クリエイター集団・Massclubが描く<レトロフューチャー>な1曲「jetcoaster」
大阪発のバンドMassclub は、2024年に活動をスタート。楽曲や映像制作、デザイン、アートワークなどのすべてをセルフプロデュースしている。ミュージシャンであると同時に、クリエイター集団でもある。「jetcoaster」は打ち込みのリズムを大胆にフィチャーしたダンサブルな1曲。洒脱なギターの音色とアプローチ、タイトなフレーズを繰り返すメロディー、選び抜かれた言葉が並ぶミニマムなリリックは、韻の踏み方も多彩で、その語感のリズムが楽曲のグルーヴ感を後押ししている。バックトラックの音質や音数を抑えた構成が作り出す音像の浮遊感は、昨今のトレンドに通ずる趣きがあるが、4つ打ちのハイハット、しかも1980年代半ば~後半のハウスミュージックを彷彿させるような音色とアプローチのリズムが、グルーヴの軸になっているあたりは、リリックにあるようにまさに<レトロフューチャー>だ。驚くのはアレンジのセンス。特にギターのアプローチである。前述した4つ打ちのハイハットをバックに、秘かなカッティングを聴かせたかと思えば、オーセンティックなロックやサザンロックからの影響を感じる洒脱なメロディーを奏でる。曲の最後の方で、歌より前にギターが出てくるサウンドレイヤーの自由さにも驚くが、その後にギターソロが登場して終わるという、斬新なアレンジアイデアにはもっと驚いた。
多彩なスキルと緻密なアレンジ。Massclubは大阪インディーズシーンの実力派となるか?
「jetcoaster」よりも以前に発表された音源「Love my life」「艶姿」「MMtoge」などを聴くと、バンドがお互いのルーツを探りながら、様々な実験にチャレンジしていることがわかる。ロック、シティポップ、ラップが入ったシティソウルと、どの曲も曲調はもちろん、ジャンルがまったく違うのだ。ボーカルの発音やアプローチには、ブラックミュージックへの影響を強く感じられるが、楽曲に合わせて、リズムのジャストより少し前のり気味に歌っており、それがこのバンド独特のどこかクールなニュアンスを醸し出している。ファルセットや母音の抜き方もうまい。メロディーの抑揚よりもリズムを重要視して歌っている「jetcoaster」では、淡々としたボーカルに徹しているが、ところどころでウィスパーのようなアプローチもあり、新しいことに対して順応“できる”スキルを兼ね備えていると同時に、声域や声量といった、ただの歌ウマとはまた異なった引き出しが多いタイプのボーカルだと考察する。バンドも含めて、様々なを音楽をアウトプットする実験の中で、これからどんな扉を開いていくのか楽しみだ。なぜならその扉は、きっと私達が知らない、きっと見つけていない扉に違いないから。