Text:中村圭汰
Photo:ゆうばひかり
時代は巡り、回り続けるとよく言ったりする。
音楽も同じように、巡り、回り続けている。
新しい音楽は今までの音楽の歴史無くして成立し得ないし、全ては地続きだ。ただ、その過去を肯定したり否定したりしながら、新たなアーティストが自らのフィルターで様々な形に変換することで文化として成熟する。
今回、tossed coinに出演したアーティストは過去と未来を繋ぐ架け橋のよう。懐かしくも新しく、この令和の時代に新たな音楽シーンを、文化を築き上げてくれる期待感を感じた。
ookkのステージ。ookkとは総称であり、個人や団体を指すものでは無いと定義する彼ら。バンドというよりプロジェクト、その一つとして音楽が存在するといった捉え方が正しいだろうか。
電子パッドを一定の間隔で打ち鳴らす。無機質でありながら、肉体的に反響するその音に粘度のある歌声がリンクすると、照明が照らす青がより幻想的で非日常感を演出する。
冒頭の”MENOU”で、「揺られていようよ」と繰り返す歌詞は、隠喩として切なくも深い愛を歌う。
続く、”coral”では男女の異なる声質が跳ねるビートの上で開放的に交錯すると、”lurgee”で空気は一変。しなやかに伸びる声が浮遊感のある音の海を漂う。
「精一杯頑張ります。精一杯、誠実に演ります。」気怠そうな声の奥に潜む真っ直ぐな言葉の持つ意味はその言葉以上に観客へ響いた。
「一番素敵な曲」と紹介して始まった”君がいたら”。彼らにしか描けない世界を普遍的なタイトルの中に詰め込んだ一曲。後半にアグレッシブな歪んだギターを泣き叫ぶように掻き鳴らした。
特異な性質を持つ”ookk”というプロジェクト。彼らは鋭利で突飛な表現をアートに昇華するのではなく、確かな目的意識と想いをシェアするという根本的な通念を強く感じた。
だからこそ人を惹き付ける。だからこそ深く知りたいと思う。そんな好奇心を抱かせてくれるライブを見せてくれた。
ステージに一人、サポートのIsay Kitoが奏でるなめらかな六弦の音色。雄弁で、奥ゆかしく、郷愁溢れるその音に誘われて、メンバーが姿を現す。SLOWBASEのステージが始まった。
言葉が乗ることで彼らの世界観に対しての解像度はぐっと上がり、鮮明な情景描写と心の機微を描き出す。”ハイウェイ”の、ノスタルジー溢れるVo.藤森の歌声はアコースティックならではの人肌の温もりに拍車をかけた。
続くは、浅川マキの”少年”をカバー。時代をタイムスリップしたような感覚と新鮮さが入り混じるのは、Vo.寺前咲恵の澄んだ歌声と洒脱なギターフレーズゆえ。時代を超えて良いものは受け継がれていく。彼らはそれを証明してみせた。
簡単なMCを済ませると、先週リリースしたと話す”くつおと”が始まる。色で表すならセピアのよう。美しい色彩感覚で記憶や思い出を音楽に昇華した。
彼らのライブから感じるのは、孤独さやマイノリティとしての自我。それでいて、自分にしか無い大切なものを守るように堂々と歌う。少し不器用だとしても、その愚直さが何よりも胸を打った。
Vo.藤森の心の叫びとも呼べる歌声は、鼓膜を伝い、身体全身に染み渡り、心を溶かしていく。どれだけ顔を歪めて歌ったとしても、音は笑っていた。
「来年もお元気で」
その言葉を置き土産に熱くも穏やかなステージを終えた。
ラストはVo.lenとVo. Keyさかきばらみなから成る二人組バンド、ジオラマラジオ。サポートメンバーを含むバンドセットで始まったステージは、淡い青春を霞むことなく表現する唯一無二の存在感を発揮した。
王道的なポップソングを独特な歌詞で紡ぐ、“honey/なんて傲慢な…!”。流れ過ぎてゆく時間を憂うだけではない今を生きる力強さをドラマチックなメロディと煌めくサウンドで見事に表現。とにかく耳に残るサビは観客との距離を一気に縮めた。
続くは、芯のあるVo.さかきばらの歌声に絶妙なコーラスワークでVo..lenの歌声が重なる”絵空模様”。抑揚のある展開が観客を引き込むと、“orange”では、重心の低いベース音からバンドサウンドが幾重にも重なり、フルスロットルでエモーショナルを爆発させた。
彼らの音楽は「J-POP」の影響を色濃く受けている。そしてその「J-POP」を、サウンドで、アレンジで、言葉でアップデートしていく。彼らが生きてきた時代の中で受け取った音楽的な感覚は新しい時代の扉を開けていく感覚があった。
最後に披露された”step”も、懐かしさと新鮮が同居するメロディに乗せて普遍的なテーマを歌う。
胸の奥に在る形容し難い感情を爽快で痛快なメロディで吹き飛ばす。疾走感溢れるサウンドが走馬灯に映る胸を締め付けるような記憶をなぎ倒して、最後に優しく包み込むと彼らはステージを後にした。
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