2020年に結成されたウマしかて。結成当初から積極的にライブ活動を展開、定期的に音源をリリースするなど、確実に実績を培ってきた。2023年にリリースされた「1998」がSNSを中心に話題を集めたほか、『TOKYO CALLING』『MINAMI WHEEL』『TENJIN ONTAQ』など数々のサーキットフェスにも出演。2024年には初の流通盤EPをリリースし、全国ツアーのファイナルとなったSpotify O-Crest公演をソールドアウトさせるなど、ライブハウスシーンで確かな存在感を築いている。日常に潜む感情や男女関係を独自の言葉で切り取り、力強さと優しさを併せ持つ歌を“現場”で鳴らし続けているバンドだ。
「それでも私は」は、2026年4月にリリースされた1曲。6月になりEggsへもアップロードされた。ほぼアカペラの状態から始まるこの曲は、途中でテンポが変わるロックナンバー。好きな人の幸せを願うこと、それが自分にとって残酷であることを生々しく描いている。恋愛を成就させたいという願望ではなく、その相手が自分なしでも幸せになれることを理解してしまった時に、生まれる痛みへ焦点が当てられているゆえ、その痛みが聴く者の心に刺さってくる。メロディーもストレートで、無理に言葉を詰め込んでいない。その分、シンプルな言葉が、その意味以上の感情を伴って、走り抜けていく。バンドアンサンブルの温度感で楽曲を成立させている点も印象的だ。
自分を未来から消してしまう切なさ――癒されていない傷の正体
歌詞で特に印象的だったのは、〈君はきっと幸せになれる そこに私がいなくとも〉という一節。本来であれば“君と幸せになりたい”と願うはずの恋心が、最初から自分を未来の外側へ置いているところが、切実でまだ癒えていない感情を描き出している。さらに〈君の特別になれなくても生きていけてしまうんだろうな〉という言葉からは、恋愛感情そのものではなく、その感情によって生まれる自己否定や無力感さえ滲んでくる。だからこの曲は、聴けば聴くほど苦しい。しかし、苦しさの向こうには別の感情が立ち上がることをしっかり教えてくれる。
フクダチナツ(Vo./Gt.) のボーカルも楽曲の世界観と強く結びついている。サビでも単なる解放感へ向かうのではなく、言語化できない感情を抱えたまま進んでいく。声が裏返る瞬間さえ、荒々しさではなくエモーショナルな要素として機能させている。伝えたい言葉、伝えたいことに真正面から向き合ったゆえに、零れ落ちる情熱は、切迫感さえ魅力にしてしまっている。
相手を想う優しさと、自分を信じきれない弱さ。その相反する感情を飾らず描き出したこの曲は、多くの人が抱えたことのある“言葉にできない想い”を静かに照らしている。
文・伊藤亜希
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