Text:中村圭汰
Photo:塚本 弦汰
2018年最後の開催となった今回のtossed coin。忘年会的な盛り上がりを見せながらも、忘れられない夜になった。
バスドラムとスネアから構成されるシンプルなビートから始まったsikisiのステージ。モノクロのスケッチに色を加えていくように各パートが明確な役割を持って音を足してゆく。なめらかなハスキーボイスでゆるりと歌う声が1曲目の“S Pass”に命を吹き込んだ。
気怠さの香るラップと抽象的な音が印象的な“Super Blue”。絡み合うことで生まれる浮遊感にシャープなドラムサウンドがダイナミクスを巻き起こす。
“KNYD”は疾走感のあるメロディーが印象的なナンバー。その推進力はイメージとしての光跡をステージ上に描き、プレイのニュアンス一つひとつが手に取るように伝わってくる丁寧なステージを見せた。
ほとんどMCを挟むことなくライブは最後の曲“High low”へ。角の取れたギターサウンドから変則的なリズム。そこに覗く音の余白。全てのバランスが数学的に計算されているかのように、緻密で完璧に整っている。サビのメロディーラインはセンチメンタルになりそうなほど美しい。
彼らのライブは共通項一点を見つめるのではなく、観客一人ひとりの内省的な感情をこの空間で共有するような時間であった。同じイメージを共有するのではなく限られた時間の中で、一つの『作品』としてのライブを全うした彼らは、何かの問いだけを残してステージを後にした。
続くは、TOKYO CRITTERS。観客席は彼らを待ち望む人々で埋め尽くされていた。横並びにポジションを取る3人の異なる個性がセッションのようなライブを繰り広げる。
爆発的と言っても良いくらいのエネルギーを持った“Summer day”。12月という寒さが堪えるこの季節に敢えて夏の曲を披露したのも彼ららしい。夏の日々を思い出すというよりかは、この数分間は季節さえも覆して「真夏」に引きずり込んでしまう力があった。
そうかと思えば、槇原敬之の「冬がはじまるよ」を全く新しい解釈でカバーして観客を沸かせる。彼らは『楽しい』という感情が伝播していくことを知っていた。この瞬間を目一杯楽しむ姿は観客との距離を大胆に縮めてしまう。ゆるく、近い距離感で展開されるMCからは彼らの人柄が滲み出ていた。
エンジン全開の彼らは、“DANCER”、“GOLD FISH”を更にギアを上げて披露。ソウルフルに歌う菅原、煌めくポップさを体現するルンヒャン、自然体なフロウが心地よいZIN。彼らが三位一体となったTOKYO CRITTERSのエネルギーは凄まじい。
ライブが終わると観客は目を輝かせながら近くに居るの友人達と幸せを共有している姿が目に映る。彼らのキャラクター、言葉、音楽。その全てがエンターテインメントであった。
ukoのライブは歌声に、音に、溶け込んでいくような感覚になる。
しなやかに伸びるパワフルな歌声から“東京サタデーライツ”が始まった。弾むリズムにキュートな笑顔を見せながら、心を解放するように歌う姿は新たな歌姫の出現を予感させる。
続く、“マドンナ”は無駄の削ぎ落とされたタイトなサウンドで踊れるポップスを表現した1曲。
リフレインする印象的なサビのメロディーは一度耳にすると頭から離れない強い中毒性を持っていた。
「明日からまた月曜日が始まりますけど、今は忘れて楽しんでください」ステージ中央に位置を変え、そう話すと続く“Magic”へ。
はつらつとした彼女の印象そのままに、身体を大きく揺らしフィジカルなステージを見せる。コールアンドレスポンスを交えながら、観客全員を同じベクトルに導いていった。
あっという間にラストを迎え、最後の曲“Me”。曲に溶け込んだり、包み込んだり、突き抜けたり。ソロシンガーとして鍛え上げられた彼女の表現力を如何なく発揮。
音符の上を踊るような軽快さと息を飲むような力強さ、その両面を見せつけると、フェードアウトしていく歌声とともにステージを終える。表現者としての魅力が詰まったライブを見せてくれた。
今回のトリを飾ったのはecke。ブラックミュージックの影響を色濃く受ける彼女達だが、1曲目の“ACCESS”から親しみやすいメロディーを観客に投げかける。
懐かしきJ-POPの息吹を感じる“Classic”は、叙情的なメロディーラインが印象的な1曲。大草原を吹き抜ける風のような澄んだファルセットもアダルトな吐息交じりの歌声もその全ての要素が「ecke」という音楽の舵を取る。
ライブも終盤。今後の活動について、「今日からしばらくライブを辞めます。ただ、来年はリリースをたくさんしようと思っています。」そう告げると、ライブ活動休止前最後の曲“TRICK”へ。
心地よいグルーヴ感と細かく打ち込まれたドラムのビートに乗せてアクセルを踏み込むと、一気に最後の音まで駆け抜けて行った。
アンコールの拍手を受け、再びステージへと上がったecke。
「8月にベースが抜けてしまって。そのメンバーが作った曲をやりたいと思うんですが。今年の締め括りとしてもう一度この曲をやります。」
そんなMCから始まったのは、1曲目に披露した“ACCESS”。怒号のように打ち鳴らすドラムの音も、歪んだ音を撒き散らすギターサウンドもさっき聴いたよりも攻撃的で、アグレッシブだった。
この曲だけは観客というよりも、彼ら自身を鼓舞するようにも見えた。その姿が何よりも胸を打つ。ライブとしての肉体性をフルに活用したパフォーマンスを終えると、
「ロックバンドのeckeでした。」
Gt.Okuyamaが茶目っ気たっぷりに言う。しかし、最後のその曲だけは確かにロックだった。ロックバンドだった。
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