2025年で25周年を迎える『ARABAKI ROCK FEST.(https://arabaki.com/)』。東北の春の風物詩となった本フェスが本年も4月26日・27日の2日間に渡り、国営みちのく杜の湖畔公園 北地区 エコキャンプみちのくで開催される。この『ARABAKI ROCK FEST.25』へのステージに加え、4月13日に開幕する『大阪・関西万博 -EXPO2025』への出場権をかけたオーディションが『ARABAKI ROCK FEST.未来サミット-FUKUSHIMA HAMADORI Revolution-』である。同オーディションは、福島県浜通り地域を映像・芸術文化を通じて活性化させる「福島浜通り映像・芸術文化プロジェクト」の一環であるとともに、次世代アーティストを発掘する企画でもある。
Eggsからエントリーし審査員審査とリスナー投票を経て予選審査を勝ち抜いたのは8組のアーティスト。8組の出身や活動拠点も宮城、秋田、青森、東京、大阪と幅広く、『ARABAKI ROCK FEST.』が全国で愛されているフェスであることを実感させた。
3月8日、福島県・南相馬 Back Beatで本選(ライブ審査)が行われた。この本選の模様をレポートする。
トッパーとして観客を盛り上げ、ライブハウスが原点だと語ったT.O.C.A(トカ)
トップバッターは秋田発のT.O.C.A。船木(Vo./Gt.)の「ライブハウスに後悔残すなよ!汗だけ残してけよ!」という言葉から1曲目へ。メランコリックで力強いメロディーが光るアップチューン。ソリッドなギターリフとダンスビートを軸にしながら、転調、変拍子、ヒップホップのアプローチなどを取り入れたアグレッシヴな1曲だ。NHK秋田「ニュースこまちサンデー・サタデー」のテーマソングに楽曲が起用されるなど知名度もあり、曲のブレイクに合わせた“パ・パン”というクラップを見事に決める観客も多かった。MCで船木は「俺たちが小さい頃から続いてる『ARABAKI ROCK FEST.』っていうキラキラしたイベントが東北にあることを誇らしく思っています」と言った後ライブハウスが原点だと語り「(ライブハウスが)道標になったから僕たちは音楽を届け続けることができた」と述べ「10分の演奏で10年分の音楽を歌いに来ました」と結んだ。最後の言葉にバンドの激しいサウンドが重なり、船木が力の限り音楽への想い、そして本選への思いをシャウトした。2曲目。Aメロの洒脱なメロディーから一転、駆けのぼるように高音に移行する迫力あるミディアムアップチューン。フックになるブレイクも多く、バンドのスキルが窺える。高低差のあるメロディーのコントラスト、後半に向かって音圧が上がっていくバンドサウンドのグラデーションが見事。「カッコいいぞ!」という声もかかる中、メンバー3人はステージを後にした。
ツインボーカルとカオスなサウンドでフロアをノックアウトした秋田県男鹿発のNEVER FADE(ネバーフェイド)
続いてステージに登場したのはNEVER FADE。全員がドラムの方を向き、ダイナミックなシグナルでライブのスタートを告げる。ドラムのカウントから1曲目へ。「さあ南相馬、新しい時代作りにきた!羽ばたけ!ジャンプ!」とKo sK(コ-スケ・Vo.)が荒々しく叫ぶと、フロアも一斉にジャンプし拳を振り上げる。迫力あるラウドロックに少し憂いがあるメロディーがのったアップチューンがフロアを一気に飲み込んでいく。途中からD.A.1(Vo.)がオクターブユニゾンなどで歌に加わり、楽曲に厚みを持たせていく。途中からBPMを落としドープなヒップホップへと展開した後、ギターのリフを軸にまたテンポをあげていく。Ko sKがハイトーンを響かせた次の瞬間には打ち込みのリズムを畳みかける。どうなるかわからないスリリングでカオスな展開を見せる1曲にフロアが熱狂する。「好きにやろうぜ!」と2曲目へ。EDMの要素を取り入れたイントロから、D.A.1のキレッキレのラップが展開するスピードチューン。その中にシンガロングを誘うコーラスが入ってくる。さらに後半ではテンポをダウンさせ、しっかり歌も聴かせる。1曲目以上に凝った構成の曲ながら、しっかり絡み合うバンドアンサンブル、ボーカル2人の切り替えのタイミングなど、サウンドのクオリティーには驚いた。そしてクオリティーを凌駕する熱量あるパフォーマンスには、このバンドの底力を感じた。
大阪から参戦!振り付けのレクチャーも飛び出し観客も笑顔で楽しんだTHE SOUND STAR(ザ サウンドスター)
3番手は大阪からTHE SOUND STAR。あっくん(Dr.)の前にあんちゃん(Vo.)とセーネ(key.)が集まり掛け声で気合を入れ、ライブはスタート。最初のナンバーはスカビートを取り入れたブライトなアップチューン。イントロからあんちゃんが“ハイ!ハイ!”という掛け声と一緒に、左手を振り上げる。観客も同じように振り上げレスポンスした。セーネはショルダーキーボードを肩にかけ、ステージを左右に行き来する。あんちゃんは、歌いながら観客の1人ひとりを指さしジェスチャー。メンバー3人の満面の笑顔だ。間奏ではあんちゃんとセーネが、振り付けのレクチャー。観客も真似してレスポンスする。「後ろまでありがとう!」とあんちゃんが叫ぶ。曲の後半ではしっかり歌を聴かせるブロックもあり、あんちゃんは中低音~中高音で伸びやかな歌声を聴かせた。ドラムのリズムで曲間をつなぎ2曲目へ。イントロからセーネのスキルが炸裂。ショルダーキーボードでギターのフィードバックのようなアプローチから、随所に愛嬌ある音色の和音を挟み込み、サビではメロディーと一緒の音階で駆け上がる。多彩な音色で疾走感あるナンバーをカラフルに彩った。力いっぱい歌い、最後のロングトーンの繰り返しでは、ホイッスルボイスのような高音まで出したあんちゃん。3人のパフォーマンスにオーディエンスは大きな拍手で応えた。
宮城を拠点に活動するDrop After Dawn(ドロップ・アフター・ドーン)がシンガロングを起こした!
4組目はDrop After Dawn。宮城県仙台発の4ピースバンドだ。ライブの開幕を告げる荒々しいバンドサウンドの中オカ(Vo.)が「ひとつ言わせてくれ」と前置きした後、『ARABAKI ROCK FEST.』への思い、コロナ禍でライブが思う通りにできなかったことを述べ最後はこう締め括った。「だから今日はこれまでの俺たちの『ARABAKI ROCK FEST.』に対する思いとみんなの思いを乗せてしっかり演っていきます!」ドラムのカウントから1曲目へ。イントロから客席でクラップが起こる。オカの絶叫。スピード感あるラウドなナンバーだ。ユウ(Gt.)、ケイマ(Ba.)、ローボイスで迫力あるコーラスが、オーディエンスのテンションを上げて行く。あきう(Dr.)もドラムを叩きながら一緒に歌っていた。サビでは客席に向けマイクをかざしたオカのパフォーマンスに誘われシンガロングが起こった。どしゃぶりのようなサウンドシャワーの中、オカがハイトーンを綺麗に響かせる。チェストボイスとハイトーンの切り替えが抜群にうまい。曲終わりのMCでもフロアを盛り上げる言葉を投げ続けるオカ。ドラムのカウントから次の曲へ。ハードコアやメロコアを軸にしながら、ブラックミュージックのグルーヴも感じられるそのイントロに、このバンドのルーツの広さを垣間見る。オカの「バウンス!バウンス!」という掛け声で、フロアとステージが一緒にジャンプする。バンドの音数の差し引きで静と動のコントラストを出したストーリー性ある1曲。“静”の部分でしっかりバックビートを感じさせるあたりに、メンバーの演奏スキル、そして積み重ねてきた歴史を見た。
仙台発のUmisaya(ウミサヤ)。変拍子のサウンドスケープでフロアのムードを一変させた
宮城県仙台発の“海を奏でるロックバンド”Umisayaの3人がステージへ。メンバーがスタンバイすると同期で“波の音”が流れる。そこにフナワタリコウタロウ(Vo./Gt.)が軽くギターを爪弾きながら、誰もが知る唱歌「海」を独白のように歌い出す。自らを“海を奏でるロックバンド”と称しているスタンスを最初からオーディエンスに刻み込むインパクトのある演出だ。「海」の最後の一音でバンドアンサンブルが咆哮する。3ピースとは思えない分厚いサウンドレイヤー。そのダイナミズムにオーディエンスの手が一斉に挙がった。1曲目は、バンドアンサンブルの多彩さが際立つアップチューン。グッドメロディーが観客の心を掴んでいく。曲をしっかり受け止めようというムードがフロアを満たしていく。曲のラストでフナワタリは安定感あるハイトーンを聴かせた。MCで「灯台の光が僕たちを『ARABAKI ROCK FEST.』へと導いてくれる」と視線の先を指さしたフナワタリ。2曲目は変拍子のミディアムチューン。フナワタリのギターを筆頭に、三ッ千ー(Ba.)、誉也(Dr.)の3人が、1曲目とはまったく違ったアプローチでサウンドスケープを描いていく。緩急あるフナワタリのボーカリゼーション、メロディーを一緒に歌う三ッ千ー、シンバルの強弱で楽曲の起伏を表現する誉也。3人のテクニックでスケール感が増していく。エンディングではメンバー全員が<♪Fu Fu>と同じメロディーを柔らかい発声で歌うなど、様々な海を想起させる1曲であった。ライブの冒頭でギターのトラブルもあった中、その間を三ッ千ー、誉也がアドリブで演奏してつなぐなど、ライブバンドとしての筋力を発揮したステージだった。
ポップチューンと息の合ったトーク笑わせ、会場を一つにした!TONEMANIA(トーンマニア)
6組目のTONEMANIAは、MISUGUとSHUNからなる音楽ユニットだ。息の合ったトークとブライトでポップな楽曲でライブが始まる前からフロアを盛り上げた2人。そのままライブはスタートした。SEのトラックが流れ始めると「本当はここで僕ら、出てくる予定でした」とMISUGUがカミングアウト。SHUNが「やめてくれる?」とすかさずつっこみを入れる。2人揃って「盛り上がっていきましょう」と右手を挙げる。トラックが切り替わり1曲目へ。ネオソウルやシティポップを彷彿させるポップチューン。リズムに合わせ飛び跳ねるように「自由に楽しんでくださいね!」と言った後、SHUNが歌い出す。クリアな声質だが声量を感じさせる発声と安定感。2人はステージ上を交差するように行ったり来たり。MISUGUは動きながら、フロアの後方を覗くような表情をしたり「hey!」と声をかけたり。自身の笑顔で観客の心を掴んでいく。途中からSHUNの歌にMISUGUが歌を重ねてくる。歌割りの細かいパートだったが寸分のずれもない。2人の声が溶け合うような見事なコンビネーションだ。MISUGUの「一緒に手を振って!」という言葉に、そこにいる観客はステージに合わせたスルーハンズでレスポンスした。リハーサルからハッピーな雰囲気を作り出し、自分たちのポップスセンスを観客にしっかり届けたステージだった。
青森のボーカルグループ・ライスボール。表情豊かな歌声とハーモニー、ダンスで観客を盛り上げた
青森を拠点に活動しているボーカルグループ、ライスボールがステージに姿を表す。客席には稲穂を模したサイリウムが揺れる。その数や大豊作だ。メンバーそれぞれが楽器を演奏しアコースティックライブも行っているという彼女たち。この日はバックトラックとボーカルという編成でステージに立った。実土里(ミドリ)、太陽(ヒカリ)、水愛(アクア)の3人がステージ中央にスタンバイ。歌い出しから、太陽がしっかり喉を開き中低音を響かせる。歌を受け継いだ水愛は、同じメロディーでもビブラートを使い、太陽とニュアンスの違いを見せた。サビのロングトーンでは3人それぞれの発声の違いがはっきりとわかるパターン、さらに後半で3人がソウルフルに叫んだ<Yea Yea Yeaaaa!>というハイトーンでは声が溶け合うようなパターンと、ハーモニーの多彩さを最初の1曲で印象付けた。曲終わりでドゥワップを用いて「♪ ライスボール」とハモり自己紹介。“農家のみなさんを少しでも応援したい。そして”食”を通じた家族とのつながりをあらためて見直す”をコンセプトに活動している彼女たちのMCは地元青森産のお米の紹介。“青森産のお米”というニッチなテーマにも関わらず、お米のトリビアも入れ込みんだトーク力で、客席から笑いが起こった。続く曲はダークファンタジーを思わせるイントロか始めるクールで激しいアップチューン。3人で歌うパートとソロパートが入り乱れる1曲だが、ハーモニーの部分は抑えめに、そしてソロの部分ではそれぞれの個性を全面に出し、素晴らしいマイクリレーとマイクコントロールを見せた。金色の光る稲穂が揺れる中、3人はステージを後にした。
圧倒されるほどの熱量でトリに相応しいパフォーマンスを見せた、仙台発のEverBrighteller(エバーブライテラー)
この日、最後に登場したのはEverBrighteller。ボーカルのリョーガブライテラーが「EverBrighteller、どうぞよろしく!」と叫び1曲目が始まる。リョーガはスタンドマイクを引き寄せ、腹の底から声を出し歌い始める。ドカじりさん(Gt./Vo.)がリョーガと一緒に歌いながら客席を見回している。フレーズ終わりで顔を少し右に向け、マイクコントロールを見せるリョーガ。さらに、メロディーの途中の一音だけ抜くファルセットなど、冒頭から安定感と期待が膨らむスキルを連発し、観客の目をくぎ付けにした。一転、激しいシャウト。そしてバンドアンサンブルのビートがあがっていく。急き立てるような疾走感。どっしりと地に着いたようなバンドアンサンブルが鳴らす、ダイナミックでシンプルなビートが駆け抜けていく。サビでは、ドカじりさん、キレ竹凱旋門(Gt.)、カリノヒナト(Ba.)が、リョーガと一緒にメロディーを叫んでいる。このパフォーマンスに、客席が引っ張られていく。上がる拳がどんどん増えていった。ハンドマイクをその腕は振るえるほどに力一杯握りしめ「俺たちは輝いている!」と天に向かってリョーガが咆哮し次の曲へ。最初からメンバー4人がメロディーを歌う。途中からBPMやリズムパターンが大きく変化するカオスな曲。シャウトと爆音、そしてメンバーのエネルギーがフロアに降り注ぐ。息苦しくなるほどの情熱、鬱憤を爆発させたようなパワーが生命体となって立ち上がり、フロアに襲いかかる。10分という短い時間の中で、最初から最後までレッドゾーンに振り切った圧倒的なパフォーマンスだった。
ステージに出演者全員が並び結果発表へ。『ARABAKI ROCK FEST.25』への出場権を手にしたのは、準グランプリのDrop After Dawnと、グランプリを受賞したライスボール。ライスボールは『大阪・関西万博 -EXPO2025』イベントへの出場権も獲得した。さらに本選の前日に急遽“もう1組くらい大阪に行ってもらおう”というスタッフの話で決まったという“審査員特別賞”をTHE SOUND STARが受賞。『大阪・関西万博 -EXPO2025』イベントのステージへ出演することとなった。
受賞アーティスト3組のコメント
最後に受賞アーティストのコメントを一部抜粋して紹介する。
「今までいろんなオーディションとか出て、ずっと負けてて……今日こんな形で出られると決まって本当に嬉しいです。ありがとうございます」
(審査員特別賞/THE SOUND STAR)
「グランプリを狙ってたんで正直悔しい気持ちもあるけど、今(フロアを)見たらみんなが喜んでくれている。それが嬉しいです。夢だった『ARABAKI ROCK FEST.25』に出れることが決まったので、しっかりかまして爪痕残してきたいと思います」
(準グランプリ/Drop After Dawn)
「ライスボールはロックって言われたらそうじゃないっていう人も多いと思うんですけども、こう見えて3人ともすすごく気持ちが強いので『ARABAKI ROCK FEST.25』でもかましてきたいなと思います」
(グランプリ/ライスボール)
文・伊藤 亜希
写真・Eggsスタッフ