神奈川県を拠点に活動する3ピースバンド、SiCK HACK(シックハック)。エッジの効いたギターリフを武器に、オルタナティブロックやギターロックを独自の感覚で鳴らしている。ロックに対する多彩な解釈も持ち味だが、一貫しているのは、3人の緻密なバンドアンサンブルで作り出す、骨太なグルーヴだ。このグルーヴと文学性を感じさせる独特の言葉選び。その両方が一体となって、聴き手の内面を静かに浸食していく。
今回ピックアップする「四苦八苦」でも、その持ち味は色濃く表れている。
まず、印象的なのは、歌詞だ。タイトルの「四苦八苦」は、仏教に由来する、人間が避けられない苦しみを表す言葉である。一方で歌詞には、「ヴィーナス」「ジーザス」「ナーバス」といった西洋的なイメージを持つ言葉が散りばめられ、神話、キリスト教、精神状態という異なるモチーフがひとつの感情へと収束していく。「緑」「緋色」「藍色」といった色彩表現が加わることで、主人公の心象風景を断片的なイメージで描き出していく。興味深いのは、言葉を意味だけで選んでいないところ。例えば「ヴィーナス」「ジーザス」「ナーバス」という並びには共通する語感があり、メロディーの中で自然なリズムと浮遊感を生み出している。そして終盤では、「解らない」「叶わない」という極めてシンプルな言葉へ帰着する。最後は、説明できない感情だけを残して終わる。この収束のさせ方が実に巧みだ。言葉で飾るための文学性ではなく、言葉では到底説明しきれない感情を描こうとした結果として生まれた文学性が、このバンドの大きな武器になっている。
エッジの効いたリフが駆け抜ける――緻密なアンサンブルの真価
本曲の骨格を支えているのは、冒頭から耳をつかむ印象的なギターリフだ。鋭く刻まれるフレーズが楽曲全体に力強いグルーヴを生み出し、ベースとドラムがそのうねりを支えることで、内省的な歌詞とは対照的な躍動感を出している。このロックバンドらしいダイナミズムがあるからこそ、沈み込む感情だけで終わらず、聴き手を最後まで惹きつけるのだ。
一方で、ボーカルは、焦燥や諦めを滲ませるように切実さを声にする。サビでは、シャウトの趣を感じさせながらも、言葉を噛みしめるような響きがあり、楽曲全体に漂う閉塞感やもどかしさをよりリアルなものにしている。
「四苦八苦」は焦燥や喪失感といった、澱のように積もった感情を美化せずそのまま提示している楽曲だ。曲の底にあるのは、過去へ引き戻されるような強い重力である。この重力を作り出しているのは、3ピースとは思えない密度の高いバンドアンサンブルだ。痛みを浄化するのではなく、その濁りや葛藤を抱えたまま前へ進もうとする意志をサウンドにした「四苦八苦」。この楽曲でSiCK HACKは、衝動と叙情的な文学性という相反する要素を、ひとつのロックサウンドとして見事に成立させている。
文・伊藤亜希
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