tossed coin ~supported by Eggs~
- 日程
- 2018年8月5日(日)
- 場所
- 渋谷HOME
- チケット
- ENTRANCE Charge Free (2Drink Order+投げ銭)
- 出演
- all about paradise / sone+JitteryJackal / babaroa / Via tov
Text:中村圭汰
Photo:ゆうばひかり
3回目の開催となった今回の『tossed coin』は、生憎の悪天候にも関わらず、素敵な音楽を求める多くの人で埋め尽くされた。五月雨降りしきる中、素晴らしきアーティスト達はここ渋谷HOMEを温かな陽だまりのような空間に変えてくれた。
SEが鳴り止み、初めの一音が鳴るまでの沈黙。そこには大きな期待感と張り詰めた緊張感が同等の割合で会場を満たしている。
1番手としてステージに上がったLambはそんな緊張感さえも逆手にとり、その胸の高鳴りを緊張から興奮へと切り替えていった。彼らの魅力は、「言葉を持たない」というインストバンドの性質を最大限に生かして感情を最短距離でぶつけてくるところにある。言葉に変換するまでに失われてしまうリアリティが損なわぬよう、心の中にある感情の出処に直接プラグを刺して吐き出す。彼らのライブにおける楽器とは肉体そのものであり、込み上げる感情の代弁者でもあった。
後半につれてそのエモーショナルな演奏に拍車がかかる。『Passion』ではその言葉通り情熱的で叙情的なライブパフォーマンスを見せた。乱れるモーション、滲む汗、歪んだ表情。感情を吐き出す時に伴うそんな副作用さえも、彼らのライブにとっては重要な音楽的要素として観客の心を震わせた。
クリーントーンのギターから始まり、Mogwai並みの轟音へと姿を変えたラストナンバー『Look of the sky』。混沌とした音の中には、脆くも力強く、醜くも美しい表裏一体の感情が渦巻く。抑えきれない雄叫びが地声のまま会場へ響き、魂を削るようなライブを終えた。
会場は沢山の人の熱気によって湿った空気が全体を覆う。そんな中、大きな歓声とともにLOOP POOLはステージ上に姿を現した。
ハイトーンで鳴るガットギターのオーガニックなサウンドは吹き抜ける風のように爽やかに響く。彼らの音楽には、自然的で開放的な要素が詰まっている。音一つひとつの粒子はとても繊細で、目に見えるほど鮮明な輪郭を持っていた。
ライブ中盤、SenkawosよりEri Ito(Per.)、Takenori Oshima(Gt.)がスペシャルゲストとしてステージへ。ジャムセッションのような即興性を感じる演奏に誰もが否応なく身体を揺らす。そこには自発的な音楽への反応があり、観客一人ひとりはそのセッションへの「参加者」だった。
ラストを飾ったのは『Evergreen』。思わず口ずさみたくなる軽快なギターフレーズと包容力のあるリズム隊が会場を大いに盛り上げ、ステージを締めくくった。
ライブを終えると観客の一人が「LOOP POOL、圧倒的な安心感だよね」と口にするのが聞こえた。そうか、安心感か。彼らの音楽には、その出で立ちには安心感がある。その安心感を裏付けるのは確かな技術と三位一体のバランス感、そして肩肘を張らず音楽を楽しむ姿勢にあるような気がした。
『ユートピアへ』からZA FEEDOのステージは始まる。近未来的な印象を与えるシンセサイザーのサウンドと、新鋭的かつ緻密に計算されたアンサンブルはどことなくSF映画のイメージを想起させる。まるで誰も知り得ぬ未知なる音楽世界に観客を連れ去ってくれるみたいだ。
「こんばんは、ZA FEEDOです」Vo.沖メイが軽やかに挨拶すると、彼女の手拍子に観客が応え、次曲『You will be there』へ。異国情緒ある個性的なメロディーには仄かに懐かしさが香る。エフェクトされたボーカルの声はこの曲の世界観を決定付ける重要な役割を担っていた。
演奏された楽曲の中で一際煌めきを放っていたのは『ソバカス』。ポップスとしての素質を十分に携えながらも、効果的に組み込まれた質感豊かな音色には強い中毒性がある。そこに潜む実験的な要素は、推進力のあるメロディーが仲介役となって見事なまでの統一感を生み出していた。ZA FEEDOの音楽は一つひとつの音にフォーカスしても沢山の発見がある。それでいて、軸に流れる大衆性は聴く者に対し直感的な心地よさを与えてくれた。そこに彼女達の魅力がある。そう再確認させてくれた夜だった。
このイベントで異質の存在感を放ちながらも、卓越した技術とインストの新しい可能性を見せつけたSleeping Pola。彼らの楽曲が持つ展開のダイナミックさやテクニカルな高速リフにはアニソンやボーカロイドのエッセンスを感じる。日本国内において決して大衆的とは言えないインスト音楽。そういった中で、敢えてサブカルチャー音楽に目を向け、サウンドに特化したインストとして昇華させる彼らの試みは面白い。
ライブ終盤に披露された『heisa』では、イントロのミュート部分でボーカロイドに似た声が入る。そこから一気にギアを上げ、電光石火の早弾きギターがパワフルなドラムに支えられながら自由に動く。同期音のピアノはドラマチックな旋律を奏で、変則的なバンドサウンドをより躍動的に響かせていった。
あどけないMCを短く挟み、ラストナンバー『kuuchuubunkai』へ。アグレッシブな演奏は、音の波状攻撃のように観客へ襲いかかり、最後の一音まで攻撃の手を緩めることなくライブを終えた。
今回のtossed coinを締めくくったのはSenkawos。1曲目『Flying Tortoise』から丁寧に音を紡ぐと、会場は一気に彼らのホームとなる。寸分の狂いなく交わるバンドサウンドの中で、コンガの乾いた音は重要なアクセントとして効力を発揮。血の通った柔らかな温もりとハンドメイドのグルーブ感を生み出していった。
続く『Night in Koza』、『Function』と彼らは様々な顔を見せる。捉えようが無いほど柔軟な音楽性は魅力の一つであり、そこには自由奔放な音楽への愛が溢れていた。
そんな彼らのライブは、終始お祭りのようだった。それは、単なるお祭り騒ぎという意味合いではなく、遥か昔から音楽が果たしてきた「繋がる」という役割を見事に全うしていた。人と人の間を音だけが介在し、その結びつきが範囲を広げ会場全体を繋いでゆく。音楽に対する個々の理解を超えて、単純明快な「楽しい」という感情その一点で繋がることの出来たライブだった。
日曜の憂鬱な夜にとっておきの音楽を届けてくれたSenkawos。打ち上げ花火が残す白い煙を夜空に見るように、彼らの去ったステージには音の残像があった。
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