風景を感情へ変える言葉を紡ぐ――島根発・不完全燃焼「彼方音」の青春を美化しない眼差し

風景を感情へ変える言葉を紡ぐ――島根発・不完全燃焼「彼方音」の青春を美化しない眼差し

2026/07/09

島根県松江市を拠点に活動するバンド、不完全燃焼。2023年に結成された彼らは、当初はコピーバンドとして活動していたが、2024年に現体制のオリジナルバンドとして活動を開始。同年『TEENS ROCK IN YONAGO 中国地区大会』で審査員特別賞を受賞したほか、『NLA・ナキワラ!2024』全国ライブにも出演。2025年3月に、初音源となる1stシングル「サマートーン」を発表。さらに同年『マイナビ閃光ライオット』3次審査へ進出。2026年には3rdシングルとなる「F1LTER」をリリースするなど、着実にバンドとしての経験を重ねている。毎年オーディションへ積極的に挑戦している姿勢からも、自分たちのバンドを世に広めようという意欲がうかがえる。 

芯のある歌声が描き出す――メロディーに宿る刹那

不完全燃焼の「彼方音」は、Eggs独占でリリースされた1曲だ。爽やかなアップチューンでありながら、そのメロディーには儚さが宿っている。鮮やかなメロディーの中に、刹那が煌めいている。そしてそのメロディーを強く、伸びやかに響かせるボーカルの歌声もいい。高音域でのロングトーンでも、声の芯が細くならず、ボーカリストとしてのポテンシャルの高さがうかがえる。  

歌詞にも注目したい。風景の断片を散りばめながらも、そこが単なる情景描写に終わっていないところに、独自性、そして背伸びをしない文学性を感じる。歌詞で切り取られた風景が、現在の感情とその先の未来へ繋がっている。例えば<今日も雨降る君の涙を 誤魔化すように><秘めた言葉 海に歌えば>といったフレーズは、言葉にできない感情を風景へ託すことで描かれている。地方出身の彼らが公式Xで記している「田舎出身の自分たちだからこそ書ける言葉、出せるサウンド」という自己紹介は、こうした部分にも表れているように感じた。地名や固有の風景を直接描かずとも、その土地で過ごした時間の温度が歌の奥から滲み出ているのだ。  

青春の只中にいる高校生世代のバンドでありながら、この曲には青春を美化するだけではない、時間そのものを見つめる視点がある。終わりが来る時間だと知っているからこそ、その一瞬を音に刻もうとする切実さがある。  

不完全燃焼というバンド名は、本来なら未完成さやもどかしさを連想させる。しかし「彼方音」が鳴らしているのは、その不完全さを抱えたまま進んでいく強さだ。遠回りでも構わない。その先で鳴り続ける“自分たちだけの音”を信じること。その真っ直ぐな意志が、この楽曲の最も大きな魅力である。  

文・伊藤亜希


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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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