「特集・ライブハウスの中の人」vol.17〜愛知・名古屋編 / STIFF SLACK(スティッフスラック)〜

「特集・ライブハウスの中の人」vol.17〜愛知・名古屋編 / STIFF SLACK(スティッフスラック)〜

2025/08/07

 名古屋にあるライブハウスSTIFF SLACK(スティッフスラック)。その始まりは2003年。名古屋・栄にてレコードショップとして店舗を構え、オルタナティブロック、ポストロック、パンク、ハードコア、エレクトロニカを中心に国内外のインディーズアーティストの音源やグッズを取り扱うレーベル、レコードショップとして店舗を構えた。2020年に店舗の移転に伴い、バーやライブハウスを併設。このタイミングで同ライブハウスの店長になったのがTAPI氏である。バンドマンであり、元々はSTIFF SLACKのお客だったという彼が語るライブハウスSTIFF SLACKに対する思いとは? 

ライブハウスSTIFF SLACK(スティッフスラック)が歩んだ「ゼロ」からの道

――スティッフスラックの歴史を教えてください。

TAPI:スティッフスラックは、現在のオーナーが約25年くらい前から、やっていたんです。元々は、レコードショップとレーベルっていう機能を持ったお店でした。ちょうど、ポストロックとかハードコア、エレクトロニカっていうジャンルを日本で広がっていっている時期で。僕は、そこのお店のお客さんだったんです。バンドもやっていたので、よく一緒にイベントやるバンドが、店に集まって来ていて。だから最初は数あるバンドのうちの1メンバーだったんですよ。20代前半~半ばくらいの頃だったと思います。バンドをやりながら、サラリーマンもやっていたんです。で、30代前半くらいまで会社員やりながらスティッフスラックに通っていた。で、スティッフスラックが移転して、レコード屋が、いま、自分たちのレーベルをよりプッシュするためのイベントをやる、そのためのライブハウスを作る、と。そこで一緒にやらないかと言われて、脱サラしてライブハウス部門の店長になったんです。脱サラですよね。僕自身、それまで音響とか少しかじったこともあったので、そこも活かせるかなと思ったんですよね。

――2020年の3月27日に移転オープンしてますよね。その頃って……。

TAPI:コロナ禍が始まった頃ですね。オープンして2週間以内に緊急事態宣言が出ちゃったんです。スティッフスラックの周年とか、いろいろ企画していたんですけど、そこで一旦、全部ストップしてしまった。全部なくなっちゃんですよね。もう本当に、今思えば、準備してプラスにしていたものが全部なくなった。本当にゼロからのスタートだったんです。

出演したアーティストが出て良かったなと思うイベントを作ることが1番大切

――TAPIさんの仕事の内容を教えていただけますか?

TAPI:スタートの時から変わらないのですが、基本的にライブハウスの主にブッキング、イベント制作、オペレーションの整理、それから音響のことを全部やってます。

――ブッキングに際してのこだわりはありますか?

TAPI:自分の中でイベント毎にコンセプトはあるんですけど、1番考えているのは、出てくれた演者が出て良かったな、絶対に次も出たいなと思える1日を作ること。ライブハウスを運営していく上で、例えばわかりやすいところでいうと演者に(チケットの)ノルマがあったりすることもある。演者に負担をかけざるを得ないことというのが、本当に結構あるんです。だからこそ、演者が絶対出てよかったなって思ってもらうことを、まず最初に考えるし、そこはもっともこだわっているところですね。

――例えば、スティッフスラックというレーベルは、ジャンルに個性があるレコード店だと思うんです。そういうジャンルに対するこだわりはありますか?

TAPI:ありますけど、それはテーマのひとつというか。それよりも、さっき言った演者にとっていい1日に繋がると思うんですけど、バンド同士の付き合いや相性なんかを大事にしてますね。初めてうちのライブハウスに出演するバンドとかは、やっぱりまだ関係性もできてないので、ちょっとこう……寡黙過ぎないバンドと当てるとか。それで関係性が出来てくると、やっぱりそれぞれの人間の面白さとかがわかってくるんですよね。そうすると、人間性とかでマッチングを意識したりして。あとは、まだ駆け出しのバンドとかも結構いるので、わりと長くしっかりバンド活動をしているバンドと当てたり。そうすると、駆け出しのバンドのメンバーは、自分が足りないものが見つかると思うんです。ライブが終わった後、対バン相手から刺激を受けている様子を見るとすごく嬉しくなりますね。新しいものを見せたいっていう意識ですごく尖がった音楽のバンドを集める時もあるし、これみんな好きですよねっつって、お客さんも集まるよねっていうコンセプトでブッキングすることもある。どれもテーマが違うだけで、すごくこだわりはあると思ってます。そういう中で、やっぱり自分が面白いかどうかっていうのが、ひとつの番線引きになってるかなと思っています。

幅広く音楽を聴いているスタンスが繋がった店長・TAPIさんの強み

――音響、つまりPAをやられてることが、TAPIさんならではだなと思うんです。これまでライブハウスの店長さんやブッカーさんに取材してきても音響の話は出なかったんです。そこで聴きたいのですが、イベントによって音響の差、出音の作り方の差がすごくあると思うのですが、そこはご自分の中でどんな考えでやられているんですか?

TAPI:それぞれのバンド、ジャンルの出音に関してですよね。

――そうです、そうです。例えば、ギターバンドとエレクトロニカが入ったオルタナティブロックのバンドでは明らかに求められる出音が違うと思うんですね。

TAPI:音に関してはバンドマンだということ、それからスティッフスラックのお客だったことが大きいと思います。これ本当に……僕の憶測も入っているので、本当に多分なんですけど、普通の音楽リスナーよりも聴いているジャンルの幅が広いと思うんです。今でもスティッフスラックに入ってきたレコードや新譜はかなり聴きますし。ちょっとその量は普通じゃないと、自分でも自負がある。もちろんまだまだ知らない音楽もたくさんありますけど、刺激的な音楽は洋邦問わず、リアルタイムで耳にしていると思っているんです。で、出音の作り方は、ジャンルではなく、リハーサルで決めますね。そのバンドが欲しい音、鳴らしたい音を作るのが僕の仕事だと思うので。やっぱりブッキングしてる時点で、こういうバンドだろうな、だとしたら音は……ってイメージができる。それをリハーサルで当ててみて、あそうだよねって一致すると、スパッといくし。そうじゃない時ももちろんあるから、コミュニケーションをとってチューニングしていくんです。

――それはアーティストにとってはすごく心強いんじゃないかと思います。なんか、TAPIさんが音響やってくれるからスティッフスラックで演りたいってバンド、ありそうですもの。

TAPI:だといいですね(笑)。でも、今、音響について質問されて気が付いたんですけど、今言ったような……幅広く音楽を聴いているから、バンドに合わせてしっかり出音を作れるってスタンスは、1番強みかもしれないですね。大きく外さないってところは、絶対にあると思うので。

――この仕事をしていて最も楽しさを感じる瞬間は?

TAPI:スティッフスラックに出たいって送られてくる音源は、ある程度クオリティーもあって。つまり完成したものを送ってきてくれるんですけど、ライブはどうなのかわからないから、スタジオで練習演奏してる音源を送ってくれって言ったりするんですね。で、その音源はクオリティーはまちまちで、でもなんかこう……ひっかかるというか……パラメーター的に1個特化しているようなバンドもたくさんいるんです。そういうバンドというのは化ける瞬間が必ずある。実際に何度も目にしてきたので。もうこの瞬間は本当にたまらないですね。それでそのまま人気が出てくれたら、それこそ嬉しくてたまらないです。さっきも言ったようにゼロからスタートして、本当に大変なことも多かったので、今言ったような楽しさを感じられるようになったのは、この2年くらいですけど。でも、最近は本当にこう……とてもイマン所仕事が楽しいと思ってる。最近、毎日が楽しいと言えるようになってますね。若い子たちを育てるっていうのが目に見えてくるようになっていて。芽吹いてきたなぁっていうのが、もう如実に最近感じられてるんです。本当にいいバンドがいるんですよ。

少年漫画(バンド漫画)のストーリー、そのままみたいなバンドが出てきた

――そんな中、最近気になるバンドは?

TAPI:まずはTrooper Salute(トルーパーソリュート)。1年半前くらいに、大学の軽音部の発表会があって。その時、ボーカルの子の歌がすごすぎて。この発表会は年末だったんですけど、その2週間後の年明けライブがあって。うちのライブハウスの新年会みたいなイベントで、いつもうちのライブハウスに出てくれているバンドも結構出ていて。そしたらTrooper Saluteがその2週間ですごく成長していて、こう……言葉を選ばないで言えば、圧倒的な存在感を放っていたんです。そしたら今年になって『YATSUI FESTIVAL! 2025』、『FUJI ROCK FESTIVAL’25』の『ROOKIE A GO-GO’25』への出演も決まるわ『SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2025』も決まるわで。まだ活動をスタートさせてから1年半くらいしか経ってないのに、もう本当に「マジですか!」って思いました。もう少年漫画の(サクセス)ストーリーを地でいくバンドが出てきたな、と。そんな彼らが刺激になって、他のバンドのクオリティもどんどん上がったし、今でも上がっていってるんですよ。それを毎日感じられるのが、今、本当に幸せですね。

――最後にスティッフスラックでぜひここでお知らせしておきたいイベントがありましたら教えてください。

PITA:次のネクストブレイクになるだろうと噂されている長野のSYAYOS(シャヨウズ)というバンドがいて。9月7日に彼らが出演するイベントがあります。SYAYOSはガッツあるロックを女の子のボーカルでやってて。非常に音楽偏差値が高くて、ロックの中にポストパンクみたいな要素もガンガン入れてくるし、でもし、めちゃくちゃポップだし。演奏力も申し分ないし、すごい跳ね方をするんじゃないかなって思ってます、期待も込めて。9月7日、気になる人はぜひ観に来てください。

取材・文/伊藤 亜希

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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