詠む空気(ヨムクウキ)が「Pause」で見出したひとつの最適解

詠む空気(ヨムクウキ)が「Pause」で見出したひとつの最適解

2025/11/26

2025年に始動した詠む空気(ヨムクウキ)。メンバーはYUKI(Vo.)、Katter(Gu./Vo.)の2人組バンドだ。2025年7月に初音源となる「ちょうどいい」の配信をスタートし、これを皮切りに「どうなんだ!?」「何かあったら連絡して」、そして11月の「Pause」まで、4か月連続で楽曲をリリース。それぞれの曲調は大きく異なり、2人組ならではの自由度で大胆な挑戦を続けてきたのがわかる。一方で、初期3曲は意図的な実験要素も強く、“詠む空気らしさ”をまだ掴み切れない印象も正直あった。 

しかし、彼らは「Pause」で、鮮やかに孵化した。 
Pause」は、メロディー、アレンジ、ボーカル、コーラス、歌詞まで、すべての要素がハイクオリティー。それがしっかりひとつにまとまり、このグループの個性が立ち上がった楽曲である。イントロのコーラスや流麗なストリングスはウォール・オブ・サウンドを思わせ、都会的な気配を帯びたシティポップに着地している。洒脱だが憂いを含むメロディーラインが特徴で、Aメロは語りかけるような低めの重心、Bメロでは細やかな跳ね、サビでは自然な上昇を描き、一定の波線を描くように起伏を生む。この起伏の設計が楽曲にスムースなグルーヴを与えているあたりが、じつに秀逸。また、高音が張り上がる手前でスッと一音下がる処理や、無理なく差し込まれるファルセットも、2人の声質に自然に溶け込んでいる。 

主観を客観に錯覚させるような、歌詞のオリジナリティー 

歌詞についても触れよう。「Pause」の歌詞は、自分への不信感を受け入れている。否定も肯定もせず、ただ事実として受け入れていることが、じつに切実。受け入れるだけで精一杯なのだと想像させる。中でも特筆すべきは<私の中の誰かが疑っている>というワンフレーズ。主観を客観に錯覚させるような、独特の表現方法を用いている。思考と感情が噛み合わない存在であること、自分を持て余していること、日常がどこかかみ合っていないこと、もっと言えば人間は矛盾した生き物であることが、このワンフレーズに凝縮されている。個人的には<日々によろける>というワンセンテンスに、文学性を感じた。 

Pause」は、詠む空気が試行錯誤の先に見つけた“最適解”とも呼べる1曲だ。彼らのキャリアを大きく前進させる1曲になるだろう。 

文・伊藤亜希 

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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