navel
- 1. 花になる
- 2. 春眠
- 3. Think over
- 4. 宇宙船
- 5. 儚砂
- 6. あお
【CDショップ店員が、無名高校生のCDを大展開するまでの話】
何においても出会いは大切だ。
私にとっては、仕事柄、未知の音楽との出会いがとても大切だ。
たまたまラジオから流れてきた曲、好きな人に教えてもらった曲、サブスクやYouTubeのオススメに表示された曲。もちろん、CDショップ店員として、店頭での音楽との出会いも大切だ。数多の楽曲をすぐ聴ける時代だからこそ、出会い方を覚えていることは貴重だと思う。だが、息を吸うように日々音楽を求めている自分が、出会い方を覚えている音楽の数は、実際にはあまり多くない。
そんな私だが、【あぶらこぶ】の楽曲を初めて聴いた時の事は、鮮明に覚えている。そして、今後も忘れないだろう。
2020年の年明け、店長に「インディーズバンドの音楽配信サイトEggsの中から、気になるアーティストを見つけて欲しい」と提案された。
早速その日の夜にEggsアプリを開き、まず橿原店のある奈良県出身を選び、フォロワー数の多い順に探していくことにした。東京や大阪に比べて、登録数は少ないとはいえ、一つずつ全てのアーティストを聴くのは、かなりの時間を要したし、また奈良にもこんなに沢山のアーティストがいるのか、と驚愕した。何日もかかり、1月の終わりにアイコンのイラストが可愛らしい【あぶらこぶ】というアーティストにたどり着いた。『iPhoneのみで楽曲を作る“がれーじばんだー”』という、これまで見たことのなかったプロフィール欄に興味が湧き、すぐに再生ボタンを押した。初めて聴いた曲は”tumbler”だった。
“tumbler”のイントロを聴いた瞬間に「あっこれだ!」と感じた。何といっても、その「これだ!」と思える瞬間の感動は、自分が音楽を聴く醍醐味でもある。そんな感動を味わいながら、〝あお“〝プラスチックララバイ”〝homing“〝AM4:00”〝WEDNESDAY“と登録された全曲を聴いた。この時点で、このアーティストに声を掛けたいと思った。
本来なら一度店長に相談してから連絡をするべきだったのだが、自分の中の強い確信から、独断でコンタクトをとった。
翌日店長に報告。事後報告に面食らっていたが、あぶらこぶの音源を聴いて、笑ってくれた。そして本人と正式に対面する事になった。
2月上旬、タワーレコード橿原店に、あぶらこぶ本人が来店された。
その時本人は、まだ15才だった。
会議室に席を移し、お互いに緊張した雰囲気の中で、是非あぶらこぶの音源をCD化して、店舗で販売したいという気持ちや、具体的な計画を伝えた。その時、全てを上手く伝えられたかというと、そうではないかもしれない。ただ、熱意だけはしっかり伝わったと思う。最初は疑い深い目をしていた本人の表情が、少しだけ緩んでいたのを見て、ホッとしたことを覚えている。
GW前の2020年の4月末発売を目指して進めていくことになった。
まずマスタリングしてもらえるスタジオを探す。交流のあった地元のバンド「おはよう、ビスケット」に奈良のスタジオの方を紹介してもらい、自分と店長で会いに行った。それがStudio Sola の山崎さんだった。
山崎さんは、マスタリングやMIXの知識を、実際に機材を使いながら丁寧に教えてくれた。「奈良の音楽シーンを盛り上げたい」と語る眼差しから強い情熱を感じた。
【CDが発売できない】
3月頃にコロナウイルスが感染拡大し始めた。
これを受けて、当初目標にしていた4月発売の延期を決定。さらに5月は店舗が入っているショッピングセンター自体が休業し、発売日の目途も立たなかった。辛抱強く、時間が過ぎるのを待つしかなかった。
結果的に、あぶらこぶ初めてのCD「tumbler」の発売は7月に伸びたものの、株式会社Eggsを介して、当初考えていたよりも多くの店舗に取り扱ってもらう事が可能になった。
さらに、Apple MusicやSpotify等の音楽ストリーミング配信も同タイミングで実施し、告知期間もあった事から、タワーレコード橿原店において当初の予想を超えるセールスを達成できた。
試行錯誤の末、遂にあぶらこぶのCDを発売する事が出来た。
自分の働く店頭にあぶらこぶのCDが並んだのを見た時、そしてストリーミングに配信されたのを確認した時は、感慨深かった。その日から、出勤したらまず、あぶらこぶの展開場所を確認し、何枚売れているかを確認した。そして、お客様が商品を手に取って会計する時は、「私が声をかけたアーティストなんです!」と声をかけようかな、と変に緊張をしながらレジを打っていた。
【最後に】
2021年3月。遂にあぶらこぶ初の全国流通盤「navel」が発売される。
こうして振り返ると、色んなタイミングが上手く重なっていったようにも思える。
自分は大学卒業後、銀行に1年間勤めて、辞めた。どうしても音楽に関わる仕事をしたかったからだ。今の仕事に就いたタイミング、あぶらこぶに出会ったタイミング、CD「tumbler」を販売するタイミング。その全てが少しでもずれていたらまた違う展開になっていたかもしれない。
単純に音楽が好きで曲を作り、発信していたそれまでと比べ、周りからの期待やプレッシャーもあったろうが、あぶらこぶ本人はただ真っ直ぐに、自分の世界観を楽曲に落とし込んでいる。初めて会った頃から、少しシャイなところもあったが、自分の音楽のこだわりだけは、しっかりと言葉にして伝えていたことを思い出した。アーティストなんだと思った。
「navel」には、あぶらこぶが、今表現したい世界が広がっている。
彼女の脳内に広がる景色が、音楽というフィルターを通して、私たちの脳内にその情景や感覚を浮かび上がらせる。考えたくもないことを布団に覆いかぶさって考えてしまう鬱屈な夜は、待ちに待った激しい眠気と共にやっと終わりを告げる。そんな夜を紛らわすお供になる時もあれば、薄っすら覚えているカラフルな夢の世界を頭の中に呼び起こしてくれる時もある。
失恋した時にだけ、失恋ソングを聴くわけではないように、あぶらこぶの曲も人それぞれ、色々な場面にマッチする一枚になっていると思う。
そして何よりも、何かをクリエイトすることに対して、背中を押してくれる力があると思う。
どうしても、何かを創造することは「特別なこと」だと思えてしまうが、「誰だって大なり小なり何かを創造できる」という事を伝えてくれている気がする。
だからもし、「navel」を聴いてインスピレーションや刺激をもらったのであれば、絵でもいいし、文字でもいいし、全く関係ないことでもいいから創造してほしいなと思う。
このアルバムを聴いた、どこかの誰かにとって「創造のきっかけ」になって欲しいと願う。
あぶらこぶが、新しい春を迎える前に「花になる」と歌う。
さあ、私たちは何になろうか。
■あぶらこぶ「花になる」Music Video:
あぶらこぶ…
奈良県在住、現役高校生“がれーじばんだー”。主にYouTubeや音楽配信サイトEggsにて精力的に楽曲を発表している。iPhoneアプリ「GarageBand」で制作された楽曲はクオリティが高く、独自性かつ共感性の高い歌詞でSNSを中心に同世代のリスナーから支持を得ている。2020年7月にはタワーレコード一部店舗限定でミニアルバム「tumbler」をリリース。2021年ネクストブレークが期待されるアーティストのひとり。
アーティスト:あぶらこぶ
タイトル:navel
1.花になる
2.春眠
3.Think over
4.宇宙船
5.儚砂
6.あお
■配信
配信日:各ダウンロード/ストリーミングサイトにて配信中
https://linkcloud.mu/e5bc51af
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