mukeikakuがEggs先行配信の新曲「仰ぐ」で見せた感情の波動
mukeikaku(ムケイカク)は、東京を拠点に活動するバンドである。EggsやバンドのXのプロフィールに“from Shibuya”とだけ記されていることから、渋谷発のバンドであることがわかる。Xによると2023年8月にソロ活動をしていたmanaを中心に結成されたようだ。同じ8月にはmukeikakuとして初のライブを行っている。
2023年12月13日に初音源と7曲入りアルバム『konami』を発表。ライブ活動も積極的に展開していく。2024年にはシングル「ブルー」、シングル「dull」、EP『temperature』を発表した。このバンドのサウンドの魅力は、一言で言えば、ヒリヒリした緊迫感だ。曲調やテンポに関わらず、感情が波状のようにヒタヒタと押し寄せてくる。ギターロック、シューゲイザー、オルタナティブロックなどをルーツに持ちながらもジャンルレス。変拍子や転調を自在に操る丁寧なサウンドレイヤーで、無二のオリジナリティーを生み出している。このバンドの楽曲には、言葉だけでは表現しきれない感情が詰まっている。
圧巻のサウンドスケープ!歌詞と曲のシンクロ率も高い「仰ぐ」
最新曲「仰ぐ」は、2025年2月8日にEggsとYouTubeの先行限定配信された1曲だ。シンプルながらも深みのあるメロディーライン、圧巻のサウンドスケープが魅力だ。轟音系のアプローチをしながら、どこか透明感さえ感じるサウンドスケープは、このバンドの大きな武器だ。ミニマルなリズムセクションに支えられたギターの奔放なアプローチ、幻想の中で響く綺麗なコーラス、クライマックスへ向けてクレッシェンドをかけていくバンドアンサンブルの音圧と、サウンドのすべてがシンクロし、ひとつのドラマを作り上げていく。
ボーカルの歌声もしなやかで、子音を柔らかく発音したり、逆に強く発音したり、母音を早めに切ったり、少しひきずるように残したりと、じつに多彩なニュアンスでそのスキルを見せている。歌詞もサウンドに見事にシンクロしている。人としての存在理由を模索する心情を描いた歌詞は、時に鮮烈な単語を使いながらも、しっかりと聴く者の心に楔を打っていく。「空を仰ぐ」という行為そのものが、孤独や葛藤を映し出しており、サウンドと言葉のバランスが見事に調和している。
「仰ぐ」は、普段は蓋をしていた記憶や感情を呼び覚まし、その心を優しくも力強く揺さぶる。期待せずにはいられない曲の良さ、実力を持ったバンドだ。
文:伊藤亜希