Moccobondの大変変態 vol.1

ご存知の方も多いだろう。 かの有名なロックバンド、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが「mixi日記をリライトしよう！」というライトでポップなテンションで前人未到のコラボキャンペーンを敢行した。なんでも、自分と、mixi内でつながりのある友人(マイミク)の過去の日記が公開されるサービスなのだとか。

このサービスの存在を知り、血の気が引いたのは私だけではないはずだ。

人生で初めて利用したSNSがmixiだった。高校・大学生の頃に最も多く投稿していたと思う。 当時の私は、魔法のiらんどでサブカル趣味全開のテキストサイトを作り、地元にできたばかりのヴィレッジヴァンガードとアニメイトに通いつめ、通学時のテーマソングはレディオヘッドのゼアゼア、休日を共に過ごす親友はMyspaceだった。ついでに中二病も患っていた。闇の時代である。

そんな人間的氷河期に書き綴った日記など、見たくもなければ、そんなものが未だに人様の目に晒されているかもしれないと思うと、穴があれば入りたいしできれば上から土をかけてほしい気持ちにさえなる。

息巻いて数年ぶりのログインを試みたが、当時のメールアドレスを覚えているはずもなく、「ログインでお困りの方」をクリック。 ニックネームと生年月日を正確に入力するとログインのヒントが得られるという救済措置を見つけるも、生年月日を非公開設定にしていた場合はサポート対象外になるという落とし穴にはまってしまった。

「ログインでお困りの方」ページの最果てに辿り着いてなおログインで困っている。

自身のプライベート以上に恥ずかしい文章をSNSに公開しておきながら、なぜ生年月日は非公開にしていたのだろうか。甚だ理解しがたいが、年月を経て、あの頃の自分とはもう全くの別人になってしまったのだと、黄色く光る画面を見つめながら悟った瞬間だった。

結局、枯れ果てたシナプスに鞭打つこととなったが、幸い昔の自分のメールアドレスを思い出すことに成功する。ログインして恐る恐るマイページを開く。そこには予想通り、あの忌まわしい日記たちがモヘンジョダロの白骨よろしくずらりと横たわっていた。もちろん全体に公開されていた。今すぐ埋めてあげるからね。南無阿弥陀仏。

かくして、無事日記を非公開に設定することができたわけだが、私は今回の一連の出来事についての教訓を生涯忘れはしないだろう。

その当時のマイブームについて多くを語りすぎないこと。聞きかじりした薄っぺらい知識をさも自分の見識かのごとくひけらかさないこと。実在する、しないに関わらず特定の人物に対して「俺の嫁」とか言わないこと。

そういう大切なことをアジカンは気づかせてくれた。ありがとうアジカン。高校2年の冬はファンクラブばかり聴いていました。あれは名盤だと思います。

しかし私は自分の日記を消したりリライトしたりはしなかった。あの頃の私の趣味は誰彼に話せるものではなかったし、そのもどかしさを発露すべくしたためた文章も輪をかけて気持ち悪かったが、それでもあの頃の私は心の底からそういうものを信じていたし、純粋にとても好きだったのだ。

今は臭すぎてとても食えたものではないが、いつかもっと先の将来、万に一つもないかもしれないが、もしかしたらいい酒の肴になるかもしれない。そんな淡い期待を込めてmixiからログアウトすると、電車はちょうど目的の駅に到着した。 今夜はハイボールでしめようと思う。