、笑った>という最後のワンフレーズとともに、アウトロなしで終わる大胆な構成に“引き算の良さ”を、既に知っているバンドだなと思った。最後のMCへ。「平日にありがとうございます。水曜日っすね。飲んでくださいよ、僕も終わったら飲むんで(笑)」と笑う田尾。ガレージロックやパンクを彷彿とさせる「ロックンロール」では、イントロで3ピースのダイナミズムをしっかり見せる。サビでは、田尾の歌にもえかが加わり、男女のツインボーカルのような華やかさを描く。間奏。田尾はギターの速弾きで超絶テクニックを披露。ライトハンド奏法のような速弾きだったが、実際にはそうではなかった。こんなことが目視で確認できるのもライブハウスだからこその魅力である。間奏が終わると、田尾は目を見開くようにして叫ぶように歌った。ラストの「芹ヶ谷公園」へ。シンガロングが起こりそうなメロディライン。観客からもクラップが起こる。もえかがメインで歌っていく中、ワンフレーズだけフックのように田尾の歌声が入る。そしてサビは2人が一緒に歌う。バンドサウンドと歌声で、熱量をマックスまで振り切り、絶頂の中でアウトロへ。田尾がステージセンターでギター小僧のようにギターを弾きまくり、ヘッドバンキングのようなパフォーマンスも飛び出す。もえかと斉藤も、アグレッシブな演奏で田尾に応えた。白い犬のサウンドには、1曲の中で物語性と感情の質感の変化がある。メロディーには単純な明るさや暗さだけでは捉えられない、揺れ動くような感触があるし、田尾の歌声も、声を張り上げる場面と力を抜く場面で質感が変わる。楽曲に込められた感情の振幅を体現できるバンドだと思った。 

setlist

  1. 01.ただ愛を(ライブ ver.) 
  2. 02.白い犬のテーマ 
  3. 03.まわる 
  4. 04.花束 
  5. 05.春 
  6. 06.ロックンロール 
  7. 07.芹ヶ谷公園 

弾き語りを中心に開催されてきた『まどか』が、初めてバンド編成のアーティストを迎えた今回。4組の演奏を通して見えてきたのは、バンドがどのように音楽に対峙するかによって、例えばギターポップ、ギターロックでも、まったく鳴らし方が違っていることだ。同じバンド編成であっても、何を中心に据え、どのように音を重ねるかによって、音楽の表情は大きく変わる。歌を支えるためのアンサンブルもあれば、楽器同士の掛け合いそのものが楽曲を動かしていく演奏もある。音を重ねることで生まれる豊かさと、音を削ぎ落とすことで際立つ感情。その両方を感じられる一夜だった。 

『まどか』が大切にしてきた、音楽を通じて新しい出会いを生み出すという姿勢は、今回の試みによって新たな広がりを見せた。 

取材・執筆:伊藤亜希
撮影:山田耕平 

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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