☆tossed coin ~supported by Eggs~
- 日程
- 2018年10月7日 (日)
- 時間
- Open 18:00 / Start 18:30
- 場所
- 渋谷HOME
- 料金
- entrance free (※Another:2Drink order & donation)
- 出演
- birds melt sky / nica / Mime / Chapman / hyca
- 主催
- Eggs / 渋谷HOME
Text:中村圭汰
Photo:ゆうばひかり
8月の開催となった今回のtossed coin。
メディアが連日、記録的な猛暑を報道する中、記録的な熱気がここ渋谷HOMEにあった。
現役女子大生の4人組ガールズバンド「babaroa」眩しい肩書きと愛らしいバンド名から連想されるイメージは、最初の一音でいとも簡単に裏切られた。もちろん最大級の褒め言葉として、良い意味で。
1曲目に披露された『iv』は、艶やかな円熟みのあるサウンドが印象的なアダルトなナンバー。熟練した大御所バンドが持つであろう深みのあるグルーヴをこの若き4人はいとも簡単に鳴らしてみせる。煌びやかなメロディーをキーボードの旋律が先導し、纏わりつくギターサウンドで観客の心を一気に攫っていった。エキゾチックなラテンサウンドを踏襲した次曲、『Hibiscus』は緩急のある展開と、極上のポップさを兼ね備えた名曲。観客の顔に浮かぶ笑顔は、溢れ出る幸福感と素敵な驚きの二つの意味を含んでいるようだ。
彼女たちのサウンドからは感度の高い音楽的センスを感じる。それでいて、小手先だけのお洒落さが先行することなく、自然体で鳴っているような印象を受けた。それは、彼女たちが聴いてきた音楽の文脈が自らのフィルターを通して吐き出されているからだろう。
恥じらいの笑みを浮かべながら「最後、ブチ上げにいくので。」と宣言。続く『kan-kan』はファンク色全開の攻撃的なナンバー。その勢いを切らすことなくラスト『C.M.R』では、パートが激しくぶつかり合うことで上昇気流を巻き起こし、沸点を振り切るようなライブパフォーマンスを魅せてステージを終えた。
日本の音楽シーンの歴史において、ガールズバンドの存在感は年々増している。そんな中、彼女たちはある種どの類にも分類されない、新しいガールズバンドの形を提示した。
いや、そんな堅苦しい解釈は似合わない。彼女たちは最高にキュートで最高にかっこいい。
エフェクトの効いた歌声がアカペラで会場に鳴り響く。Vo.Uta Yajimaの息遣いが聴こえそうなほど会場は静まり、観客は息を殺しその音に耳を澄ませた。Via tovは静寂の先からやってきた。
滑らかに、流れるように『Feel Like Crying』へ繋ぐと、会場は輪郭の揺らぐ抽象的な世界に包まれる。放たれる音、その一つひとつに断片的なメッセージが潜んでいて、曲が終わると確かな実像が浮かび上がるようなイメージ。どこまでも広がるシンセサイザーの音とタイトなドラムサウンドが楽曲を最も美しいバランスで保っていた。
彼らはこの空間に緻密に音を積み上げながらも、次の音を待つ静寂と、シャボン玉みたいに浮かぶ残響を自在に操る。彼らの音楽にとってその余白は重要な「音」としての役割を果たしていた。
そうかと思えば『Friends』では一変して、オーガニックな印象を受ける。流れるように進んでゆく馴染みよいメロディーには複雑な装飾がなく、鍵盤の滑らかで丸みのあるサウンドがこの曲の印象を支配していた。今までの音よりも遥かにこちらに近い場所で鳴っているような気がした。
続く、『St.James』ではサックスが加わり、躍動的かつフィジカルな印象を与え、バンドのギアを上げる。高まる感情が音とリンクして躍動感を増していくのが目に見えて伝わってきた。
激しく打ち鳴らされるドラムを皮切りに始まったのは、ラストナンバー『What will come?』ストレートな進行と叙情的なメロディーからはロックバンドの片鱗を感じる。アグレッシブなバンドサウンドを目一杯会場に響かせ、繊細さと力強さの両面をこのライブで見事に表現したVia tov。ここ渋谷HOMEに確かな爪痕を残し、ステージを後にした。
続くは、コラボユニット「sone+jitteryJackal」JitteryJackalが壮大なサウンドスケープを映し出した世界に、Soneがゆっくりと足を踏み入れる。演者2人がステージ上に揃うと、展開は一気に加速。疾走感溢れるアップチューン『bible』を投下し、観客をダンスフロアへと誘う。ドラムンベースのサウンドが風を切るような勢いを与えながらも、その裏には切なさを孕んだリリックが潜んでいた。彼女たちのライブは、そんな感情をきちんとすくい上げながらも、曲の高揚感を一切落とすことなく展開される。むしろ、トラックそのものが持つ高揚感とVo.Soneの切なさを孕んだ歌声は楽曲をより立体的に組み立てていった。
『plan』『mothership』と重低音を軸にしたダンスチューンを立て続けに披露し、会場のボルテージを一つずつ、確実に上げていく。単調な四つ打ちではなく、スリリングかつドラマチックなトラックは、音が細胞分裂を繰り返し、曲を成熟させているようだった。
ライブが終盤に差し掛かるタイミングで観客に届けられた『SOLT』は、このライブでのハイライトとなりうる1曲。スティールパンに似た高音が引き連れてきたリフレインするメロディーは聴き手の懐に飛び込んでくるように親しみ易い。そこに乗るメッセージ性の強い歌詞と、感覚的に響いてくる語感の良い言葉の組み合わせは実に絶妙で、強い中毒性があった。
彼女たちが最後の一曲に選んだのはミディアムテンポのバラード『dreambreaker』。スピード感と重低音が織りなす高揚感を超えた先に描いた景色は、彼女たちが最初に鳴らした、あの壮大なスケール感の延長戦上にあった。彼女の歌声はその広大な音の海の中を力強く、どこまでも先へ延ばし、美しきフィナーレを迎えた。
今回、ラストのステージを飾ったのは「all about paradise」リラックスした表情でステージへ姿を現すと、SEが鳴り止むや否や間髪入れず『Another Beach』へ。独特なタイム感で絡まり合うギター2本の音色が混沌とした空気を流し込み、カウベルの特徴的な音がよりミステリアスな雰囲気を助長する。Vo.サトーカンナが歌う『楽園への入り口』という歌詞には、これから始まるライブへの暗示的な意味合いを含んでいるようにも思えた。
軽快なドラムと印象的なギターフレーズから始まった『7.7.7』は、エッジの効いた攻撃的なダンスナンバー。5人が織りなすアンサンブルは圧倒的な音圧でフロアに押し寄せてくる。観客を煽る跳ねるビートに呼応するかのように、メンバーからは時折笑みが溢れた。その姿は彼女たち自身が音楽を楽しんでいる何よりもの証明であり、そのスタンスは自然と観客へと伝播していった。
そんな観客との繋がりをより強固なものにするかのように、抜群のメロディーセンスが光る至極のポップソング『2020』を披露。角の取れたギターサウンドに近未来を感じるシンセサイザーの音色。複雑に絡まる実験性の高いサウンドチョイスは、この曲の根底にある「ポップさ」の上で自由自在に動き回っていた。
実験性も、危うさも、気怠さも、その全てをポップスに昇華できるのは彼女達の大きな持ち味だ。
「あっという間に30分が過ぎて、最後の曲となりました。」Vo.サトーは名残惜しそうに最後のMCを終えるとフィナーレを『Homemade Sunset』に託す。視界が開けていくような爽やかなサビで歌うファルセットは心の底から浄化されるほど麗しい。オールディーなサウンドのギターソロはセンチメンタルな感情を沸き起こし、最後の最後まで「音」に身を委ねるライブを全うした。
曲が終わり、拍手が鳴り止む。そこにはall about paradiseが音楽で築き上げた『楽園』が広がっていた。
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