ライブハウスを熱狂に巻き込む一筋縄ではいかない“2人の物語”
ハードなロックサウンドを基調としながら、キャッチーなメロディーに切ないラブソングを乗せて放つ独自のスタイルで、今、ライブハウスに熱狂の渦を巻き起こしているのが福岡県在住の4ピースバンド、IrisaVior(アリサヴィア)だ。
メインソングライターのあべさきこ(Vo.)が実体験をもとに綴るのは一筋縄ではいかない“2人の物語”。今回、紹介する「君のせい」もまた、別れても忘れられない“君”と、でも取り戻したいとこいねがう“僕”の切実な思慕が聴き手の心を揺さぶる、バンドの代表的楽曲と呼んでいい。
独りよがりを回避する凛とした力強さがあるボーカリゼーション
恋をしたことがある者なら、おそらく誰もがそれを失った時の痛みを味わってもいるだろう。なす術なく、それでもどうしようもなく相手を求めてしまう苦しくも甘やかな痛みの記憶が共感に直結し、ある種のカタルシスをもたらしてくれるのだ。ともすれば主人公の独りよがりにも取られかねない歌詞と言えなくもないが、一語一句を歪みなく届けるボーカルのクリアな声質、凛とした力強さをたたえたボーカリゼーションが絶妙に独りよがりを回避し、むしろ前向きな説得力さえ感じさせるのが興味深い。
ヘヴィロックやメタルコアなどにもルーツを持つという楽器隊の重厚にしてエッジの立ったアンサンブルと、要所にストリングスや鍵盤の音色を寄り添わせるなどJ-POPの王道を意識することも忘れないアレンジセンスも聴きどころ。頭サビを含め1曲中に4回訪れるサビをそれぞれアプローチを変えて聴かせる表現力。巧みなプレイが際立つ間奏からDメロを挟んで3サビ4サビへとなだれ込んでいく求心力の高い構成には唸らされた。
ちなみに結成は2022年だが、現メンバーとなっての正式な活動は2024年。新たなストーリーが始まったばかりのIrisaVior。ここからの、真の本領発揮に期待が募る。
文・本間夕子