東京を拠点に活動するナキソラが鳴らす現在地。新曲「此処から、」

東京を拠点に活動するナキソラが鳴らす現在地。新曲「此処から、」

2026/01/07

ナキソラは、東京都を拠点に活動するロックバンドだ。吉祥寺や下北沢を中心とした都内のライブハウスシーンで経験を重ねてきた。メンバーは、りょうか(Vo./Gt.)、あつひろ(Gt.)、みさき(Ba.)、こうすけ(Dr.)の4人。歌を中心に据えたサウンドメイキングが非常に上手い。各パートが楽曲全体の呼吸や温度感を丁寧に支える、緩急あるバンドアンサンブルが特徴だ。 

 「此処から、」は、ナキソラが今どこに立ち、どこへ進もうとしているのかを、サウンドそのものに刻み込んだ痛快な1曲。このバンドの音楽に対する情熱が、ヒリヒリした緊張感となってパッキングされている。タイトなリズム、ソリッドなギターリフなど、楽曲全体に宿る切実さが、聴く者をとらえて離さない。派手な展開や即効性のあるフックに頼るのではなく、感情のメーターを振り切る一歩手前でテンションを保ったまま、駆け抜けていくような構成が印象的だ。 

日常の延長線上にある心情をなぞる、逆説的なエモーショナル 

リズムはダイナミズムを醸し出しながら、一定の歩幅で進んでいくような安定感を重視しているが、途中で静止して静寂を生み出すなど、アレンジのセンスも光る。この一瞬の静寂が、ジャンプする前にしゃがむような“ため”として機能しており、他の部分との対比で、楽曲のスピード感をコントラストで描き出している。大胆なサウンドの抜き差しで、言葉と声を自然と前景化させる手腕もお見事だ。 

メロディーは、Aメロとサビを比べると高低差もあるが、ボーカルの得意とする中高音~高音域を活かした構成で、その分、フレーズ運びの巧みさが際立っている。大きな起伏よりも、ある一定のレンジで聴かせる、つまり横並びの移行を意識した旋律が、感情を誇張せず、日常の延長線上にある心情をなぞるように進行していくところもいい。逆説的なエモーショナル。そんなエモさがこの楽曲にはある。サビで無理にサビっぽく開放しない構成も、この曲の誠実さと切実さを物語っている。 

歌声は、声を張り上げるのではなく、言葉を包み込むように置くことで、歌詞のニュアンスが削がれずに届く。雨上がりの空気のようなわずかな湿度を帯びたボーカルの声質は、間違いなく、このバンドの武器だろう。語尾の処理もうまく、フレーズ同士を自然につなぎながらも、リズム感を失わないボーカルアプローチに、歌い手としてのスキルと可能性を感じる。 

歌詞では、「此処から、」というタイトルが象徴する通り、決意や再出発をテーマにしているが、大仰な言葉を使わず、迷いを抱えたまま前を向こうとする姿勢が描かれている。葛藤をしっかり受け止めている描写もいい。断定を避けた言葉選びがリアリティを生みだしており、聴き手自身の感情を立ち上げる余白にもなっている。 

此処から、」は、ナキソラが自らの現在地を正確に見据えたうえで鳴らしている1曲である。ライブの場でこそ、抑制された中で放たれる情熱の強度をより深く伝えてくれるだろう。次の一歩を踏み出そうとするバンドの姿が、確かな輪郭を伴ってこちらに迫ってくる。 

文・伊藤亜希


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