2025年6月26日、下北沢mona recordsで開催された『まどかVol.11』の模様をレポート!

2025年6月26日、下北沢mona recordsで開催された『まどかVol.11』の模様をレポート!

2025/08/05

『まどか』は、mona recordsとEggsが共同で企画するアコースティックイベントである。屋外フェスを彷彿させるガーランド風の装飾が施されたmona recordsで2022年2月から定期的に開催されている。その11回目となる『まどか Vol.11』が、6月26日、木曜日に行われた。

6月上旬に梅雨入りが告げられた関東地方。この日も午前中から小雨が降ったりやんだりしていた。

多彩なボーカルアプローチで歌声を操り魅了した、こだまかなこ

 客席とほぼ同じ高さのステージに最初に立ったのは、こだまかなこ。普段はバンド編成でも活動しているが、この日はアコースティックギターのみ。ステージ上のスツールに腰掛け、何気なくギターを爪弾き始める。ミディアムチューン「ひだまり」で始まった彼女のライブ。丁寧なアルペジオと安定した歌声で、音と音の間にできる空白を余韻に変えていく。この“余韻”は、アコースティックライブや弾き語りスタイルだからこそわかる、楽曲のひとつの表情、そして醍醐味だ。彼女のボーカルアプローチは、フレーズ終わりの母音のニュアンスがじつに多彩。少し引きずるようにディレイ気味に歌ったかと思えば、次には早めに切り上げる。かと思えば、スコーンとヘッドボイスのような高音を聴かせる。透明感と力強さが交互に顔を出すような抑揚のつけ方も、観る者を飽きさせない。ピックを使いストロークの強弱で楽曲にストーリー性をつけた「June」、ブルージーなフレーズに本人の音楽的ルーツの幅広さを感じた「春」、凝ったコード進行とブラジリアンなリズムアプローチに音楽への探究心を垣間見たアップナンバー「hi,baby」とどんどん演奏していく。恋愛ソングでありながら、相手との関係性を冷静な視点で綴った「わたしはゆうれい」では、ローボイスまで巧みに使いわける。低音では愛嬌を残しているあたりの加減もお見事。自分の声がどう響いているのか、自分の喉がどう鳴っているのか、わかっているのだろう。テクニックはあるがそこだけを優先せず、歌声にしっかり感情を込めて歌うことができるシンガーソングライターだと思ったし、基本的には高音を地声(チェストボイス)で勝負している心意気が頼もしかった。 

setlist

  1. 01.ひだまり 
  2. 02.June 
  3. 03.春 
  4. 04. hi,baby 
  5. 05.わたしはゆうれい 
  6. 06.ギャー子 
  7. 07.テレパシー 
  8. 08.ひとりぼっちの天使 
  9. 09.恋のゆくえ 
  10. 10.ひかりの窓 

目の前で音像を作り上げていく。音楽が生き物だと体現した、ゆうさり

 2番手に登場したのは、新川莉子のソロプロジェクト、ゆうさり。“合奏”と称したバンド編成スタイル、自身とドラムの2名で行う“二重奏”など様々なスタイルでライブ活動を展開しており、サウンドはもちろん存在自体がオルタナティブだ。この日の『まどか』には“独奏”で登場。足元にエフェクターなどの機材が並び、横から伸びてきているマイクスタンドには、ティンシャ(チベタンベルとも称される)やチャフチャスが吊るされている。一滴の雨が落ちてきたかのように歌い出したのは「つきのうみ」。目をつぶり静かに歌いながら、スッと顔をマイクから遠ざけ歌声をコントロールする。途中からエフェクターを使い、エレクトロニカやアンビエント色の強いサウンドスケープを作り出す。曲終わりの余韻を打ち込みのループでつなげ、1曲目とは異なった雰囲気のサウンドを作り上げ「予感」へ。浮遊感あるサウンドに溶け込むように歌声が漂っていく。そんな中、最後は、構築したトラックをピタリと止め、歌声だけを残して終わった。MC。「ありがとうございます、ゆうさりです」チューニングしながら、バンドセットを“合奏”と呼んでいることなど自身の活動スタイルに触れた後、今後のライブ告知と続く。MCが入っても、それまで作り出した音像の雰囲気が変わらない。加えてサウンドの余韻も途切れない。短いMCだったが、MCさえもトラックの一部に感じさせるほど、そのサウンドはmona records全体をゆうさりの色に染めていた。リズムがワルツ風の情緒を感じさせる「うろこ」。なだらかな起伏を繰り返すメロディーが美しい1曲だ。このメロディーをゆうさりは、聴く者にほとんどブレスを意識させずに繋ぎ、1本の隆線のように歌っていく。「揺り籠」では、途中でギターから手を離し、膝の上に両手を置き、語り掛けるようにして歌うパフォーマンス。サウンドも操る吟遊詩人のようだと思って観ていた次の瞬間、歌声がよりクリアになり抜けるようなトーンを響かせ、楽曲に力強さを加えていた。

setlist

  1. 01.つきのうみ 
  2. 02.予感 
  3. 03.月 
  4. 04.うろこ 
  5. 05.揺り籠  
  6. 06.輪 

華やかな歌声が印象的だったタグチハナ。この日に新譜制作宣言!!

 最後にステージに登場したタグチハナが最初に放ったのは「rainy day」。全編英詞で、オーセンティックな米国フォークロックやソフトロックを彷彿させる1曲だ。加えて、既出したぐずついた天気だったこの日にぴったりな1曲とも言える。曲終わりでMCへ。『まどか Vol.11』へ出演できたことに感謝を述べた後「Eggs10周年おめでとうございます」と笑顔を見せると、客席からも拍手が起こった。華やかなタグチの歌声の良さが存分に発揮されたミディアムチューン「ビア」を歌い終えると「ありがとうございます。10年くらい前に作った曲でした」と曲を紹介。何気ない会話と屈託のない笑顔で観客の気持ちを掴んでいく。“平和”をテーマにした「平和がきこえる」では、曲の最後に繰り返される<平和/平和/平和?>というフレーズを、力強く歌いながら、母音のニュアンスで表情を歌い分けるスキルをみせた。日常の中にある小さな不幸や感情のささくれ綴った後、晴れた空の向こうに“銃声”を見つけ、平和に対する自問自答と葛藤を表現した歌詞。10年前くらいに発表された1曲だが、主語が大きく言葉としての意味も大きい“平和”という言葉を自分の日常を通して曲にしたところに、タグチハナのルーツ、そしてシンガーソングライターに対する解釈を感じた。既出した彼女のルーツに通ずる音楽を奏でるアーティストは、時代背景を言葉にする詩人でもあったのだ。「朝思い立ったので、季節外れの曲を2曲やります」とウォームなミディアムバラード「今年もおわるね」、J-ROCKのビートを感じさせる「永遠の子ども」を続けて披露。曲間には「ありがとう」という言葉も忘れなかった。この日最後のMCでは「今日は10年に1度くらいのすごく強い力で、新譜が作りたくなったので。こういう日はなかなかないので、ここで言っておきます」と笑顔で新譜制作を宣言。最後はバラード「ふれる」をしっかりと聴かせた。

setlist

  1. 01.rainy day 
  2. 02.ビア 
  3. 03.灯り 
  4. 04.平和がきこえる 
  5. 05.今年もおわるね 
  6. 06.永遠の子ども 
  7. 07.ふれる 

インディーズのアーティストは、イベント当日にセットリストを決めることが間々あるという。イベントの主旨、対バン、客層、自分の演奏スタイル、その日の天候や気分などで、セットリストをフレキシブルに変更することができるのは、音楽を共有する上でとても重要なことだと思う。例えばこの日なら、雨という天気、湿度や温度という共感覚は、この日のライブとともに観客の記憶に刻まれる。そして来年、再来年の梅雨に、この日のライブを思い出すきっかけになる。視覚や聴覚だけでなく、その日の天気まで記憶に刻むことができるセトリを組めるのは、アーティストにとっても観客にとっても、スペシャルな1日への布石になる。

最後になるが、筆者が個人的に感動したポイントを記しておきたい。mona recordsの出音は、シンガーソングライターにとっては、すごくいい音だと思う。ひとつひとつの音の粒が立っているのだ。つまり、一音が非常に立体的。そして音圧よりも一音の輪郭をしっかり出すバランスをとっている。どのアーティストも歌声が最上の状態ですぐ目の前にあった。あまりに出音が良すぎて、フロア内で場所を変え、聴き比べてみたほどである。どの場所でもいい出音だった。

『まどか』というイベントはこれからも続く。出演者はEggs内で常時受け付け中だ。いい出音で自分の音楽を体現する――そんな経験を積める場所をEggsがいつも用意していることを忘れないでいてほしい。

執筆・取材:伊藤亜希 (X:@itoaki_hashiru) 
撮影:吉岡 來美(X:@kurumyon_、Instagram: @hey_kurumyon_)