「特集・ライブハウスの中の人」vol.19〜千葉編 / 千葉LOOK(ルック)〜

「特集・ライブハウスの中の人」vol.19〜千葉編 / 千葉LOOK(ルック)〜

2025/11/20

1989年からスタートした老舗ライブハウス、千葉LOOK(ルック)。店長のサイトウヒロシ氏は、愛情の深さとユニークなキャラクターで、アーティストや観客から愛される名物店長だ。本取材中に、ライブハウスにチケットを買うためにルックを訪れたお客さんに、朗らかに対応し、最後に「よろしくお願いします!押忍!」と言い、お客さんを笑わせていた。そんなサイトウ氏に千葉のインディーズシーンとともに歩んだ36年間を振り返ってもらった。千葉LOOKならではの“愛と笑いの記念イベント”とは? 

多くのインディーズバンドに助けられ、ライブハウス業を学んだ千葉LOOK

──千葉LOOKで働き始めたのはいつですか?  

サイトウ:26歳です。バンドブーム黄金期の1989年に入りまして。店長って任命されてないんで、自称店長ですね(笑)。 

──ライブハウスの名前の由来を教えてください。 

サイトウ:元々ここは「LOOK」というスナックのようなパブのような空間だったんです。当時の店のオーナーがバンドブームを知り、「21時ぐらいまでライブをやってくれる人に場所を貸したい」と。ライブハウスを夜9時ぐらいまでやって、夜10時にはドレスを着た女性の方が店でお客様を迎えるというスタイル。もう、カオスでしたね(笑)。それが1989年から3、4年くらい続きました。 

──店名を変えることは考えました?  

サイトウ:いや、名前を考えるのって大変じゃないですか。変える必要もないですし。でも、ステージが低いから、満員になると過半数の人が見えなくて、「ステージが見えないのに、よくLOOKっていう名前にしたよね」って、アーティストからよく言われますけどね(笑)。 

──ブッキングに関しての信念やこだわりを教えてください。 

サイトウ:ライブハウスって出たい人が出るところだと思うんですよ。自分から知らないバンドに「出てください」とお願いしたりすることも、基本ないです。屁のツッパリみたいなこだわりですかね。何が屁のツッパリかって話なんですけど(一同爆笑)。新しいバンドと出会う時は、出演バンドから「他のバンドを誘ってもいい?」と言ってもらったりして知り合うことが多いです。例えば、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTThe ピーズが紹介してくれたんですよ。僕らは最初、ライブハウスをやったことがない素人の集まりだったので、出演者に助けられて、いろいろと教えてもらいました。 

──千葉県のライブ会場は駅から遠い印象がありますが、千葉LOOKは(千葉)駅から近いですよね。この立地だからこその良さは感じられますか? 

サイトウ:まず千葉が遠いじゃないですか。千葉駅までだって東京から1時間半くらいかかるし、外房とか内房に住んでいたら、東京に行くのも大変。で、本八幡にRoute Fourteenってライブハウスがあって、市川にCLUB GIO(2003年に閉店)があって。千葉(駅近辺)まで来てくれる人は少なかったですよね。でも、ある時から「本八幡だったら東京でやればいいんじゃない?」って、みんな勘違いしてくれて(一同爆笑)。なんとなく「俺たち、千葉担当してまーす!いつでもどうぞー!」みたいに(続・大爆笑)。 

大真面目にふざける周年イベントが千葉LOOKの醍醐味の1つ

──千葉LOOKで長くお仕事をされてきた中で、嬉しさを感じる瞬間は? 

サイトウ:1990年代は、インディーズバンドがツアーでライブをしてくれるようになったことが嬉しかったですね。2000年代は、千葉LOOKの20周年のイベント『千葉LOOK 20th ANNIVERSARY ~ 6 x 9 = 53days ~』ができたことです。20年なんて、とても続けられるなんて思わなかったので「うわっ、すげえ!」って他人事のように思いました(笑)。 

──その周年のイベントで印象に残っていることを教えてください。 

サイトウ:まず10周年があって、背伸びしたイベントを1カ月やったんですけど、今振り返れば、全然面白くなかったんですよ。こんなことじゃダメだなと。15周年は、一緒に飲んだことのあるバンド、つまり打ち上げに一緒に行ったバンドだけに出てもらおうと思って、1カ月間『Chiba LOOK 15th Anniversary “呑み達”』というイベントをやりまして。20周年は飲んだ飲んでないを問わず、関係性のある人だけでイベントをやりました。25周年の時は、それまでライブハウスをやってきて、音楽シーンもいろいろ変わっていく中で「ライブハウスって20年周期なのかな」と思うようになっていた。だから、20周年+5周年で『CHIBA LOOK 20+5th ANNIVERSARY』というタイトルにしてやりましたね。 

──30周年もイベントをされたんですか?  

サイトウ:やりました。1カ月じゃなくて、やんわりと半年ぐらいかけてやったような気が。あとは12年前の2013年に、自分の50歳イベントを1カ月やりました。「俺の人生のピークは多分ここだ!」と思って、出演者に「俺の50歳を祝いに来い」と(笑)。 

──最高ですね(笑)。 

サイトウ:それを60歳でもやっちゃいまして。60歳の翌年が千葉LOOKの35周年だったんですけど、60歳をわりと派手に祝っちゃったんですよ。1か月のイベント期間中、毎日、自分で“60歳まで、あと何日”と書かれたプレートがのったケーキを自腹で買って。 

――はははははは(大爆笑)。面白すぎる。 

サイトウ:バカでしょ(笑)。1カ月分のケーキをEXCELに書いてケーキ屋さんで注文したら、全部で18万円だか19万円ぐらいになりましたね(笑)。 

──アーティストの皆さんはケーキを見てどんなことを仰っていましたか?  

サイトウ:いや、もうみんな「バカな奴だな」って感じですよね(笑)。打ち上げの居酒屋さんにケーキを持って行って、自分でロウソクをつけて、「ハッピーバースデートゥーミー♪」って自分で歌って、ロウソクをファって消して、「ありがとうございます!」と言ってみんなにケーキを食べてもらう。自分が甘いものが好きじゃないから、みんなに食べてもらおう、と。連日赤いちゃんちゃんこを着て、赤い帽子をかぶって、バカ面ぶっこいてやってました(笑)。みんなに祝ってもらうのが、本当に嬉しかった。みんなに祝ってもらう。やってみたら本当にありがたい。

サイトウ氏がこだわる、ライブハウスらしい千葉への地元愛

──今注目をしている地元のバンドを教えてください。 

サイトウ:DUGOUT CANOEっていうバンドです。20代後半なんですけど。40代、50代が聴いても安心するような、いわゆる王道なルーツロックをしてる3人組ですね。 

──最近千葉LOOKに出演したライブの中で印象に残っているバンドを教えてください。  

サイトウ:最近面白いなと思ったのはNikoんです。『FUJI ROCK FESTIVAL '24』の「ROOKIE A GO-GO」にも出演してました。ライブもめっちゃくちゃ良かったんですけど、彼ら、今、CDを買った人を全員無料で招待するっていう47都道府県ツアー『アウトストアで47』をやっていて。最近ライブと音源を、こういうアナログな方法で連動させるバンドっていなかったよなと思って。CDを買った人は同伴者を1人連れてきても無料でライブを観られるんですよ。めちゃくちゃすごいことじゃないですか。自分たちを知ってもらうために、47都道府県ツアーやって、なおかつ、CD購入者は無料って。心が洗われたっていうか……バンドのスタイルやメッセージとしてすごい素晴らしいなと思ったんです。 

──それはとてもいい企画ですね。他にも印象に残ったアーティストはいらっしゃいますか? 

サイトウ:SUPER BEAVER04 Limited Sazabysの2マン。当然超満員ですし、機材もすごく多かった。「あれ、前はこんなに機材なかったよな。いつの間にこんなに多くなったんだ?」と(笑)。うちのライブハウスは、機材のはける場所がないから、転換する時は客席を通って機材を運び込むしかないんですよ。お客さんに「ちょっと道を開けてください」ってドラムとか外に出して。お客さんも「うわー、今までステージで使ってたギターが自分の目の前を通っていく!」みたいな。むちゃくちゃでした(笑)。それと、秒殺で売れる公演ってあるじゃないですか。フォーリミSUPER BEAVERの時も秒殺でチケットが完売したんですけど、告知と同時に千葉LOOKの店頭でもチケットを売るんですよ。ライブ告知と同時に千葉LOOKでの販売も告知する。だから、みんな告知と同時に、うわーっと息を切らして走って買いに来るんです。高校生もいますし、学生じゃない人もいます。そういうアンテナを張ってくれてる地元のお客さんを1番大切にしたい。なんか方法は雑かもしれないけど、そういうのが1番ライブハウスっぽいなと。 

──ライブハウスに来るお客さんを見て嬉しくなる瞬間は?  

サイトウ:1人だけ気が狂ったようにノってる人とかいいですね。前方のお客さんのノリと全然違う、後ろの方でバカノリしてる人とか最高だな。そういう人がいると嬉しいですね。みんなが一体となるのも楽しいんですけど、1人ぐらいそういう人がいると、もっと楽しくなりますね。  

──今後のライブハウスへの展望や期待を教えてください。  

サイトウ:出演者とお客さんにとって最初の1歩目の場所でありたい。それから、ライブハウスでありたい。マネジメントをやる、フェスをやる、制作をやることじゃなくて、ライブハウスしかしたくないんです。昔、自分もレーベルみたいなことをやったことがあったんですね。バンドを連れて全国ツアーをやったりとかして。そこでいろんな人と知り合いになれたり、ライブハウスってこういう風にやった方がいいんだなといろいろと教わって覚えたりとか、怒られたりもして、いい経験にはなった。でも半面、千葉LOOKの仕事が疎かになっちゃったんですよね。千葉LOOKに出演してくれるアーティスト達が、「何で俺たちがLOOKに出るのに、今日サイトウいないの?」「え、何でバンドとツアーなの?」って言ってると聞いて。これはいかんな、と。だから、自分はもうライブハウスだけやれればいいなと思ってます。  

──親交のあるライブハウスや、気になるライブハウス、好きなライブハウスを教えてください。  

サイトウ:親交があるのはHEAVEN'S ROCKと水戸LIGHT HOUSE。先輩でいうと名古屋のElectric Lady Landですね。もう下僕(しもべ)なんだよ、俺。兵隊です(笑)。 

──先輩が東京に来た時に全部アテンドするみたいな感じですか? 

サイトウ:はい。でも今はあんまりやらないですけどね。今は“うまいもの研究会”っていうのがありまして。Electric Lady Landの人がボスで。「そろそろどこかにうまいもん食べに行こうよ」「分かりました!」って言って、ライブハウスの人間集めて、仙台に行ったり、新潟に行ったり、大阪に行ったり、沖縄に行ったりしています。 

──うまいもの研究会は何人ぐらい集まります?  

サイトウ:1週間ぐらい前に「沖縄行くんだけど、みんな行ける?」って言って、精鋭部隊5、6人で行く鬼のような企画(一同爆笑)。前は1カ月ぐらい前に声をかけてたんですけど、そうすると人数が多くなっちゃって。30人とかで旅行に行くことになる。そうすると、つまんないじゃないですか。5、6人だとみんなで喋れるのに、20人、30人になると全員と話すのも大変というかね。なので急に誘っても来る、猛者、精鋭部隊で行こうっていう話になって(笑)。 

──サイトウさんの出席率はどうですか? 

サイトウ:まずElectric Lady Landの社長から自分に電話があって、2人で日程を先に決めちゃうんですよ。その後ギリのタイミングで40人ぐらいにドンとメールを流して行ける人行くぞっていう。 

──集まった時には、どんな話をされますか?  

サイトウ:そうですね。ライブハウスの話は多いですね。あと喧嘩も多いんで、見てて面白いんですよね(笑)。 

──喧嘩になるキッカケは? ライブハウス論とが飛び交ったり? 

サイトウ:いやそんなこう……高尚な理由ではなくて、ただの酔っぱらいのケンカです。「お前、気に入んねえんだよ」みたいな。生産性とかは皆無のただのケンカ(笑)。 

──「何でビールじゃなくてレモンサワー頼んじゃうんだよ。気に入らねえな」みたいな感じですか?(笑) 

サイトウ:そういう感じです。いや最高ですよ(笑)。 

取材:伊藤亜希 
構成・執筆:橋本恵理子 

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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