Text:今井雄太
Photo:AZUSA TAKADA
UK.PROJECTのオーディション「Evolution!Generation!Situation!Vol.2 supported by Eggs」の東京でのライブ審査が、7月9日にZher the ZOO YOYOGIにて開催された。2014年の第1回目はHelsinki Lambda Clubが優勝しデビューを飾った他、PELICAN FANCLUB、polly、the equal lights、DATS、Saucy Dog等、今の音楽シーンを彩る新進気鋭のアーティストが出場している。今年度の最優秀アーティストには、UK.PROJECTからCDリリース(タワーレコード限定発売)。また、収録曲を1曲、BIGMAMA金井政人(Vo&Gt)がプロデュースし、さらに真夏の恒例イベント「UKFC on the Road 2017」への出演権を獲得するという大きなチャンスを得ることが出来る。
オーディションの口火を切るのは、J-WAVE「SONAR MUSIC」からの推薦枠で出演を果たす群馬県出身のスリーピースバンドpopoqだ。3人とも黒を基調としたゴス風な衣装が印象的で、テレキャスターの粒の細やかなアルペジオが鳴り響く『flower』からライヴが始まった。力強くボトムを支えるリズム隊に上条渉(Vo&Gt)の透き通るような歌声と広がりのあるギターコードがフロアに響いていく。
「popoqです。今日はよろしくお願いします」と上条がオーディションという独特の緊張感の満ちた会場へ、落ち着いた様子で挨拶を告げると、バンドは衝動剥き出しで突き抜ける『alyssum』と突入する。目が眩ませられる赤と黒の照明ステージを彩り、崩壊しかけたギリギリのアタック感で叩き付けるシンバルが、どんどんバンドのテンションを吊り上げてゆく。そんな過剰の美学を感じさせる演奏は、自分達の世界観を少しでも見せ付けるという闘志が胸の奥でギラついているからなのだろう。
そして、「後世に残る名曲を」という大胆不敵なMCの後に演奏された『siesta』では、上條の滑らかなハイトーンボイスと、バンドの爆音が鳴り響く中、オグラユウキ(Ba)が少し楽しげに、くるくると回りながら演奏するのが印象的だった。自分たちの音楽に対する自信を見せつけ、轟音と耽美の中で、このバンドならではのムードが薫った演奏だった。
一方、絶妙の緊張感を生み出し会場を引き込んだのは、続く2組目スロロリスだ。
R&B風のゆったりと腰にくるSEから地続きに、キーボードを迎えたバンド編成でセッションをスタート。奥ゆかしいメロディに、会場の空気がスッと軽くなったような気がした。そのまま静かに一曲目『夜のあと』へ。ループするバンドサウンドによる解脱感と、ハッと息を飲む轟音フレーズのフックで、独特の緊張感を会場中に張り巡らせていく。そこに伊藤雅章(Vo&Gt)の芯のある伸びやかな歌声がフロアに鳴り響く。<今夜息も忘れ踊ろう>という象徴的なサビのフレーズには、思わず胸を掴まれた。
「いい夜にしましょう」というMCの後に披露された『遠泳』では、すこ(Ba)と加賀谷翔(Dr)がタイトにサウンドを作り上げてゆく中、伊藤が少し苦しそうに後ろに重心を置いた歌声を響かす。徐々にクライマックスを感じさせる、バンドの音の組み立て方が素敵だ。3曲目に披露したのは『息をする』。『夜のあと』でも歌われた「息」という単語が象徴的。情景豊かな歌詞の中で、伊藤の少し苦しそうな顔で歌われる「息」という単語のイメージが、鳴っているタイトな演奏と絡み合い昇華されて、バンドの胸を焦がす様な切なさがしっかりと伝わってきた演奏だった。
ちょうど中間となる3組目で出演した4人組antigraphは、間違いなく会場の出力を一段階押し上げた。
ステージにメンバーが揃うと、飯塚駿太(Vo&Gt)がマイクを通さず、ステージ上で何かを叫ぶ。呼応するように各メンバーが音を鳴らし、演奏が始まる前からバンドの熱気がありありと伝わってきた。歪んだ思い切りのいいコード感が心地良い『切に願った』でライブはスタート。リズム隊のダイナミックな展開に、工藤慧大(Gt)の鋭いメロディアスなギターが、楽曲を素早く彩っていく。MCで飯塚はこのオーディションの決められた15分の演奏を見に来てくれたオーディエンスに感謝を述べて、「俺らの全て持ってきました!」と気持ちのこもったMCを告げる。フロアからは伸び上がった拳が、まっすぐな思いと熱量のあるバンドの演奏への答えだ。
MCの後、前のめりな飯塚の歌メロから入った『焦燥』では、複雑に各パートが組み立てられ、絡み合い、バンドの熱量が練り上がっていく。続く飯塚と工藤が、向かい合ってイントロを弾き合わせた『Teleflight』は、タメの効いた一小節一小節を打ち付ける様なリズム隊のタイム感と、弦楽器のストロークが心地良く響いた。オーディエンスをも掴むまっすぐな熱意と、心地良いタメと軽やかコード感。自分達の持っている武器を充分に披露したライヴだった。
4組目を飾ったのは、唯一の英語詞バンドcook look happening!だ。ミクスチャーロック、UKロック、ファンク等の幅広い音楽を吸収しこのバンドならではの音像を作り上げる。柏(Vo&Gt&Syn)が「埼玉県の草加市から来ました。cook look happening!です。今日はどうぞよろしくお願いします!」というMCを勢いよく告げると、柏のファンクギターと内村勇希(cho&key)の無機質なシンセサイザーが絡み合い、柴本雄太(Ba)うねるベースと大田和洋人(Dr)の力強いドラミングが、独特の熱気と鋭さを生み出した『Relation or Connection』でフロアを揺らす。続いて、ベースのセンチメンタルなディレイ音から始まり、時には柏もシンセサイザーを弾き、冷たい硬質な音でグルーヴを組み立てていく『Walking into Woods』を披露。「感情を音に変換する」というバンドのコンセプトを掲げるだけに、多彩な音楽的な引き出しを見せる。また、軽やかなステージングも魅力的だ。柏が「盛り上がっていますか!」と投げかけ、フロアから返事が来ると「これめっちゃ気持ちいいんでありがとう(笑)」と屈託のない笑顔を見せる。観客に手拍子を求めたりと、積極的に会場の雰囲気を掴みにいき、また、それを音楽へ還元しようとメンバー同士で目を合わせて演奏をしたり、各々表情豊かに演奏をしているのが印象的だった。
5組目は、群馬県出身の4人組バンドfish in water projectだ。塩尻迅人(Vo&Gt)はステージに上がると深々と礼をし、『shall we dance?』からライヴはスタート。煌びやかなエレクトロサウンドの打ち込みと、音数を絞ったリズム隊の跳ねるダンスビートに、塩尻の深みのある落ち着いた歌声が心地よく響く。続く『マリファナ』では、退廃的な歌詞観と対象的に、ゆったりとしたBPMの横揺れなグルーヴとファルセットの効いた心地良い掛け声が、静かにフロアを揺らしていく。途中、飯田連(Gt)がMCで告げた自信を持って自分達の音楽をやっている、といった旨の力強いMCには、姿の隠れた匿名性のあるアーティスト写真と「project」と銘打たれたバンド名からも感じ取れる、彼らの音楽主義な情熱を垣間見たように思えた。
そして最後に披露されたのは、新曲であると言う『NAVY』。飯田の煌びやかなリフと、リズム隊の二人が重心の低いリズムを刻み、カオスパッドの無機質で硬質な音とファルセットの効いた塩尻の伸びやかで力強い歌声響く。確かに揺れていたフロアと、静かに燃え滾るバンドの情熱を感じた演奏だった。
そしてオーディションのトリを飾るのはRadicalismだ。ステージに上がると令(Vo&Gt)がギラついた視線でフロアを見渡しながら、待ち切れなかった様に「石巻から来ました。あなたの15分を俺たちにください!」と強く言い放つ。アルペジオから鳴らされ、力強く訴えかける音圧のバンドサウンドが鳴り響く『Birthday』でライヴがスタート。刹那的で情景豊かな歌詞に令の訴えかける様な歌声が会場中に鳴り響いていく。アウトロ後に平達彦(Gt)の空間的な広がりの見せるギターが鳴り響くと、バンドはそのまま『Charlotte is dead』へ突入。細かな楽曲展開で聞き手の耳を奪うサウンドと、ステージ上を目一杯使ったステージングからは、今がオーディションライヴという、勝負の場であるという事以前に、普段から自分達の音楽を多くの人に聞いて欲しいと願う、一朝一夕ではない闘志が伝わってくる。3曲目の『Good bye,kyanos』では、疾走感ある展開に勢いをつけるヨシダマサト(Ba)のベースラインと、平の多彩なギターがどんどんとバンドのグルーヴを高めていく。フロアからはそんな演奏に答える様に、拳が突き上げられていった。最後に令が言い放った「新木場で合いましょう!」という素直な願いも、自分達から優勝を掴みに行くという姿勢そのものだった。
Radicalismでオーディションバンドの演奏は終了したが、今回のオーディションの最後を飾るバンドは、前回のオーディションのグランプリを獲得したHelsinki Lambda Clubだ。
「皆様お疲れ様でした。そしてお待たせしました。Helsinki Lambda Clubです」というMCを橋本薫(Vo&Gt)が告げると、空耳必死の<スキンして? あとは好きにして?>という自暴自棄なサビのフレーズで駆け抜ける『Skin』でライヴはスタート。続けて、独特なコーラスワークとキャッチーなフレーズで、救われない生活の哀愁をスカッと歌い切る『ユアンと踊れ』、盟友tetoと共にスプリットシングルをリリースし、90年代オルタナのスカスカなサウンドで、どこまでもエバーグリーンな音像を広げる『King Of The White Chip』、ギターの破壊的エフェクトと、稲葉航大(Ba)が頭を振り乱し、半狂乱に暴れた『メサイアのビーチ』を披露する。どれも歪で、どこまでも底抜けにポップネス。強烈な個性が滲むHelsinki Lambda Clubの世界観を見せつけた。橋本がMCで「優勝してもしなくても、この日がきっかけになればいいなと思っています。新しい世代を作り上げてほしいです。」というコメントで出演者たちへエールを送ると、ゆったりとしたリズムが心地いい『目と目』、超キャッチーなコーラスワークとアウトロで破滅的な爆音鳴らし、会場中を飲み込んだ『This is a pen.』で大円団を迎えた。途中のMCで「3年かー、何をしてたんだろ」と稲葉は言っていたが、この3年間、より厳しい現場で培って来たであろう胆力とタフネスを感じさせる貫禄のある演奏だった。
なお、「Evolution!Generation!Situation!Vol.2 supported by Eggs」の審査結果は、7月下旬にUKFC on the Road 2017の公式HP及びTwitterで発表される。
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