既存のジャンルに着地しないポップネス――リバースシール「Dance on the planet」を彩るコードの妙

既存のジャンルに着地しないポップネス――リバースシール「Dance on the planet」を彩るコードの妙

2026/09/09

2023年、新潟県新潟市で結成されたリバースシール。オリジナル楽曲を制作しながら、新潟市内のライブハウスを中心に活動を展開している。初音源は2026年春にリリースされた「タイムマシンに乗って」。この8月に新曲「Dance on the planet」のEggs限定先行配信をスタートさせた。 

 どこか人懐っこいキャッチーさを備えたダンサブルなアップチューンである本曲は、シティポップやディスコといった言葉を想起させるサウンドでありながら、そのどちらにも分類できない独特の洒脱さを備えている。また、反復によって生まれる中毒性とは別軸で、リピートしたくなる引力も、この楽曲の魅力のひとつだろう。さらに、この曲の面白さは、特定のジャンルを象徴する音色やアレンジによって“洒脱さ”を演出しているわけではないところにある。  

たとえばフィリーソウルのように、華やかなストリングスやホーンを重ねて高揚感を作るわけではない。ネオソウルのように、タメを効かせたグルーヴや複雑なコードの響きを前面に押し出しているわけでもない。もちろん、シティポップのコードをそのまま現代へ持ち込んだ楽曲でもない。  

では、なぜ「Dance on the planet」は洒脱に響くのか。  

その大きな理由のひとつが、コードとフレーズの動きだろう。特に印象的なのが、歌のフレーズが終わるタイミングで聴こえてくるコード展開。すっきりと着地するのではなく、音がスルスルと下りてくるように響きが移り変わることで、曲の重心が一瞬揺らぐ。このさりげない動きが、メロディに余韻を与えると同時に、楽曲全体へ洗練された印象をもたらしている。 

一方、リズムはタイトで軽快だ。ビートは曲を前へ運び、タイトル通り身体を動かしたくなる感覚を生み出していく。コードの洒脱な動きと、素直なダンスミュージックとしての推進力。このふたつを無理なく共存させているところに、リバースシールならではのバランス感覚がある。 

洒脱なサウンドと沈殿する感情――踊ることで未来へ抜け出していく

さらに興味深いのは、洗練されたサウンドに対して、歌詞で描かれる感情が決してスマートではないことだ。 

前半では星空や流星、ステップ、ビートといった言葉を用いながら、夜空の下で踊る光景が描かれていく。しかし曲が進むにつれ、その背後にある現実が少しずつ顔を見せ始める。特に<現実もバイタルも忘れる世界を漂う>という一節は、現実だけでなく、自らの生の感覚さえ手放してしまいたい葛藤を、シンプルな言葉で伝えている。華やかな夜を描いているようで、その根底には、今いる場所から抜け出したいという切実さが流れている。 

だから、この曲における「踊る」ことは、単なる享楽の象徴ではない。日々の中で抱える閉塞感を一瞬でも振り払い、自分を別の場所へ連れ出すための手段として描かれている。現実そのものが変わらなくても、ビートに身体を預けている間だけは違う景色を見ることができる。そんな祈りにも通ずるような憧憬が、ダンサブルなサウンドに人間らしい温度を与えている。 

洗練と人間くささをポップソングの中で同時に違和感なく鳴らしていること。それこそが「Dance on the planet」から見えてくる、リバースシールというバンドの本性なのだ。  

文・伊藤亜希 


本ページのレビューはアーティストおよびアーティスト公式に限り、HP・SNS・CDブックレットなどに転載可能です。
転載の際は、本ページのURLまたはhttps://eggs.mu/をご記載ください。また、ライター名は記載しないでください。