決めるのは”今の僕”、生きるのは”明後日の僕ら”
- 1. 一期一会
- 2. 網状脈
- 3. 迷想
- 4. 流れない涙
- 5. 74億の世界
¥1,620 (Tax in) / 274-LDKCD
インターネット経由、路上育ち。弾き語り、DTM、ドローイング、動画制作など、あらゆる創作をたった一人でこなす、18歳。作品を通じてイメージしていたのは、“苦しみながら音楽を奏でる、伏し目がちな女の子”。が、そんな想像は会ってすぐに塗り替えられた。これまでの自分を臆することなく喜々として語る、湯木慧という少女の目には一点の翳りもない。明るく柔らかな口調に時折「作品をつくることは人生そのもの」と、こちらが気後れしてしまうほど強くまっすぐな言葉まで飛び出す。
<前編>では、彼女がいかにして“表現者”になったかを巡りながら、彼女の表現へのスタンスをひもといた。後編では、2/22にリリースされた、1stミニアルバム『決めるのは“今の僕”、生きるのは“明日の僕ら”』について。作品の随所に散りばめられた、岐路を迎えた彼女の心中と、音楽へと昇華する道筋には、きっと“僕ら”が未来を歩んでいく上でのヒントが見え隠れしているはずだ。
Text:横田 大
Photo:中津 祐一
ーー小さいころから全然ぶれてないんですね。ちなみに、なぜ音楽ではなくデザインの学校に?
湯木:絵を描き続けるうち、絵で表現したいことが、技術的に全然表わせなくなっていったんです。それで音楽よりも先に絵を学びたい、と。矛盾してしまうかもしれないけど、いくら音楽が好きでも“音楽だけの脳”にはなりたくない、というところもあって。いろんなことをやっているからこそ、生まれる表現があると思うんですね。だから学校を卒業しても、何かしらずっと学び続けたいとは思っています。
ーー湯木さんにとって音楽が気持ちを表現する手段だとしたら、音楽はその面である程度満足できているけど、絵はそこまで達してないと?
湯木:もちろん音楽も「もっとこうなのに!」とは思ってますし、パフォーマンスや技術的な面では学んだほうがいいこともたくさんあるとは思うんですけど、クリエイティブの部分は、人に教わるものじゃないという位置づけをしていて。作品をつくる人間は、学ぶというよりいろんなことに感化されたほうが、クリエイティブに発揮されると思うんです。逆に言えば、いまは絵のほうが技術を学んだほうがいいと感じられたので、学校に行くことにしました。音楽も本当に必要だと思ったら学びに行くと思いますけど、自分でまだどうにかできるうちは、お金をかけてまで学ぶことかな、って思うところもありますかね。
ーー先ほどの話のようなDIY精神もあるのかもしれないですね。ちなみに、デビュー作では、作品づくりの面で今までと違うこともたくさんあったんじゃないですか?
湯木:最初はただひたすら、怖かったです。時間も決まっている上に、いろんな人が関わってるので、自分一人の責任じゃなくなるし、誰かとものをつくるのも初めてだったので。だから、私は「ただ自分を表現する」っていうことに集中して。でも、意見を求められても、自分の実力不足で的確に伝えられなかったり。誰かとものをつくるには、もっと明確に像を示さなきゃいけないんだな、ってことを学びました。
ーーいままさに、音楽はどんどん吸収していってるんでしょうね。
湯木:そうですね、音楽は現場で学んでいこうと。たぶんいまはいろんな人に迷惑かけてるけど、その分いろんなことを吸収できたらと思っています。
ーー濃い話があり過ぎて、なんとここから作品の内容に入っていくんですが(笑)。まずタイトルの『決めるのは”今の僕”、生きるのは”明後日の僕ら”』で、「僕」と「僕ら」で時系列で人称が変わっているのは、どうしてなんでしょう?
湯木:楽しくて、喋りすぎましたかね(笑)。作品全般に対して、私の原点にあるのは“出会い”なんですが、その上で言うと。もしいま、自分一人で考えて一人で何かやろうと思っても、それは絶対に無理で「未来の自分は誰かと出会って、そのことに作用されて生きている」ってことを表したかったんです。私もこれまでは一人で活動してきたかもしれないけど、それ自体いろんな影響を受けてきたからで。そのことに感謝しなきゃならないし、いろんな出会いがあってこその今。それに未来にはまた、いろんな出会いがあるはずだから。
ーーなるほど。では一曲ずつ、聞かせてください。「一期一会」はおじいさんと友だちが亡くなったときに書いた曲とのことですが、これはいまの話も踏まえると、辛い時期を過ごした経験から、いま一緒に過ごしている人や、これから出会う人を大切にしてほしい、というメッセージが込められているんでしょうか?
湯木:そうです、本当にそう。当たり前に会えていた人が急にいなくなって、伝えるべきことがたくさんあった、という後悔が残っていて。だから、きれいごとかもしれないけど、みんなは手遅れにならないうちに、大切だと思う人がいたら気持ちを伝えて欲しい。もし喧嘩していたりしても、ごめんって感情が少しでわいてきたなら、伝えたい想いが変わったなら、そのときすぐに更新して伝えてほしい。
それとこの曲には、告別式のすぐ後にあった部活の引退式への想いもあって。私、学校も部活の仲間も大好きだったんです。だから、みんなで夜まですごく泣いて。私は二人との別れの経験が少し前にあったから、ここにいる人たちの存在自体、当たり前じゃないっていうこともプラスして「ありがとう」って言葉が言えたけど、みんなはそういう経験をしてないのに「ありがとう、ごめんね」と言い合っていて。この人たちの心はなんてきれいなんだろう、この光景や想いを音楽にして残したい、って思ったんですね。
ーー“大切さっていつからか、一歩後ろを歩いてくる”というサビのフレーズは、わかってるつもりでつい忘れてしまいがちなことを、思い出させてくれる気がしますね。2曲目の『網静脈』でも、死生観や輪廻について歌っていますね。
湯木:この曲は、具体的な出来事とは関係なく、進路のことで悩んでいたときに書いたものです。そのときにちょうど『地球大進化〜46億年・人類への旅』というドキュメンタリーを観たんですね。内容はビックバンから生命の誕生、そして何億年も経って人間が生まれて……というものなんですが、その中で「地球の寿命と比べたら、人間の一生なんて0.5秒」ということを知って。いったい人間ってなんなのか、死んだらみんな循環していくだけだし、その一つパターンをやってるだけなのに、こんな小さなことに悩んでるなんてもったいない! と思って、つくった曲です。
ーー「流れない涙」でも、血とか輪廻で繋がっていくといったテーマが出てくるので、実は仏教思想に影響を受けている? とか思ったりしていました(笑)。
湯木:あ、そういうことではないんです。私が生命とか宇宙に興味があるので、両方ともその生命の繋がりや循環がおもしろいと思って、つくった曲でした。
ーー続いて「迷想」という曲は、焦燥感がテーマだと思うんですけど、この曲だけ音楽性が違いますね。ギターのコード進行っぽくない、というか。
湯木:そうなんです。「迷想」だけは打ち込みで、ベースからつくった曲。そのときもやはり、将来どうするかで悩んでいたんだと思います。基本的に何かしら悩んでますね(笑)。でも高校1、2年生のときって、文化祭が楽しみとか球技大会が楽しみとか、明日のお弁当なんだろう、みたいなことで日々が過ぎていくけど、進路の時期って受験もそうですが、もっと遠い未来を考える時期でもあって。
人間って、考えてもわからない遠い未来のことを考え始めると、病むんですよね。周りからいろんな言葉も降りかかってくるし、そういう漠然とした怖さや迷いを曲にしようと思いました。ただ、なにせ悩んでいるから、いつものようにギターが弾けない。で、どうしようと思って打ち込みをやってみたんですね。明るい気分じゃなかったからか、暗いベースのメロディだけが浮かんできて、そこからつくっていきました。
ーーこの曲だけ異質だなって思ってたんですけど、手法を変えたわけではなく、気持ちがそうだったから、それが打ち込みというカタチで表れたんですね。では、ラストの「74億の世界」ですが、これはほとんどアカペラで、ほかの曲と違って自分でアレンジをされたとか?
湯木:まずアレンジに関して言えば、たとえば『一期一会』や『網静脈』は世界観やニュアンスを伝えて、アレンジしていただいたり、『迷想』や『流れない涙』は、ほぼ全部私が打ち込みをして、荒削りな部分を整えてもらったりしています。でも最終的にはわりとスタジオに入ってから、ほかのミュージシャンの方々と一緒に、「どうしようか」と相談して、出来上がっていった部分もあります。
「74億の世界」は完全に自分ひとりでつくったので、そういう意味では少し特殊な曲ですね。この曲に込めたかったのは、小学校ぐらいから学校生活でずっと思っていたことなんですが……。私、昔から音楽大好き、図工大好き、家庭科大好きって、いわゆる普通の勉強がキライな子どもだったんですけど。ある日、道徳の時間に貧困が激しい異国の方のスピーチを聞く授業があって。「みんなは勉強ができて、給食が出てきて、家があって寝れるって、すごく恵まれたことなんだ」って言われたんですね。もちろん言ってることはわかるんだけど、それを他人から言われてしまうと、なんだかなあって思ったんです。
もしかしたら、その国の人は貧しくても、勉強ができなくても、家族やあたたかい人たちと暮らしていて幸せかもしれないし、一方私たちが都会で生きて“恵まれた生活”ができていても、勉強が心底嫌だったり、いじめられていたり、全然幸せじゃないかもしれない。世界に74億人いるとしたら、その人間の数だけ人生があるし、価値観だってみんな違うじゃないか。幸せか不幸せかなんて比べてられるものじゃない……と、そういう想いを曲にしたのが、この「74億の世界」だったんです。もともとこの曲は、打ち込みの別アレンジをYouTubeに上げていて、それもけっこう気に入ってたんですが、アルバムではとくに言葉を伝えたくて、アカペラにしました。
ーー全編を通して、聴いた人に何か感じ取って欲しいというメッセージを感じました。作品に触れた人が、何かこんな風に変化してくれたら、という想いはありますか?
湯木:それぞれに想いや出来事はあるんですけど、曲に答えがあるわけじゃなくて、聴いてくれた人が自分に当てはめて、みんなの曲になってくれたらと思います。ただ、私としては、作品を通して出会いやそのあたたかさを大切にしていて。それは死ぬまでずっと変わらずに、心にあるものなんだろうって思います。だから、みんなにもそのあたたかさを感じてほしいし、このアルバムの曲が迷ったり辛いときに聴こうというプレイリストに入ってくれたら……なんだろう、居場所になるって言うのかな。そして何年後かにでも、何かの節目にまた引っ張り出してくれたら、すごくうれしいです。
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