ツインボーカルが描く温度差と独特の質感――東京発・Paco de Lacico「Bite」の余白を詠む

ツインボーカルが描く温度差と独特の質感――東京発・Paco de Lacico「Bite」の余白を詠む

2026/03/04

Paco de Lacicoは東京を拠点に活動する2人組。男性のツインボーカル、ギターとキーボードを軸にし、オルタナティブR&B、シティポップ、そしてメロディーにフォークやカウントリーのフレーバーを感じさせる音楽性の懐の深さと、洗練されたサウンドメイキングが特徴だ。ミックスの距離感で、クール過ぎない常温の質感を作り出しているところも魅力である。彼らは、2025年10月19日に「Bite」を、同年12月3日に「Fool」を音楽配信サービスでデジタルリリース。Eggs内でも配信をスタートさせた。 

Bite」のサウンドの骨格を作っているのが鍵盤の刻みとバリエーション。短く切るコードワークとコンピングを行き来しながらリズムを担う。さらにその裏側からちらちらとレゲエのリズムが顔を出す。テンポはミディアムだが、ビートは前へと滑らかに進み、キックとベースの重心は低めで、軽快さと粘りを両立させている。音像はクリアだが、音数が多くなくボーカルがしっかり活きる構成になっている。 

男性2人のボーカルの差異も、この曲の立体感を決定づけるファクターだ。一方は輪郭のはっきりした声質で、子音のアタックを明確に立て、リズムの前面に立つタイプ。中高音域から高音域を得意とし、伸びやかなトーンを聴かせる。さらに、フレーズをタイトにまとめており、ピッチの芯を外さない安定感が際立っている。もう一方は、ブレスを混ぜた柔らかなトーンで、母音を長めに保ちながらレンジを横方向へ広げている印象。倍音の広がりで空間を満たし、楽曲に艶っぽさと湿度を与える役割を担っている。まったく異なる声質が重なることで、2人で歌っている以上の広がりを生み出している点は、このグループの最大の武器だろう。今後さらに多彩なパターンを予感させるところに、2人の歌い手としての実力を感じる。 

旋律とリズムの噛み合わせが生む中毒性

旋律そのものの派手さよりも、ビートとの噛み合わせで中毒性を生み出す点が特徴的だ。歌の子音の立ち上がりがビートと噛み合うことで、情報過多にならず、優雅な1曲に仕上がっている。 

<本当の名前を/知らないままでも>というフレーズで始まる歌詞は、曖昧さや問いかけの語彙を軸に組み立てられている。断定を避け、<無意味な駆け引き><揺らぐリズム>といった象徴的なフレーズを断片的に配することで、聴き手に情景の余白と感情の揺れを委ねている。この余白によって、聴き手はイメージを膨らませると同時に、次の言葉を待つ余裕が生まれる。歌詞も含めて、楽曲を構成する様々な要素のどれかひとつを突出させるのではなく、すべてのファクターが音像として機能している。 

最後に一点、気になることがある。Paco de Lacicoって、著名なスペインのギタリストからきてます?取材する機会があったら、そこらへん、つっこんで聞いてみたいところです。 

文・伊藤亜希


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