インディーズアーティスト全50組以上出演。渋谷で開催された『SHIBUYA OPEN LIVE 2024 AUTUMN』

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渋谷駅近辺の6カ所で路上ライブを展開した3日間。イベントの最終日を振り返る

様々なカルチャーが交錯するビッグタウン・渋谷が巨大なストリートライブ会場に変身する音楽イベント『SHIBUYA OPEN LIVE 2024 AUTUMN』が11月5日から7日の3日間にわたって行われた。インディーズアーティストの活動支援を目的に、渋谷の街とEggsがコラボレーションしたストリートイベントは『渋谷中央街Music Street』(2019年)や『SHIBUYAまちびらき2024“OPEN LIVE”』(2024年夏)に続いて3回目の開催となる。渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷フクラス、渋谷サクラステージ、渋谷アクシュ、渋谷駅東口地下広場の計6ヵ所にて、個性豊かな50組以上のアーティストがその歌声を思う存分に響かせた今回。街を行き交う人々と温かなふれあいも生まれた本イベントの模様を、最終日を迎えた11月7日のライブからピックアップしてお届けしよう。

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ブランクを感じさせない歌声。熊本出身のリリィさよなら。

 

まだ陽の高い14時、渋谷ストリーム前稲荷橋広場ステージにてトップバッターを務めるのは熊本県出身のシンガーソングライター、ヒロキによるソロプロジェクト・リリィさよなら。だ。2013年にプロジェクトをスタートさせ、自身以外のアーティストに楽曲提供するなど作家としても活動を始めたリリィさよなら。だが、療養のためしばらく活動を休止しており、つい先月活動を再開したばかりだという。路上で歌うのも久々とあってか、秋晴れの空の下、キーボードを前にしたその表情にはワクワクと緊張がないまぜになって浮かんでいたが、ひとたびメロディーを奏で始めるや、ブランクを感じさせない朗々とした歌声で街行く人の足をひとり、またひとりと引き留める。

自分をロボットになぞらえつつ、そんな“僕”に温もりをくれた“君”への永遠に変わらない愛情を誓う「シアワセな機械」を1曲目として優しいハイトーンボイスで歌い上げたあとには、せっかくの路上だから、ふだんはライブであまりやらないカバーをと、レミオロメンの「粉雪」を披露。晴天には恵まれたものの急激に冷え込んだこの日になんとぴったりな選曲か。だが、想定外の強風に譜面台が倒され、さらには配線にも影響したのだろう、キーボードの電源が一時的に落ちてしまうという路上ライブならではのハプニングも。それでも、動じることなく「ごめんなさいね。じゃあ仕切り直します!」と中断前よりさらに伸びやかさを増した歌と演奏で観客を陶然とさせる。

その後も「約束」「フラッシュバック」と、リリィさよなら。の真骨頂とも呼びたい等身大で誠実なラブソングが、街のざわめきに溶けてほんのりとその周囲を温めていくかのよう。地下鉄と渋谷ストリームのビルを繋ぐエスカレーターに運ばれながらもその音楽に興味深げに耳を傾けているサラリーマンの姿が実に印象的でもあった。MCでは長かった活動休止期間に触れ、「遅れてきた新人ということで、今日が初めましての方もこれから応援していただけると嬉しいです」と呼びかけたリリィさよなら。。その新たな始まりに俄然期待が募る。

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東京都出身・石原克。曲を重ねて艶めいていく歌声

秋の日暮れは早い。渋谷中央街に面した渋谷フクラス前で18時にスタートする石原克の演奏に駆けつけたときには、すっかり夕闇に包まれ、居酒屋など近隣の飲食店も夜の賑わいを見せ始めていた。そうした喧騒のなか、まるでふらりと立ち寄ったかのような風情でマイクの前に立った石原。「寒いなか、ありがとうございます。ダラダラせずにパッとやりたいと思っております。本当に寒かったらお店とかに入ってください」と、吹きすさぶ風に煽られながら少し遠慮がちに挨拶すると、アコースティックギターの弦をそっと爪弾き始めた。そして、その次の瞬間。

“朗らかな気持ち/忘れないで仕舞っててね”と1曲目「朗らかに」でいきなり放たれた、透明かつしなやかな、けれど揺るぎない力強さを宿した歌声に、目を見開かずにはいられなかった。先ほどまでの所在なさげなしゃべり声とは別人のごとき堂々とした張りと艶。聴く者の心に沁み入っては内側からその人を包み込む、そんな不思議な感触もある。「愛見るために」「誰にも言えないこと」と曲を重ねるごとにいよいよ艶めいて芯の太さを増してゆくその声、歌詞の一語一句がクリアに耳に届くからだろう、通りすがりに振り返る人も少なくない。

東京都出身で都内を中心にシンガーソングライターとして活動する石原だが、意外にもストリートライブはしていないのだという。「だから渋谷のこんな繁華街の真ん中で歌わせてもらえることが本当に嬉しいです。世界は優しくあってほしいとか、愛で溢れたらいいのにとか、いつもそういうことばかり考えて僕は曲を作ってるんですけど……こんなに寒いのに観てくれている音楽好きな皆となら、わかり合えるような気がします」と今日という日の邂逅に声を弾ませた彼の笑顔もとてもよかった。ちなみにこの日、着ていた服は前の出番のアーティストを震えながら観ていた彼を見かねた観客から差し入れられたものなのだそう。こんな路上らしいエピソードにも、人を惹きつけずにはおかない石原の人柄が滲んだ、実に温かなステージだった。

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一寸先闇バンドのフロントマンがソロで登場!おーたけ@じぇーむず

どこに身を置こうとも全方位的に強風から逃れられないという、演者にとっても観客にとってもかなり過酷な環境となった渋谷サクラステージのSHIBUYAサイド2F 桜丘広場にて、この上なくエネルギッシュな盛り上がりを見せたのが19時から行われた、おーたけ@じぇーむずのライブだ。“寒い中、待っていてくれた皆さん/こんばんは/どうぞよろしくお願いします”と曲中にアドリブで挨拶を混ぜ込んできたり「みなさん、ジャンプしたら温かくなるんじゃないでしょうか。いきますよ!」と演奏しながら自らも観客と一緒になって跳ねまくり、たちまち一体感を構築したり。あまりの風のすさまじさにT.M.Revolution「HOT LIMIT」の一節を曲と曲の合間に差し挟んで歌ってみたりと、一心同体と化したアコースティックギターを掻き鳴らしては奔放自在に場の空気を揺らしていく巧みなパフォーマンスに瞠目せずにはいられない。普段、路上ライブはしていないというから、なおのこと驚いてしまう。

だが、なにより魅了されたのは、柔らかさのなかにドライな聴き心地を孕んだ倍音の歌声だった。シンガーソングライターとしてのみならず一寸先闇バンドのボーカル&ギターとしても活動し、その作詞作曲もすべて手がけているおーたけ。この日、披露された「日記」や「フレンドゾーン」「ルーズ」といった楽曲たちは一寸先闇バンドとしてもリリースされているが、弾き語りスタイルではその歌声がよりフィーチャーされて耳に楽しい。己を含む人間のささやかな心の機微や愛すべきどうしようもなさにフォーカスして紡ぎ上げられたであろう歌詞もグッと生々しさを帯びて胸に迫る。R&Bのテイストも感じられるような洒脱なグルーブ感が曲調のベーシックにあるからこそ、パーソナルな独白がいっそう際立って聴き手の心情に刺さるのだ。

「風が強くなってきましたね。言いたいことはいっぱいあるけど、とりあえず皆さん、立ち止まって観てくださって本当にありがとうございます!帰ったら温かいお風呂に浸かって、温かいお布団に入ってちゃんと寝るんだよ!」と独特の言い回しで感謝を告げて、最後に演奏したファンキーな「一寸先闇」が彼女とともに寒風と闘い抜いたオーディエンスのボルテージを最高潮へと導いた。

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Netflix映画で主題歌も。次世代シンガーソングライターの注目株ナギサワカリン。

渋谷ストリーム前稲荷橋広場のトリを飾るはナギサワカリン。現在Netflixで配信中の映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』の主題歌に「パレード」が抜擢されるなど次世代シンガーソングライターとして注目を集める彼女の勇姿を見届けようと、会場には開始前から大勢の観客が集まり、昂揚は早くもピークを迎えんばかりだ。昼間の風景とは打って変わり、街灯や明治通りを走る車のヘッドライトも照明代わりとなって夜のステージに彩りを添え、ナギサワの歌声を待っている。

観客を呼び寄せるため、現在グローバルで大ヒット中の「APT.」(BLACKPINKのROSÉ(ロゼ)とBruno Marsのコラボ曲)をアコースティックギターの弾き語りで披露し、軽いジャブとした直後に「こんなふうに合法的に路上ライブさせてもらえるって本当にありがたいこと。私がいただいた30分、あなたが少しでもここにいてくれるような音楽をお届けします!」と頼もしく宣言、「すべてのマイノリティへ!」と叫んで繰り出した超ヘヴィ級の「Edge」が容赦なく聴く者のみぞおちを打ち抜いた。格差社会だ分断だと大上段に構えて騒ぎ立てることもできず、ただひっそりと息苦しさに耐えながら日々を必死にサバイブしている目の前の一人ひとりをナギサワの熱い魂が抱きしめる。紛れもなく、これはブルースだ。令和という八方塞がりな時代の空気に立ち向かうためのファイトソング。前述の「パレード」も、続いて演奏された「(not) piece of cake」も、日常の中にはだかる絶望に繰り出したカウンターパンチに違いない。

ライブの中盤では、観客に求めて飛び出した“ラーメン”“寒い”をキーワードにして、渋谷にまつわる歌を即興で作って歌う場面もあった。こうした客席との垣根がないからこそのダイレクトなコミュニケーションも路上ライブの醍醐味だろう。飾らず、物怖じもしない彼女のストレートなキャラクターが反映されたMCもなんとも痛快で、あっという間に時は過ぎていく。「どうか、見えないくらい小さな幸せにもスポットを当ててください。嫌なことだけじゃなく、楽しかったことにもスポットを当てて、明日もどうにか生きていってください」と心からの願いを込めてナギサワが我々に手渡した曲は「スポット」。ラストナンバーが渋谷の街に轟いた。

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ストリートライブの存在を未来へ繋ぐ――それが公認の路上イベント

日が暮れてからはひときわ寒さが身に染みたが、それでも季節の空気を思いきり感じながら聴く歌はことさら楽しいものだと改めて知ることができた『SHIBUYA OPEN LIVE 2024 AUTUMN』。フリーなストリートライブだからこそ、思いがけない才能と出会えるのは喜びだ。参加したアーティストたちが皆、活き活きと自分の音楽を鳴らしている姿もとても魅力的だった。路上でのパフォーマンスには厳しい目も注がれがちな昨今、こうした公認のイベントがもっと盛んになればとも思う。今回、ストリートの楽しさに目覚めたあなたはもちろん、惜しくも機会を逸してしまったあなたも、次はぜひ足を運んでみてほしい。

写真・佐藤 薫/文・本間夕子

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