after20時(アフターハチヂ)、余白が物語を紡ぐ、東京葛西発3ピースバンド

after20時(アフターハチヂ)、余白が物語を紡ぐ、東京葛西発3ピースバンド

2025/12/10

after20時は、東京葛西発の3ピースバンドだ。六本木・SCHOOL LIVE & BAR TOKYO(以下、SCHOOL TOKYO)が立ち上げたオーディション、『KING OF SCHOOL 2025 ROAD TO CHINA』で優勝を勝ち取っている。(https://eggs.mu/community/article/bt8of1xkv)  

ゆらゆらゆ」は、冒頭のカントリー風メロディーから、切なくロマンティックな空気へと移ろっていくミディアムチューン。各メンバーの演奏スキルが研ぎ澄まされており、玉手の歌を最大限に活かすため、バンド全体で“余白”を意図的に作り出しているように思う。音圧の緩急はもちろん、ドラムの響きやベースラインも必要最小限にそぎ落として、ミニマムで最適なアンサンブルを構築している。後半ではディスコビート風のリズムが登場し、アレンジ能力の高さも光る。フレーズ末尾の残響をあえて残すことで、楽曲全体のグルーヴが最後まで気持ちよく続く。  

味覚が登場する歌詞が、聴き手の記憶を呼び起こす

本作で特筆すべきは歌詞の描写力だ。 
〈苦いコーヒー 甘いドーナツ/ベランダの窓を眺めてさ〉という一節のように、味覚の質感と感情をリンクさせる言葉選びが印象的で、聴き手の“自分の記憶”をそっと引き出してくる。 
玉手のボーカルにも唯一無二の個性がある。昨今多くのボーカリストが用いる“母音を抜く”アプローチを、彼女はアタックを強めてから行うことで、言葉の輪郭が失われないまま浮遊感だけを残す。さらに、ビブラートの種類が多彩で、中でもこぶしの一歩手前のニュアンスは彼女ならでは。楽曲に湿度と温度を与え、濡れたような色気を生み出している。 
after20時の魅力は、轟音や音圧、過度なドラマ性に頼らず、物語性を成立させてしまう点にある。ポップスとロックの隙間を丁寧にすくい上げ、楽曲へと昇華させるセンスは類まれだ。今後どのようなサウンドを響かせていくのか、期待は高まるばかりである。 

文:伊藤亜希 

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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