鍵盤の和音とミニマルなリズムの均衡が生む緊張と優美――魚田二月(ウオタニツキ)「早寝」に宿る構造美

鍵盤の和音とミニマルなリズムの均衡が生む緊張と優美――魚田二月(ウオタニツキ)「早寝」に宿る構造美

2026/03/11

魚田二月(ウオタニツキ)は、ミズグチハルキ(Vo./Key.)と、としとし(Dr.)のツーピースバンドだ。バンドの公式Xによると、初ライブが2024年11月3日。ミズクチを中心に、サポートメンバーを加える形で、東京を拠点に活動を展開してきたが、2026年2月17日、それまで約半年間サポートを務めていたとしとしが正式加入した。また同日、全6曲入りの1st EPリリース記念の自主企画イベントを下北沢TREEEで開催。EPは、ライブ会場限定で発売中である。バンドとしての活動が本格化する中で、XやInstagram内で、ライブ映像や演奏の様子などを発信。リポストなどを見ると、楽曲のバリエーションとクオリティーが、早耳のインディーズリスナーの中で、既に話題となっている。

今回紹介する「早寝」は、2025年10月10日に魚田二月の公式YouTubeで公開された。音楽配信プラットフォームでは、1月24日に、Eggsのみでデジタルリリースしている。 

早寝」は、ボーカル、キーボード、ドラムというミニマムな編成でありながら、音数の不足をまったく感じさせない1曲だ。ミニマムな編成をバンドのアイデンティティーとして構造化し、サウンドを鳴らしている。バンドサウンドに対する自由度だけみれば、そのマインドは、ポストニューウェイヴやポストロックに通ずると思うが、そのミニマルさが醸し出すアグレッシブさよりも有機的で優美なメロディー、アートワークのように洗練された音像が、このバンドの最大の魅力である。サウンドの隙間を音を足すのではなく、音を漂わせて満たす手腕は、リズムとメロディーの多彩な関係性をむき出しにし、聴く者を緊張を伴う独自の空間へ導く。  

ループが編む持続と起伏、その静かなうねりの行方

一定のテンションを保ちながら、グラデーションのように質感を変えていくドラムは、空間に点描を打つようにサウンドの支柱を描く。曲の表情を決めるのは、鍵盤のシンプルな和音。ゆったりと同じフレーズ、アプローチを繰り返す手法で、ループ感を生み出し、ゆっくりと浸透するような中毒感がある。大きなブレイクや王道の構成、転調をそぎ落とし、要素を少しずつ加えたり変えたりすることで、楽曲全体にたゆたうような起伏を生み出している。この起伏が、聴き手の感情を取り込み、いつの間にか音楽と同化しているような感覚になる。 

既述したミニマルな編成は、自由度も高いと思うが、バランスの均衡が難しいのではないかと考察する。なぜならば、どちらかが少し前に出すぎれば、即座にサウンド全体のバランスが崩れる。優雅だが緊張感があるのは、メンバーの2人が徹底して抑制のバランス感を保っているからだ。 

ミズグチハルキの声は、子音も母音も音がつぶれず、細部まで聴きとれる歌声だ。後半までアクセントをあまりつけず、フレーズを水平に滑らせる発声により、言葉は意味と同時に響きの連なりとなり、楽曲を構成する重要なファクターのひとつになっている。一定のレンジ内で感情を滲ませていくピッチの安定感も素晴らしい。歌詞では特定の言葉が反復されるが、その繰り返しは強調というより持続の装置。同じ語が戻るたびに、聴き手の内部に時間を作り、聴き手の感情をゆるやかに揺さぶる効果をもたらしている。 

機材やソフトの進化により、この数年間でラップトップミュージックやサブスクなどのUGCを起点に、活動の規模を広げていくアーティストも増えた。さらにポストロック、ニューウェイブの再評価も進んでいる。そんなシーンの中で、魚田二月は、明らかに新しい文脈で勝負しようとしている。 

最後に私的所感。楽曲を分解して聴くと、要素と構成はミニマルテクノやアンビエント、エレクトロニカとかなんだけど、サウンドがまったくそうじゃない。優雅で開放的なインナーミュージック――こんな、賛否が出そうな逆説を書かせちゃうなんて、すごいバンドが出てきたもんだと思いました。 

文・伊藤亜希


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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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