Text:中村圭汰
Photo:塚本 弦汰
音楽を簡単に聴くことのできる今の時代において、私たちはどれだけ心に残る音楽に出会えるだろうか。耳だけでは感じ取ることのできない音楽をいくつ知ることができるだろうか。4月14日(日)に開催された今回のtossed coinでは、5組の素晴らしいアーティストが心に残る、五感を震わせるライブを見せてくれた。
イベントの幕開けは、4人組City POPバンド、YONA YONA WEEKENDERS。彼らの奏でる音からは快楽物質が出ているみたいだ。そう感じさせるほど、音が心地よい。“誰もいないsea”から彼らのステージは始まる。シンプルなビートながら、柔らかく、温もりを感じるポップソングだ。旋律は聴き手の身体にすんなりとフィットし、無意識に身体を揺らしたくなる。
“R.M.T.T.”は、洒脱なギターフレーズと包容力のあるVo.磯野くんの歌声が印象的なナンバー。キレのあるビート感と、鋭いブレイクが観客の高揚感を煽っていく。
「お酒の進むバンドばっかりなので、沢山飲んで楽しんで帰って下さい。」
MCでそう語ると、次曲“東京ミッドナイトクルージングクラブ”へ。彼の言うお酒の進むバンドとは、“音楽で酔わせることのできるバンド”のことを指すのかもしれないとこの曲を聴きながらふと思う。難しいことは考えず、ただ身を委ねて楽しむことのできる音楽。そういう意味で、彼ら自身もまさしくお酒の進むバンドだ。
ラストナンバーは“今夜はブギーバック”の一節から始まった“明るい未来”。良質なグッドメロディーで観客を魅了すると、ギターの小気味よいカッティングの音を最後に彼らのステージは幕を閉じる。彼らの音楽は極上の“おつまみ”でもあり、音楽そのものがアルコールのような、そんな気がした。
続くは、TOKYO QUARIANS。照明の明かりはステージを赤く照らし、鬼気迫る危うさを演出する。空気を歪ませたみたいな深く重たい低音と力強く伸びる歌声がこの会場を満たした。バンドの特徴を語るとき、「様々なジャンルを取り入れた」という表現がある。TOKYO QUARIANSに関して言えば、単にジャンルという垣根を越えたというだけでなく、根底にある概念そのものからひっくり返したような、唯一無二のサウンドを持っていた。
“NEVERSTOP”では、重たく芯を射抜く正確なキックがグルーヴを生み出す。ファンク色を纏いながらも一筋縄にはいかない、音の質感と不規則な展開。捻りのあるメロディーは聴き手の冒険心をくすぐってくる。
“Same Stuff”は、滑らかに、時に突き抜けるVo.Sakieのヴォーカリストとしての強さを感じるナンバー。曲に必要な感情を適切に選び取るだけでなく、個性的なサウンドに対して、存在感をもって先導していった。圧倒的な世界観を見せつけた彼女達のライブも、最後の曲“F”へ。作り込まれたという印象よりも、音の重なりや組み合わせが実に自然的で、異質な音も違和感なく受け手に届く。刹那的な鍵盤のフレーズはダークな印象に奥行きを与え、ラストに向けてよりエモーショナルな歌声を会場全体に響かせていった。
歌を持たないインストバンド、kakite。言葉は多くのことを分かりやすく提示してくれる。しかし、その言葉に頼らずとも幾通りもある物語や感情は伝えることができる。それを彼らはライブの中で見事に伝えて見せた。滑らかなギターフレーズから始まったのは“predawn”。大胆に展開を切り替えていきながら、全ての音が連動し、その一体感がグルーヴへと昇華されていく。
軽快な鍵盤のフレーズが印象的な“three days”は、ハイハットの合図で曲の疾走感を一気に加速。ギターと鍵盤は旋律の主導権を次々に切り替えながら、ギアを上げていった。彼らの音楽は、各パートの音が目に見えるほどはっきりとした輪郭を持つ。
“yokohama song”は、今までの雰囲気とは一転、エッジの効いた攻撃的なサウンドと、踊れるビートが光るダンスチューン。印象的なフレーズの数々は耳に残り、口ずさみたくなる。まるで、楽器そのものが歌を歌っているみたいだ。
「ありがとうございました。ラスト、newという曲です。」
最後の曲でも、各パートの演奏スキルの高さを惜しむことなく発揮し、乱れ打ちのような展開を超え、彼らのステージを終えた。
ほとんどMCを挟まず走り抜けたkakite。ただひたすらに音に全てを詰め込んだライブを見せてくれた。
「yardlandsです。よろしくお願いします。」
靄がかかったような低音のベースに乾いた8ビート。透明感の中に影を感じるVo.このはの歌声。1曲目に披露された“fragrance”から、会場のムードは大きく塗り替えられた。
浮遊感のある世界の中を漂うように歌うと、続く“body”では、削ぎ落とされたミニマムなサウンドの中に、壮大なサウンドスケープを描き出す。大きなアップダウンは無くとも、じっくりと聴き手の懐に入っていく感覚があった。彼女の歌声にはどこか冷たさを感じる。それはネガティブな意味合いではなく、冷静な視点から言葉を紡ぐことで、押し付けるのではなく問いかけるようなニュアンスで受け手に届く感覚があった。
そうかと思えば、“triple”では肉体的なビートに応えるようにVo.このはの歌声は熱を帯びる。鋭い眼差しや髪を掻き上げる仕草はyardlandsの奏でる音楽の世界観を具現化しているみたいだ。凛とした姿の中に燃ゆる強い信念のようなものを感じる。そんな熱気をそのままに、最後に披露された新曲は攻撃的なアッパーチューン。骨太なドラムサウンドと感情的なギタープレイが力強く曲を推し進め、全てを絞り出すようなエネルギッシュなパフォーマンスを終えた。
「ここに来れなかった人たちが床を叩いて悔しがるくらいの最高のライブにしたいと思います。盛り上がっていきましょう、よろしく。」
Vo.クロのMCから、言葉を置くような歌い出しの“Esp”が始まる。唸るような低音を軸としたサウンドの中、トランペットの音がファンファーレの音のように会場に鳴り響いた。
エキゾチックなリズムがトリガーとなり、観客が自由なステップを踏む“Morse”。カラフルな照明がステージを照らし、サビで一気に視界が開けていくような展開に感情が揺さぶられてゆく。
続く、“Fineview”では大入りの会場全体で手拍子が巻き起こり、一体感をもって会場を盛り上げていった。楽しいというエネルギーは共有することでその力が大きくなっていくことが証明されたような気がした。
TAMTAMの音楽は驚きと普遍的な心地よさ、その両方をきちんと備えている。それが、ライブというリアルな体験の中で観客の心を掴み、ここにある沢山の笑顔を生み出しているのだろう。
たたみかけるように色彩豊かな曲を重ね、本編の最後を“CANADA”で締めくくると、彼女たちのパフォーマンスを讃える拍手はそのままアンコールの手拍子へと変わる。
「アンコールありがとうございます。もう1曲やらせて頂きます。」
弾けるような笑顔でステージに戻ってくると、出し惜しみすることなく“pararell penthouse”を今日一番の最大音圧で観客に届けた。入り乱れる楽器と飛び交う声援はまさしくフィナーレにふさわしい大円団のパフォーマンスだった。
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