『下北沢にて’24』オーディション決勝に密着!
東京随一のカルチャータウン・下北沢を舞台として毎年行われているライブサーキットイベント『下北沢にて』が今年も開催される。12月7日に下北沢のライブハウスを中心とした22のステージで繰り広げられる『下北沢にて'24』には、今年で4回目のタッグとなる“下北沢にて×Eggsコラボステージ”が設けられることも決定した。
そこでEggsでは、コラボステージのオープニングアクトを担う若手バンド・アーティストを大募集。音源審査、インターネットを通じてのリスナー投票の結果、最終選考に残った7バンドによるオーディションライブが11月5日、下北沢・近道にて実施された。激戦を勝ち抜いてきただけあって個性も音楽性もそれぞれに突出した7組だが、オープニングアクトの座を射止められるのは1組のみ。各組とも持ち時間は15分、グランプリを決めるのは全アーティストのパフォーマンス後に集計されるオーディエンスの投票だ。幸運の矢を手にするのは果たして――。
決戦の火蓋を切って落としたのは、新潟県上越市発、現在埼玉在住の4人組ロックバンド、Adam's miss。こうした形式のライブにおいてトッパーを務めるのは決して有利とは言えないが、その難しさもすべて承知の上で「どうすれば投票まで忘れずにいてもらえるか考えても仕方がない。あなたの一生に残る15分にします。よろしく!」と堂々宣言するその心意気や、よし。手始めに楽しい曲を、とドロップされた「Step by Step」の骨太かつ陽の気をまとった軽快なサウンドが、言葉通り場内の空気を楽しく明るく揺らしにかかる。力強く歌われる“合わない歩幅どこかで重なればいい” “9歩戻っても10歩進めばいい”のフレーズは、そのまま彼らというバンドの姿勢を示しているかのよう。一転、クールなベースラインとエッジの効いたギターリフでシニカルに攻め込んだ「グレーテル」、「ノスタルジア」では“褪せない夢の残る街へ 下北沢に今”と歌詞の一部を替え歌にするなど今日に懸ける想いをストレートに体現。持ち時間いっぱい、全力で駆け抜けた。
もう戻れない、それでも記憶にはありありと残り続ける季節への切実な追慕を、3連符を効果的に用いたリズムとノスタルジックなメロディーによって鮮やかに描き出した「杪夏」を筆頭に、叙情性に溢れた独自の世界観へとフロアを誘ったのは東京で活動するスリーピースバンド、紫苑だ。ささやかだけれど忘れがたい風景、言葉、心の動きを丁寧に掬い上げて綴られる歌詞、スリーピースならではのシンプルさは活かしつつもセオリーに縛られない自然体なアンサンブル。どこかあどけなさを残した、さき(Vo.& G.)の歌声は淡々としているようでありながら、のっぴきならない激しさをも秘めており、ひとたび感情が決壊すればその本流はたちまち聴き手を呑み込んでいく。今日、このステージに立てていることへの喜びと感謝を口にし、「今までいろんな人にたくさんのものをもらってきました。もらってばっかりはイヤなので音と結果で返します」と告げたあと演奏は「18のうた」へ。瑞々しく躍動するサウンドに未知数の伸びしろを確信せずにはいられない。
この春にまな(Vo.& G.)と涼(B.)の新体制となったmukeikakuはサポートドラムを加えた3人編成でステージに登場。「ブルー」に横溢するヒリヒリと胸を灼かれるような切なさ、かと思えば曲中に取り入れられたラップ調のポエトリーが特徴的な「どく」ではタイトル通りの濁った毒々しい感情も包み隠すことなく吐きだす潔さを見せてオーディエンスを虜にする。まるで対照的なこの2曲をいきなりぶつけることでmukeikakuの音楽に備わったふり幅を明示したいという意図もあるのだろう。鋭くも艶めいたギターリフと重心は低いながら自在にうねるベースとの掛け合いは実に堂に入っており、結成からまだ1年強ほどのキャリアにもかかわらず、すでにバンドとしての佇まいが確立されていることにも目を見はった。“君”への赤裸々な思慕を疾走感溢れる演奏と歌に昇華した「夢を見た」をラストに「15分間で私たちの精一杯をお届けしたいと思います」という言葉を見事に有言実行した彼女たち。フロアから飛んできた「かっこいい!」にガッツポーズで応えるその笑顔のなんと清々しいことか。
折り返し地点を迎えたオーディションライブ、バトンはペドウィンズに渡された。こちらもバンド結成から1年強、メンバー全員が横浜緑ケ丘高校の軽音楽部出身という男女混成のロックバンドだ。息の合った演奏で紡ぎあげる音像にはカントリーライクなニュアンスも宿っており、豊潤かつ柔らかなサウンドが場内をほどよくリラックスさせていく。1曲目を飾った「風をつなぐ」の朗々として立体的な音の広がり、続く「真昼」が孕む未来への希望感、それを具現する歌声とバンドアンサンブルとの相乗も素直に聞き手の耳に馴染んで心地よい。色褪せない郷愁や、今なお広がって果てしない憧憬、そうした誰もが心の奥にも大事にしまいこんでいるような感情をやさしく呼び覚ますかのようなペドウィンズの演奏に身を任せてゆったりと揺れるフロア。彼らも自身の鳴らす音楽がなにより雄弁であることを知っているのだろう、短い挨拶のみでMCらしいMCはなかったが、バンドが去ったあとにはたった15分間とは思えないほどの満ち足りた余韻が残った。
この日出演した7組中、もっとも異彩を放っていたのは神戸からやってきた5人組バンド、カニバルだろう。キーボードをメンバーに擁し、さらにツインボーカル&ギター体制で繰り出される殺傷力の高いその音楽性をひとつのジャンルでくくるのは至難の業。ポップスやロックはもちろん、ヒップホップやジャズなども包含し、デジタルサウンドをも駆使して構築される紛うことなきオンリーワンミュージックには会場にいた全員が度肝を抜かれたに違いない。耳をつんざく高速のギターカッティングを合図に、いきなりハイテンションにドライブする「青天井」から早速「全員で手を上げてくれる?」とオーディエンスを巻き込みにかかる柿内ロッコウ(Vo.& G.)。「東京に来たからにはみなさんをカニバルのお客さんにしたいと思ってます。次は跳んでもらいますよ! 東京!」と呼びかけると「PRAY!?」へとなだれ込み、いっそうアグレッシブなパフォーマンスで場内の熱狂を急加速させる。関西ではすでに頭角を表しつつある次世代バンドの急先鋒、その嵐のごときステージにたしかな矜持を見せつけられた想いだ。
秋田県秋田市出身のスリーピースバンド、月刊少年アイロニーが奏でているのは、ほとばしるエモーションを燃料に、音楽に込めた想いの丈をほんのひとかけらであろうともそれを求めるリスナーに全身全霊で届けようという、不器用なくらいまっすぐなロックンロールだ。ライブというものへの言いようのない愛情を閉じ込めたショートナンバー「リハーサル」に始まり、忘れ得ぬ君への記憶と後悔を赤裸々に歌い上げた「月にさよなら」、行き場のなさを抱えながらそれでもなお日常をサバイブしようともがく様を映し出した「September」と、生きることそのものをテーマにして織りなされる愚直なまでのバンドアンサンブルがフロアの共感を呼び起こす。気を衒(てら)わないスタンダードなアティテュードがその演奏に貫かれているからこそ、オーディエンスもその音に素直に心情を委ねられるのだろう。登場SEにASIAN KUNG-FU GENERATIONの「或る街の群青」を選んだところにも彼女たちの意気が推し量られる。曲中、「歌も下手くそだし、ギターも下手くそだけど、想いを伝えることはできるよ」と生のセリフで訴えかけた「正体」にも痺れた。
これを圧巻と呼ばずして、なんと言おうか。オーディションのラストに現れた4人組、トキワの森が醸成するむせかえるような轟音に成す術もなく立ち尽くしてしまう。活動開始は昨年9月とまだ日は浅くとも、オルタナティブロックに多大な影響を受けたというそのサウンドはもはやオルタナの枠を超え、独自の進化を遂げて唯一無二だ。1曲あたり3分前後がスタンダードとされる現在のポップミュージックシーンのトレンドに逆行するかのごとく、持ち時間15分の間に彼らが披露したのは「流星になれ」「あんしん」の2曲のみ。絶望の淵に立ち、それでも不屈の精神で不条理に爪を立てる「流星になれ」から“狂っている”を歌い出しに“一緒に死のう”で締めくくる一見ショッキングな歌詞ながら、他ならない生への希求を暗喩した「あんしん」への流れはこのバンドの稀有な存在感を否応なくオーディエンスに印象づけたことだろう。前川ぺそ(Vo.& G.)のただ者ならない佇まいもさることながら、メンバー同士、物理的な衝突も厭わない激情のステージングは怒涛の一語。演奏の最後にはタナカサイト(B.)が楽器を放棄し、全身で暴れ倒すひと幕も。
それぞれに持てるすべてを出し切ったオーディションライブ、グランプリに輝いたのはトキワの森だった。「下北沢にて」を主催するTHEラブ人間のツネ・モリサワにその名を呼ばれるや、「やった!」と声を上げ、抱き合って喜び合う彼らに出演者たちからも温かい拍手が起こる。揃いの赤い法被に袖を通し、改めて壇上に登った4人を代表して前川が「憧れの人たちが出演するサーキットイベントの舞台に、信頼するバンドメンバーのみんなで立てるのが本当に嬉しいです。今日はありがとうございました」と挨拶すると拍手はさらに大きくなった。12月7日のステージでトキワの森はどんなライブを見せてくれるのか。惜しくも敗れた6組の今後の活躍にも大いに期待したい。
――おめでとうございます。今の率直な想いをお聞かせください。
リク(Dr.):すごく興奮しています。
タナカサイト(B.):本当に率直な感想を言うならホッとしました。実は「あんしん」の途中で弦が落ちてベースが弾けなくなったんですよ。暴れるしかできなかったので、あれで負けてたらと思うと……助かった〜!という感じです(笑)。
前川ぺそ(Vo.& G.):僕はまだ全然実感がないですね。僕たちができるのはただライブをやることだけなので、それをみなさんに評価してもらえたのは本当に嬉しいです。
――グランプリを獲るぞ!という気持ちは?
前川ぺそ(Vo.& G.):それはもちろんありましたけど、どのライブでも同じくらいの気持ちで臨んでいるので、これだけが特別というわけではないんです。なので、いつも通りのライブをやって、いつも通りに帰れたらと思っていて。結果、こんなふうに評価してもらえて本当に嬉しいし、無事終えられたことにホッとしました。
だいき(G.):いつも応援してくれている方たち、今日も足を運んでくださった方たちに改めて感謝です。これからも死ぬ気で演奏します。
――では12月7日に向けての意気込みを。
前川:ここからさらにレベルアップして、トキワの森らしいライブを見せられたらいいなと思っています。今、同世代の人たちの間にはどこか諦めがあるというか、諦観が共通認識としてあるなと日々感じているのですけど、そういうところから目を背けず、いろんなことを諦めず、すべてに向き合って、全力で地道にやっていく姿を見せるのがトキワの森らしさだと思うので。
タナカ:諦めたくないですから。諦めないほうがかっこいい。
前川:そういうふうにして光り輝くバンドになっていけたら、と。
――トキワの森ならではのステージを楽しみにしています。
一同:ありがとうございます。頑張ります!
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