「特集・ライブハウスの中の人」vol.18〜東京・下北沢編 / 下北沢BASEMENTBAR〜

「特集・ライブハウスの中の人」vol.18〜東京・下北沢編 / 下北沢BASEMENTBAR〜

2025/11/08

多くのライブハウスが点在する下北沢エリア。これまで長き(特に1990年代以降)に渡り、日本のライブハウスシーンを支えてきた。下北沢のライブハウスを拠点に活動していく中で、メジャーデビューを果たしたバンドは数えきれず、今も音楽カルチャーの発信地であることに変わりはない。そんな中、20代のスタッフによるサーキットイベント『STEP OUT!』が始動する。その発起人が今回取材した渡辺春暉氏だ。2025年で25歳。現在は下北沢BASEMENTBARに勤務している。ライブハウスで新しい音楽に出会う面白さを見出した彼から見た今の音楽シーン、そして『STEP OUT!』に込められた想いとは?  

いい出逢いがあって、大学4年の時からライブハウスで働くようになった

――まずは今のお仕事の内容、そしてこの仕事についた経緯を教えてください。どういった経緯でライブハウスに通うようになったのでしょうか。

渡辺春暉(以下:ハルキ):下北沢のBASEMENTBARというライブハウスで働いています。バーカウンターでお酒を出したり日々の清掃をしたりブッキングイベントを組んだり…と、基本的なライブハウス業務がメインです。

業界に入った経緯ですが、大学に通って就活をする中で、音楽業界の裏方として働いていきたいっていう絶対的な思いがあって。業界への就活がなかなかうまくいかなかったので、知り合いの弾き語りアーティストの手伝いをしながら、いろんな現場に顔を出していたんです。無所属で無所属のアーティストについてる謎のスタッフって感じで。「今日はよろしくお願いします!ところで君は何者なの?」ってよく質問されてました(笑)。

そんな中、ある現場で新宿LOFTのスタッフの方と知り合って、大学4年の春からアルバイトをすることになったんです。そこから去年の夏まで、約3年半くらい新宿ロフトでお世話になりました。本当にいろいろな経験をさせてもらって。バンドとのつながりもそうですし、ライブハウス同士の、横のつながりもできた。すごくありがたかったです。で、そこから何個か転機があって、紆余曲折を経てBASEMENTBARに入りました。

――たくさんあるライブハウスの中で、なぜBASEMENTBARを選んだのでしょうか。

2年半ぐらいずっと自分を気にかけてくれる人が働いていたし、これから叶えたい夢を共に見れる場所だったし、なによりお客さんとして1番通っていたライブハウスがBASEMENTBARでした。
とにかくバンドが好きなスタッフがたくさんいて、そういう人たちと働きたいと思ったのがここを選んだ大きな理由です。

大学時代から一貫していた原点は「このバンドもっと広まったらいいのに!」という想い

――地元のライブハウスに通っていた頃の話を伺いたいです。

ハルキ:埼玉の実家から3分ぐらいのところに北浦和KYARA(キャラ)っていうライブハウスがあったんです。僕が大学2年(2020年)の頃に閉店しちゃって今はもうないんですけど、常に面白いことに挑戦し続ける最高のライブハウスで。中学3年生くらいの頃から通い始めて、店長の安藤さんってめちゃくちゃヤバい人にずっと面倒見てもらいつつ閉店するまで6年間ぐらいずっと通ってました。当時は僕自身もバンドをやっていたし、明確な目当てのバンドがいない日でも予定さえなければふらっとライブハウスに立ち寄る、といった場所でした。

そうやってハコで遊んでいるうちに安藤さんに「裏方に興味あるんだったら、自分でイベントをブッキングしてみなよ」って誘ってもらえて。高校生のバンドをブッキングする、いわゆる学生ブッキングをやるようになったんです。そのうち、高校生に限らず一般的なブッキングイベントもたま〜にやるようになって。この時はまだどっちかというと、個人イベンターっていう感じでした。お客さん側としてのエッセンスが強かったけど、やってるうちにだんだん、バンドを支えたり育てたりする立場になってみたいってマインドが大きくなっていきました。例えば普通にお客さんとしてライブ観ていて「このバンド魅せ方を変えたらもっと良くなりそう」とか「じゃあこのバンドがどういうイベントに出たらお客さんにもバンドにも喜ばれるかな」とか、考えるようになりました。ずっと楽器をやっていましたのでプレイヤーとしての視点も織り交ぜつつ。

これらがブッカーとしての原点だったような気がします。きっかけをくれた安藤さん、ありがとうございます。

――では埼玉のライブハウスをメインに通っていた当時、下北沢のライブシーンはどう思ってました?

ハルキ:それが、出てくるまではな〜んにも知らなくて。
下北沢にはたくさんライブハウスがあるな〜ってぐらいでした。

――なるほど。行動範囲が埼玉県で、埼玉県内でもいいバンドがいっぱいいた。だから下北沢まで……ってならなかった?

ハルキ:当時は何も知らなかったので、そこまで深く考えてなかったです。けど、それはあるかもしれないですね。不自由さは感じていなかったので。

東京に出ていく明確なきっかけとしては、僕が埼玉のライブハウスで出会ったバンドたちが、やがて下北沢や新宿渋谷でもライブをするようになっていって。そのタイミングで、自分も下北沢のライブハウスに行ってみようと。通うにつれて友だちもどんどん増えていきました。通ってた大学が都内にあったのも大きかったと思います、テスト期間だろうと必ず週に2,3回は下北沢のライブハウスに行ってたかなと。バイトがなければとりあえずどこかのライブハウスに行って、ライブ終わりでバンドマンの友達やライブハウスの人たちと飲んで、終電逃して……とかも、次第に頻繁になって(笑)。

思えば、今の僕の土台を作った、すごく貴重な時間だったと思います。

その日にふらっと行くライブハウス。決め手は知らないバンドが出ていること

――例えば、週3でライブハウスに行くとするじゃないですか。そのライブハウスはどうやって選んでいたんですか?

ハルキ:大学時代は気が向いたら色んなライブハウスのスケジュールをチェックするのが日課みたいになっていて(笑)。「明日の夜暇だな、どこに行こうかな…」みたいな感じでした。ただ、毎日好きなバンドがライブしてるとは限らないので、なるべく積極的に知らないバンドを見に行くようにしてました。今考えると頭おかしいんですけど、バンド名の面白さでライブハウスを決める日もありましたね。

ブッキングそのものにより意識が向くようになってからはちょっと見方が変わってきたかな。ただの自分の好き嫌いだけではなく、バンドの音の良し悪しとかMCがどうとかこのバンドはもっと違う感じで組まれた方がバンドのためになりそうだなとか。

――ライブハウスに通う中で、ご自身のSNSでも“1番好きな下北沢のサーキットイベント”とポストされていた『NEW LINK!』というイベントに出会った。最初はお客さんとして?

ハルキ:そうですね。『NEW LINK!』は、2018年からスタートした下北沢のサーキットイベントで。サーキットでありながら平日にやっているのと、ライブハウスのブッカーが主体となってブッキングを組んでいるというのが主なコンセプトで。僕は、3回ぐらい参加してたと思います。『NEW LINK!』としては最後の開催になった2023年も観に行ってました。

――『NEW LINK!』の過去の出演者を観たら、メジャーデビューはもちろん、アリーナクラスのライブを成功させたバンドもいますよね。

ハルキ:そうなんですよ。やっぱりそういうところが魅力なんです。

――そういうところを具体的に言うと?

ハルキ:ここから始まってるんだな、と。イベントに出ていたバンドがデビューして、どんどんすごいバンドになっていくのを見てると、やっぱ始まりはライブハウスにあるんだなって思うんですよね。そういうことを強く実感したのが僕にとっては『NEW LINK!』でしたね。

「今度はお前らの世代がやるんだよ」と言われ、発起人となった『STEP OUT!』への軌跡

――その『NEW LINK!』の意志を受け継いで、今度はハルキさん自身が『STEP OUT!』という新しい下北沢のサーキットイベントをスタートさせるわけですよね。ハルキさんの中で、サーキットイベントってどういうイメージがあります?例えばロックフェスとか、単発のイベントとかとも違う趣きがありますか?

ハルキ:なんだろうなぁ……僕、プロ野球のオールスターゲームとか、マーベルの「アベンジャーズ」とかがとにかく好きで。普段は交わらないみんなでチームを組んで一緒に頑張る系のアレです。このイベントには似たような部分を感じていて。ライブハウスの垣根を超えてチームアップするからこそ、いろいろなバンドが集まって、それでかつみんなで1個の方向に向かうっていうことにワクワクするんです。だからいつかは自分でやりたいなって思ってました。

で、『NEW LINK!』を主宰していた先輩方に「もうやらないんですか?」みたいな話をしたら、皆さん「もう俺ら30歳過ぎてるし“NEW”じゃないから。今度はお前らの世代がやるんだよ」みたいな言葉をいただいて。確か、最後の『NEW LINK!』の打ち上げの席で言われた記憶があるんですけど、それが約2年前。そこから同年代のブッキングしている友人とかに声をかけたり、知人からいろいろ紹介してもらったりして。やりたいって言い出して、1年半くらいかけて状況が徐々に整ってきて、開催することになりました。

――まず人脈の基盤を築いたんですね。

ハルキ:そうですね。バンドとの繋がりだけあってもサーキットイベントは開催できないので、まずは仲間を集めることから始めました。そして参加各会場の人脈が整ってきたタイミングで、ちょうど僕がBASEMENTBARで働くことになったんです。なんかこう……ちょっと言い過ぎみたいなところありますけど、自分がラストピースだったんかい!というね。…半分冗談ですけど、嘘ってわけでもない自負もあります。

これに関してはバンドだけいてもできないし、スタッフだけいてもできないので。ここに至るまでのキャリアを形成するにあたって、自分を育ててくれた人や一緒にやってくれる仲間たちにとにかく感謝したいです。

『STEP OUT!』というタイトルの意味、そしてこの言葉に込められた想いとは?

――『STEP OUT!』について、もう少し深堀りしたいです。直訳だと“外出する”とか“登場する”と訳せますが、タイトルにはどのような想いが込められているんですか?

ハルキ:『STEP OUT!』って“ちょっと出てくるわ”みたいな。“そこのコンビニ行ってくるわ”みたいなニュアンスで使うスラングらしくて。

僕がそれこそライブハウスに急に遊びに行ったり、休みの日とか、ちょっと出かけようってライブハウスに行ったら、予期していない最高の出会いがいくつもあった。日々ライブハウスに通っているお客さんだったら僕が何を言っているのかわかってくれるかなと思います。だから、そういう……気軽にライブハウスに行く……みたいなのがもっと広がってほしいなと。

タイトル自体、主催側のスタンスでありながらお客さんに対してのメッセージでもあるし、いつかこういう遊び方がより多くの人に広がっていったらいいなっていう願いも内包しています。まずは初回、自分がどれだけ無邪気に楽しめるかですね。態度で示せたらと思います。

そのバンドが持っているアティチュードを大切にして、ブッキングをする。その理由とは?

――例えば、自分がブッキングしたイベントに対して、出演したアーティストなどから言われて嬉しかった言葉とか覚えてます?

ハルキ:至ってシンプルですけど「誰も組んでない組み方するよね」とか。「あのバンドとこのバンドで組むんだ、でも確かにわかるわ」みたいに言われると嬉しいですね。ブッカーとして必要な尖りだと思うので。

僕はジャンルや界隈をガッツリ無視して、もっと深いルーツやバンドとしてのアティチュードに焦点を充ててブッキングを組むことが多いので、それが周りからすれば意外性ってことなのかなと。

――え?ジャンル無視?

ハルキ:はい(笑)。ジャンルはフル無視で、お客さんに対するメッセージの伝え方とか、その熱量の向け方とか、取り巻く大気とか。バンドのアティチュードに目を向けてブッキングを組んでみるとこれがハマるんです。

ジャンルで括ってギュッとした空間を作るのは、もう誰かがやっているか誰かが思いついているかって感じなので、別に自分がやらなくていいじゃんって思うんです。でも否定もしないですよ。近しいシーンでギュッてするのもいい。そういうのを観たいお客さんの方が多いでしょうし、自分で組むこともしばしありますので。

ただ、僕がブッキングしたイベントでは、お客さんに「うわ、こういうバンドもいるんだ!」「えっ、なんかこのバンド好きなんだけど!」ってなってほしいし、そうなるチャンスをバンドにもたらすことが自分の仕事だとも思います。思わぬ角度から殴られる感覚を味わってほしいんです。僕が学生時代にライブハウスでそうであったように。

今の音楽シーンを的確に捉えた、25歳の冷静な分析力と誰にも負けない熱量。その原点とは?

――ハルキさんは、今、25歳ですが、出演者と同世代、近い世代であるメリットは感じてますか?

ハルキ:間違いなく感じてますね。少なくとも『STEP OUT!』をやるにあたって「同世代であること」は一つの重要なキーワードです。ライブハウスによって多少の差はあると思うんですけど、20代半ばくらいのブッキングスタッフって全然多くないんです。なかなか世代交代が難しいとされている業界だなと実感していて。音楽業界ひいてはライブハウス業界にスポットを当てると、なかなかスタッフの新陳代謝はよくない。今すぐ世代交代しなきゃいけないほど深刻ではないですが、上の世代が安心できる程には下の世代が育っているわけではないのかなとも思います。まさに今、僕らの世代が頑張らねばならない理由です。

――ちょっと今、目からうろこが落ちたというか……。めちゃくちゃ冷静な視点ですね。確かに音楽業界の新陳代謝についてはおっしゃる通りで。私もよく考えたりもするんですが、上がずっといるから下が出てこないんじゃないか……って視点しかありませんでした。

ハルキ:そこはまた一長一短で。先輩たちがすごいってことに尽きると思うんです。だから場所として長く続いてきたと思うし、どれだけ働けど学べることは無限に湧き出てくる。でも「もう僕らの世代もやれるよ」っていうところを少しづつ見せていかないと。コロナウイルスの影響もあって生まれた世代の空白は僕らの世代で埋めていかないと。ほんと何回も言いますけど、今、今頑張らないとなんです。

――場所の継続的な提供ってことですね。Eggsで原稿を書かせていただく中で発見したことなんですけど、インディーズシーン、ライブハウスシーンって、出会いの場所を提供し続けることがアーティストとお客さんにとっては1番重要なことなんじゃないか、と。Eggsというプラットフォーム然り、オーディション然り、そして『STEP OUT!』然り。

ハルキ:まさにその通りだと思います、僕の原点はそこにありましたし。約束してなくても友達に会えて、そこには音楽があって。ライブハウスが誰かにとっての居場所であり続けていることをもっと多くの人に伝えていけたら嬉しいですし、そのために、ライブは非日常だけど、もっとこう……近くにあるものと思ってもいいんじゃない?日常の中に入れてもいいんじゃない?……みたいな提案をこれからも続けていきたいと思ってます。僕にとっては『STEP OUT!』がその象徴です。

Eggsも僕も、アーティストやリスナーにとって出会いやチャンスの場を作り続けていくことが大切だと思ってる

――そんな中で、今、個人的にお薦めのバンドを教えていただけますか?

ハルキ:……………………本当にたくさんいるんですよね。

――そこをあえて……お伺いしてもいいでしょうか?

ハルキ:わかりました。ここでは『STEP OUT!』大トリを務めるさらば帝国をピックアップしたいと思います。彼らのライブはちょっとこう……ありえない得ないことが普通に起こるというか。

例えばこちらが想像する限界のラインを100として、さらば帝国のアベレージは150ぐらいを平気で叩き出します。天井が感じられないというか、なんというか、もうね、半端ないですよ。笑
己で限界をこじ開けて総てをブッ飛ばす力を持ってるバンドです。なかなか稀有だし自分にとってずっと刺激的で特別な存在です。立場は違いますが、負けてられないと思わせてくれるバンドですね。

――では最後に。Eggsリスナー、そしてアーティストの皆さんへ、メッセージをお願いします。

ハルキ: ライブハウスと相反してEggsはオンラインメディアではありますが、時間や場所を選ばずにいつでも新しい音楽との出会いを秘めています。形は違えどEggsがやっていること、僕が起こしたいこと、そして『STEP OUT!』でやろうとしていることは違うようで少しずつ重なっている。そのマインドも含めて今回Eggsを巻き込む形で開催することを選びました。

『STEP OUT!』というイベントがあること、Eggsがあること、BASEMENTBARには僕がいること。

この記事を通して少しでも気にかけていただけたら幸いです。

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この記事を書いた人

伊藤亜希

音楽ライター/編集者。学生時代から音楽雑誌に勤務後、アーティストのFCサイトの立ち上げ・運営などを経験。現在はフリーランス。『RealSound』『MUSICA』、FC会報、FCサイト等で執筆中。『Eggs』は未知の音楽に触れられ楽しいです!

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