Text:坂井彩花
Photo:MASANORI FUZIKAWA
明治学院大学内にて結成されたジョゼというバンドは、2017年に結成7周年を迎えた。メンバーチェンジも経て越えてきた7年という月日は、彼らが愛用しているセブンスコードのように一癖あるものだったのではないだろうか。そんな単調でない日々を辿る旅、東名阪ツアー『7th Gradatiom』。今回は5月19日(金)下北沢ERAにて行われた東京編をレポートでお届けする。
下北沢ERAには多くのファンが押し掛けた。騒がしい話し声もSEがなるとピタリと止み、視線が一斉にステージへと注がれる。躍動感ある太鼓が鳴り響くなか現れた彼らは、クールな面持ちとは裏腹にどこか緊張しているように見えた。
ダークな雰囲気を引きずったまま、羽深のギターにより“湖とノクターン”が導かれる。深くブレスをとり生み出された羽深の声は、湖の底に刺す一筋の光のように儚く繊細だ。歌声の尊さを増すように、水面の揺れを投影したリバーヴがかったギターの音が、ジョゼという音波に私たちを引きずりこんでいった。
「お待たせしましたジョゼです。楽しんでいこうぜ!」という羽深の言葉をきっかけに、“サイダーは煌めいて”“パステルカラー”などのアップテンポな曲が繰り広げられる。明るい曲が続く中ひときわ異彩を放っていたのが、歌謡調のメロディーが特徴的な“獣”だ。妖艶なギターソロが艶やかに叫び、羽深の視線は観客1人1人を捕える。<怖くないから僕を見てほら>と歌う姿は、より多くの人にジョゼを見て欲しいという彼らの思いを吐露しているかのようだ。続く“アンドロメダに願いを”では、その思いがより色濃く映し出される。<遠くまで届くように透き通った声で歌うから>という歌詞は、どこまでも届けていきたいという理想と思うように届かない現実との歯がゆさを凝縮しているかのよう。曲中で羽深の視線が揺らいでいたのは、理想と現実の狭間で苦しむなか懸命に越えてきた日々を思い出していたからなのではないだろうか。
折り返し地点になるMCでは羽深のギターと中神のドラムによる白熱の掛け合いバトルを繰り広げ、観客をおおいに魅了した。その勢いは一切留まることなく“モラトリアムラブ”に引き継がれる。彼らの背後には赤い照明が鋭く光り、力強いパフォーマンスを後押ししていた。続いて披露されたのは、彼らの表題曲と言っても過言ではない“溺れる”。圧倒的なグルーブ感は彼らがこの曲を長く愛し続けてきた事実を誇示し、結成当初より明るくなった音作りや短くなったディレイタイムなどは彼らが変化し続けてきた軌跡を映し出していた。
MVになっている“流星雨とアンブレラソング”や“Gravity Sky”を演奏し、ライブは少しずつ終幕へと向かっていく。
この日1番のコール&レスポンスを見たのは、フォーク色の強い“ヤングパレード”だ。吉田(Ba.)が楽しそうに体を揺らす姿につられ観客の体も自然と揺れ、会場は自然と笑顔で溢れる。太陽のように眩しい観客の笑顔はジョゼの音波と混ざりあい、ライブハウスに虹がかかったようだった。まだまだ夜を終わらせるものかと、リズミカルな“Friday”を演奏し最終加速をつける。ラストを飾ったのは穏やかな空気が会場を包む“Biographer”。スローテンポな曲に乗せて響く羽深の歌声は透明度が高く、体の隅々にまで染み渡っていくようだ。穏やかな面持ちで全19曲を演奏し、彼らはステージをあとにした。
彼らが去った後も拍手は鳴りやまず、ほどなくしてステージに舞い戻った。演奏されたのはR&B調の“新曲”。バックビートが効いたメロウな曲で、途中まで羽深がピンボーカルで歌うという新しい試みをしていた。続いて演奏したのはキラーチューンである“ハートソルジャー”。最後まで手を抜くことなく<越えて!壊せ!>と障害を越えていく彼らの姿は、見ているすべての人に明日を越えていく希望を与えたことだろう。
水のように私たちの日常に寄り添う存在でありながら、明日を少しだけ頑張る勇気をくれるジョゼ。彼らがワンマンツアーを経て更に進化して、虹の向こうの新しい世界へ私たちを連れて行ってくれる日が楽しみだ。
『サイダーは煌めいて』
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