Text:中村圭汰
Photo:塚本 弦汰
今回のtossed coinは初の昼開催。
胸が詰まったり、何かに気付かされたり、無心で音楽に陶酔したり。 5組のアーティストが観客の心を様々な角度から揺さぶるライブがここ渋谷HOMEで繰り広げられた。
シティポップと懐かしきJ−POPとの融合をテーマに掲げる田園都市系シンガーソングライター、米澤森人。彼が今回のトップバッターだ。
エフェクトボーカルが印象的な”CASE”は前向きなメッセージをダンサブルなビートに乗せた一曲。今の自分自身を肯定することで背中を押す歌詞は、多様な価値観の入り組むこの時代において重要なメッセージであり、誰にとっても自分の歌となり得る。
“冬のはじめ”は軽快で疾走感のあるナンバー。日常から切り取られた彼の視点で語られるラブソングはどこまでも真っ直ぐで甘酸っぱい。ダンスビートを軸に据えながらも、鍵盤が奏でる旋律はオーセンティックな日本のポップス「らしさ」を感じさせた。
クラブサウンド寄りの”jealousy Rail”でドープな雰囲気をムンムンに醸し出すと、一転、前のめりなビートで歌う”カップラーメン”へと続く。カップラーメンという日常嗜好品をテーマとして、3分間という切り口で恋愛を歌うセンスには脱帽。サビにはラーメンから連想される中国風アレンジにも彼の音楽への探究心と遊び心を感じた。
続くは、サトーカンナ&グッド・ライフ・フェロウズ。ギター、カホンというアコースティック編成での出演となった彼女たちは、一曲目の“もしも子供ができたなら”から自然体で飾らないオーガニックな雰囲気が会場を満たした。
「ここ渋谷HOMEで演るアコースティックっていいよね。」
Vo.サトーカンナがMCで話すとおり、アコースティックという編成がこの場所、この雰囲気のなかで特別な力を持っていた。音の質感をダイレクトに浴びるように感じる音楽体験は、渋谷という街における陽だまりのようだ。
一番のロックナンバーとの紹介された”はじめての惑星”は、Vo.サトーカンナの力強く伸びの良い歌声がエネルギッシュに響く一曲。彼女のヴォーカリストとしての凄みは、曲のど真ん中でどっしり構えるだけでなく、曲の中へ絶妙なバランスで溶け込めるところにもある。
ラスト、MONJU N CHIE KTY氏がゲスト参加すると、彼の持つエネルギッシュかつ即興性の高いラップとオーガニックなサウンドが至極のグルーブ感を生み出した。
反響や照明、観客との距離感。あらゆる要素がライブを作っていく実感が彼女たちのステージにはあった。
味わい深いあたたかなギターリフから始まったのは福岡で活動する4人組ロックバンド、sancrib。素朴でシンプルな旋律にノスタルジックな歌詞世界を広げていく。
“holiday”という一見陽気なタイトルにも、どこか内省的なムードを纏わせるのが彼ら。決してネガティブな訳ではなく、心の内を素直に言葉にしているからこそリアリティと共感性が高い。
Vo.大川内はMCで緊張を口にすると、「あたたかく見守るってほしい」とハニカミながら”おなじ夜”へ。緊張感を微塵も感じさせない程よい脱力感とメロディが自然と観客の心をあたたかなものへと変えていった。
「雨が嫌だなって曲です。今は何でもないことに一喜一憂しながら生活してる感じです。」
そう言うと始まったのは”雨の日”。ギターの残響が雨の日の陰鬱さを表現すると、何気ない日常の風景を観客にイメージさせるような歌詞を紡ぐ。何でもないことなんて生きてる以上ないのかもしれない。彼らの描く世界の中に、彼らの示すメッセージに自然と引き込まれていった。
彼らのステージは受け手に想像力を働かせる余白を残し、エモーショナルなメロディラインで心の琴線に触れていく。最後の音が鳴り止んだ時大きな満足感を感じるパフォーマンスを見せた。
東京を拠点に活動するポップ・バンド、YOTOWN。彼らのステージには正直度肝を抜かれた。
ミディアムテンポのバラード“dive”で胸を締め付けるような叙情的なメロディをしっとりと歌い上げると、タンバリンの軽やかな音色が印象的な”Bubble”へ。重心の低いブラックミュージックのサウンドを基盤に煌びやかな音の重なりでダンサブルに仕上げた一曲。
Vo.Yohey Suzukiのこぶしの効いた独特な節回しとソウルフルな叫びは、彼らのアイデンティティを強固なものにする。歌謡曲としての日本のポップスでも単なるブラックミュージックのリバイバルでもない。見事なバランスが生みだす化学反応はもはやある種の発明だろう。
”cha cha”でもそんな踊れる音楽を、何より彼ら自身が楽しそうにステージで表現する。時折、Vo.Yoheyがジェームスブラウンを彷彿とさせるような軽やかで情熱的なステップを踏めば、ファンキーなギターサウンドがさらに曲を煽り上げる。そうかと思えばMCの口調や曲の終わりに見せるお辞儀が纏う貫禄はまさしく歌謡スターのようだ。
「ジャンルを超えた」とか「様々な音楽的要素を」といった常套句で音楽が語られることが多い昨今において、彼らは圧倒的に新しい音楽の扉を開いていた。
今回のトリを飾るのはDannie May。彼らの音楽は大衆歌だ。ジャンルを超えて、初めて聴いたその瞬間に全員の心を射抜いてしまうだけの力を持っている。
ライブ冒頭から彼らはコールアンドレスポンスで観客を煽る。観客の懐にすっと入り込むと、観客からのレスポンスを合図に「暴食」が始まった。都会的なミクスチャーサウンドに抜群のリズム感でVo.マサが攻撃的な言葉を吐き出すと、次曲”今夜、月のうらがわで”はとろけるようなファルセットで歌うディスコナンバー。会場から手拍子が巻き起こると、懐かしくも今の時代に相応しいダンスミュージックが彼らによって鳴り響いた。
“ユートピア”では、バンドとしてのアンサンブルの心地よさに身体を揺らし、歌詞の世界でイメージを膨らますことでここにいる全ての人が繋がっていく。待ってました、と言わんばかりのサビの高揚感と口ずさみやすいメロディは観客の身体に溶け込んでいった。
音楽をジャンルや理屈で語ることを無力化することができるのがポップスなのかもしれない。大衆へ届く圧倒的強度と曲ごとに違った顔を見せる柔軟性を持つ彼らは何にも縛られていない。だとするのならば、ポップスとはタフだ。彼らのステージを見て、そう感じた。
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