クリオネ方程式(クリオネホウテイシキ)の新曲「シェルター」。清流と濁流の狭間で揺れる「方舟」と「大船」の行方
2025年4月の「マンスリープッシュアーティスト」に選出されたクリオネ方程式(クリオネホウテイシキ)は、愛知県名古屋を拠点に活動している4ピースバンドだ。2023年初音源となる1stシングル『ハルク』をリリースし、ライブ活動も積極的に展開。昨年9月に新体制となり、現メンバーは万葉(Vo./Gt.)、ナオキ(Gt.)、ヒラデシュンヤ(Ba.)、恵成(Dr.)。90年代オルタナティブ2025年4月1日に初EP『バッカルコーン』をデジタルリリースした。オルタナティブ、ポストロック、シューゲイザーなどをルーツに持ちながら、ドリームポップに通ずるグッドメロディーを強く響かせることができる実力派だ。既出のEPから収録曲の中からEggsでも配信がスタートしている「シェルター」をピックアップする。
「シェルター」は一瞬で聴く者を無重力の感覚に誘う、スケール感あるサウンドスケープが魅力のミディアムチューン。サウンドレイヤーの強弱のつけかたも巧みで、清流と濁流のようなコントラストが楽曲の個性になっている。また、リズムセクションのタイトな演奏が楽曲全体を引き締め、ミディアムチューンでも飽きさせないスリリングさを醸し出している。対して、ボーカル万葉のボーカルは、シューゲイザーの特徴であるサウンドの中に溶けこむようなアプローチが随所に見られる。スリリングさと浮遊感。そんな相反するファクターが並行して、絡み合いながら進行していく。これはメンバー4人が、楽曲に対して共通した認識を持っているからこそ作り出せるストーリー性だ。ここが「シェルター」という曲の最大の魅力になっている。
さらに特筆すべきは万葉の芯のある声質だ。滑舌も良く子音と母音を同じインパクトで鳴らすことができているゆえ、聴く側に歌詞がしっかり入ってくる。その中でもローボイスをウィスパーっぽく聴かせるアプローチは、なかなかできる技ではない。吐息のコントロールが非常にうまい。これは天賦の才と言っていいだろう。
抽象的でありながら具体的なイメージを喚起させる歌詞もいい。そして歌詞でもコントラストとストーリー性を意識して言葉を選んでいるように思う。例えば<方舟に乗っているような>と<大船に乗っていたような>は、韻を踏みながら現在形と過去形を使い分けることでフレーズを対比させ、漠然とした不安と希望が交錯する複雑な感情を描写していると思う。また「方舟」と「大船」のどちらに希望を見出すかが、リスナーに委ねられているところも素晴らしい。
冒頭で触れた「マンスリープッシュアーティスト」のインタビューでは、「今年はクリオネ方程式の音楽がもっと多くの人に広まるような活動をしていきたい」と今後の抱負を語ったクリオネ方程式。4人はきっと、この言葉を有言実行してくるはずだ。
文・伊藤亜希