ANORAK!(アノラック!)リリースツアー『Fav Riff Tour 2025』のファイナル、渋谷WWWでのライブをレポート

ANORAK!(アノラック!)リリースツアー『Fav Riff Tour 2025』のファイナル、渋谷WWWでのライブをレポート

2025/11/25

 2024年、『FUJI ROCK FESTIVAL'24』の「ROOKIE A GO-GO」に出演したほか、アジア&全米ツアーを行うなど、今、東京のライブハウスシーンで注目を集めるANORAK!が、New EP『Fav Riff』のリリースを記念し、東名阪で【Fav Riff Tour 25'】を敢行した。 
 各地で対バン形式となった本ツアーは、10月17日の大阪・難波BEARSでは、Tive、 天国注射、10月31日の名古屋・今池HUCK FINNでは、sysmo、underscreen、Powerplant(UK)、そして11月6日の東京・渋谷WWWでは、Texas 3000、No Busesを迎えて開催された。 
 本稿ではツアーのファイナル公演となった、渋谷WWWでのANORAK!のライブレポートを軸に、このバンドの個性と魅力について紐解いていきたいと思う。 

満員の渋谷WWW、熱気に包まれたANORAK!ファイナル公演 

 11月6日、木曜日。平日にも関わらず、渋谷WWWは観客で埋まっていた。当日、ANORAK!の公式Xで「当日券の有無は追ってお知らせします」というポストの後、「当日券すこーし販売あります!」とポストされたのを見ると、チケットはソールドアウトに近い状態だったことがうかがえる。イベントが始まる前から、フロア全体のざわめきから期待の熱が感じられた。そのざわめきの中から、定期的に “ANORAK!”という単語が聞こえてくる。ネィティブな英語の発音も幾度か聞こえ、フロアの中に目を凝らすと海外出身の観客の姿も目立った。 

 No Buses、Texas 3000がステージ終え、時刻は20時30分を過ぎていた。 
 ステージにANORAK!の機材が運びこまれてくる。フロアからステージを見て、左側からCrystal Kato(Gt.)、Mikuru Yamamoto(Ba)、Kotaro Nakamura(Dr./Cho.)、そしてセンターより右寄りにTomoho Maeda(Vo./Gt)。それぞれの位置でセッティングを始めている。左側バックにそびえるアンプ。Tomohoの右側に卓が置かれ、その上には、Roland SP-404 MKⅡ。

 ANORAK!は4ピースバンドだ。しかしながら、そのサウンドは人数以上のレイヤーとスケール感を持つ。ポストハードコア、ポストパンク、エモリバイバル、ギターロックなどをルーツに持ちながら、ブレイクビーツやエレクトロニカを取り入れている。好奇心と探求心、そして音楽に対する熱量の高さを、メンバー全員が備えているのだ。メインでボーカルをとるのはTomohoだが、Katoもボーカリストとして十分な実力がある。ユニゾンでメロディーに厚みを持たせたり、コーラスで表情を加えるのはもちろん、曲によってはTomohoとツインボーカルのような掛け合いを見せる。 

日本語と英語をシームレスにつなぐ、Tomohoのボーカル表現

 20時45分。サウンドチェックで楽器を鳴らしていたANORAK!のメンバーたち。フィードバックするギターの音が響く中、渋谷WWWが暗闇に沈んでいく。 
 暗転。大歓声。浮遊するノイズの中で、女性の音声のサンプリングが流れる。ANORAK!のステージは「Fledgling」で幕を上げた。目の前にセッティングされたスタンドマイクに噛みつくようにTomohoがシャウトする。<したい理解もうさらに遠く>という最初のフレーズが、既述したサンプリングへの答えなのか。心にしまっておいた想いを叫び、曲にしている。Tomohoのシャウトを幹に、ダイナミックなバンドアンサンブルが立ち上がる。その中で、Katoは優雅に綺麗なアルペジオを聴かせる。その音色は、ボーカルとバンドアンサンブルが巻き起こした突風の中を舞い上がる白い羽を想起させた。このコントラストが、ANORAK!のサウンドのひとつの大きな魅力だ。ドラム、ベース、ギター、それぞれの音がしっかりと輪郭を持っている。例えば、シューゲイザーのように混沌としたサウンドスケープで押し切るアプローチの時も、楽器それぞれの音が粒立っており、それぞれにしっかりした密度もある。ゆえに、コントラストがはっきりし、見せ場の連続で楽曲が進行していく。この見せ場の連続が、このバンドの持つポップネスに繋がっていると考察する。 
 3曲目。イントロとともに大歓声が上がった。New EP『Fav Riff』のオープニングを飾る「Shade」へ。たゆたうようなグルーヴが特徴のミディアムチューン。オートチューンを通して歌い始めたTomoho。この曲は、英語→日本語と展開する楽曲だが、音源では日本語に切り替わるところで、ボコーダーのエフェクトの加減を変えていたが、ライブではそこを変えずに披露していた。Tomohoのボーカリストとしての才能は発音にある。日本語でも英語のように聴こえるのだ。しかも歌詞を確認するまで日本語だと気が付かない。日本語と英語のシームレス化ができていることに驚く。かなりざっくり説明すると、日本語は英語に比べて母音の数が少ない。つまり、母音だけみても日本語の発音では出せないニュアンスが英語には多数ある。ANORAK!の過去音源を遡ると、初音源『Split』(2021年)からシームレス化にチャレンジしているのがわかるが、自身の中で手法が見つかり、目指す方向性が明確になったのは『Self-actualization and the ignorance and hesitation towards it』(2024年)あたり。2025年以降にリリースされた作品では、既述したように、歌詞を確認しなければ日本語だとわからないほどの言語のシームレス化に成功している。2024年の全米ツアーが、成功の糧になったのは言うまでもないだろう。 

機材と生音を行き来する、即興リミックスのようなステージング 

 この日最初のMC。「いい感じです、ANORAK!です」とTomohoが話し出す。「完璧(な)スリーマンですな。めっちゃいいやん」と言うと大きな拍手。そんな中、Katoが突然「1回だけやりたかったことやっていい?」と、フロアにピックを投げ始めた。笑う観客。「絶対やんないでしょ、途中のピック投げ。3曲しかやってないのに(ピックを)投げる。これがやりたかった」と満足気なKato。
 観客の爆笑を静寂に。ANORAK!の一音が、会場のスイッチを切り替える。「中野/浅草」へ。「表参道」では、軽やかに濃密なバンドアンサンブルを見せる。全曲日本語詞のこの曲を、日本語然とした発音で歌うTomohoを見て思った。過去の曲には過去の曲の良さがある、そう思って歌っているのではないか、と。そしてこれは、常に自分の中で進化し続けるANORAK!のサウンドに対する、Tomohoの現在のスタンスだと思った。 
 緻密で雄大なサウンドスケープに、イントロのギターフレーズが絡んでくる。4つ打ちを取り入れた「Username」へ。音源よりもキックを前面に出した、滑らかな緩急あるライブアレンジで、フロアを躍らせた。フロアライクなグルーヴのまま「Pure Magic」、そしてギターのアルペジオでつなぎ「Ponyboy2」へ。「Ponyboy2」は、New EP『Fav Riff』の中でも、最もハードコアな1曲だが、打ち込み色の強い曲とリミックスのようにつないできた。ここに、ANORAK!というバンドの現在地と真骨頂が凝縮されていたように思う。Tomohoの圧倒的な咆哮が渋谷WWWを切り裂いていった。 

「言うことがありません。100点でした」(Tomoho) 

ライブは終盤へフライトしていく。ギターリフでぐいぐい引っ張る、アップチューンが続く中、TomohoとKatoのギターユニゾンも飛び出した。本編最後のMCでは対バンへのリスペクトも語り「こういうの最高ですね」と笑顔を見せたTomoho。そしてこう続けた。「活動がなんて豊かなんだって今思ってます。ありがとうございます」観客が大きな拍手でレスポンスする。Tomohoが再び「バンドが進歩しているということを、いろんな方向で感じてもらえたら……」と話し出すと、Katoが「まぁ、ギュッて伸びるより、じわじわの方があれだから、飽きられないからね!」と締め括り、観客の笑いを誘った。 
 ステージを淡いピンクの照明が彩る。ムービングライトが作り出した光のかけらの点描がANORAK!と観客に降り注ぐ。「Fav Riff」。New EP、そしてツアータイトルにもなっているこの曲を、4人は丁寧に観客1人ひとりに届くように放った。 
 アンコール。缶ビールを手にして登場したTomohoは、ボコーダーを通して「カンパーイ」と言い、一口喉を潤した後、こう続けた。「言うことがありません。100点でした。ありがとうございました」 
 最後の曲「Call Me By Your Name」を披露し、ANORAK!はステージを後にした。 

ポストハードコア、エモリバイバルと聞くと、一般的には、爆発的な瞬発力の連続をイメージする人も多いのではなかろうか。恥ずかしながら、筆者はそうであった。しかしこのイメージは、この夜、ANORAK!によってアップデートされた。 

この夜ANORAK!が作った空間は、瞬発的なテンションだけではなく、フロアという空間を操りながら高揚へ導き、最後にその熱量を体感として残すものだった。ライブが終わってしばらくしてからも、彼らが作り出した空間を司るようなグルーブが、身体の中にまだ残っているーーそんな感覚があった。 

デジタルとアナログ、バンドと打ち込み、初期衝動と緻密な構築。その境界を軽やかに飛び越えながら、ANORAK!は、自分たちにとって、今、必要なサウンドをこれからも鳴らし続けるのだろう。 

11月下旬から2度目の全米ツアーを行うほか、2026年にはバンドの自主企画『Birds Nest』の開催も発表となった。 

音楽に対する既存概念をアップデートしてくれる――そんなANORAK!のライブに足を運んでほしい。 

写真/hiro itou 
取材・文/伊藤亜希 

event info

ANORAK! Presents『Birds Nest』

日程
2026年1月23日(金)
会場
新宿Nine Spices 
日程
2026年3月8日(日)
会場
下北沢ERA 
日程
2026年5月24日(日)
会場
新大久保EARTHDOM

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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