異なる質感をいち音単位で表現する歌声――つじりお「匙」に見るボーカルコントロールのすごさ

異なる質感をいち音単位で表現する歌声――つじりお「匙」に見るボーカルコントロールのすごさ

2026/05/14

つじりおは、滋賀県出身のSSWだ。Xへの初ポストが2023年1月1日。1月6日には、代々木、原宿、赤坂、下北沢でライブイベントに出演することを告知している。このことから、2023年初頭の時点で、既にアーティストとして楽曲、ライブ活動ができるレベルに達していたことがうかがえる。2023年3月29日に初音源となる「花束」を配信リリース。以降、コンスタントにリリースを重ね、ライブ活動を積極的に行っていく。2025年11月23日には、セカンドワンマンライブ『Crack』を渋谷 eggmanで開催。大成功に収めている。  

そんな彼女が2025年11月21日にドロップしたのが「」だ。 

横断したルーツが垣間見られるイントロ――前景化する推進力  

まず耳を弾いたのはイントロのギターのカッティング。音はソリッドだが、ビートは少し後ろ気味。それが独特の間となり、タイトなカッティングを際立たせている。リズムはファンク的な文脈を踏みながら、ロック的な質感で鳴らしているところも面白い。これにより、前に進むビートが前景化し、楽曲に重心の低さと勢いをつけている。他の楽器群とのレイヤーも、奥行きは深いが密度は一定に保たれ、歌声を前に押し出している。また、音数の増加ではなく、それぞれの音域や帯域の広がりによってダイナミクスを出しているあたりには、彼女のこれまでの活動の濃さがうかがえる。  

ボーカルは、声量のコントロールもうまいが、そこで押し切るのではなく、語感の響きの連なりを大事に歌唱しており、中低音域から高音域まで段差なく移行するテクニックを持っている。メロディーは、言葉をしっかり伝えるように、言葉ごとに切り分けるように音符が配置されている。つじは、芯のあるロングトーン、高音のファルセット、少し甘さが入った地声と、多彩な声音を鮮やかに使い分けている。この音域のメロディーで、オクターブ上のような高音でくるかと思わせるトリッキーなスキルも見せるが、それを自然に聴かせ、一気に走りきるところが魅力。ビブラートのかけかたの違いで、強さ、甘さ、湿度、温度と、異なるファクターをコントロールできる表現の幅には、心から素直に拍手を送りたい。いや何度聴いてもすごかった。脱帽。  

文・伊藤亜希


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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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