東京を拠点に活動する5人組インストゥルメンタルバンド、夕張工業団地(ゆうばりこうぎょうだんち)。2025年5月に結成された。自らを“パワー系インストロックバンド”と称し、3本のギター、ベース、ドラムという編成で活動している。
2026年1月には、初音源作品となる1stEP『縹色の夏』をリリース。iTunes Storeのインストゥルメンタルトップアルバムチャートで国内1位を獲得するなど、早耳のリスナーから注目を集めている。本稿で取り上げる「終わらない夏」は、結成直後にメンバーのハッチ(Gt.)がギタープレイスルー動画をXへ投稿し、1000件を超える「いいね」を集めた楽曲だ。
飽和させないスキル、その音の密度――個々の輪郭を際立たせるアンサンブル
この曲を聴いてまず驚かされるのが、音数の多さと聴感上の見通しのよさが、1曲を通して両立していることだ。3本のギターは細かなピッキングを軸にしながらも、それぞれが独立したフレーズを奏でる。ベースとドラムも単なる伴奏に徹することなく、個々に細かな動きを見せる。飽和ギリギリの情報が同時に鳴っているにもかかわらず、不思議なほど、せわしなさや圧迫感を感じさせない。それぞれに確かなスキルがあるゆえ、各楽器の一音一音は粒立ちがよく、リズムにも揺らぎがない。だが、それ以上に面白いのは、5人の音をひとつの塊にするのではなく、それぞれの音の輪郭を残したまま重ねていくアンサンブルの在り方である。
印象に残ったのは、リズムと上物の時間軸の違い。ベースとドラムが作るリズムには、曲を前へ前へと運んでいく強い推進力がある。その上でギターは、細かな音を連ねたり、旋律を描いたりしながら、異なるレイヤーとして広がっていく。足元では時間が一定方向へ流れているのに、その上では別の時間が動いているような感覚に陥るのだ。
この構造が、「終わらない夏」というタイトルにひとつの物語を与えている。推進力と緊張感をキープしながら、楽曲は絶えず前進していく。一方で、ギターのカッティングには、過ぎ去った何かを何度も振り返るようなナラティブが立ち上がってくる。音のレイヤーの重なり方が変化するたび、同じ場所にいながら視界だけが切り替わるように、曲が動いていくのだ。
時間は確実に進んでいる。それでも、記憶には消えずに残る季節、そして瞬間がある。
「終わらない」とは、夏が永遠に続くことではないのかもしれない。夏は終わっている。それでも、あの日に見た景色や感情だけは、現在の自分のなかにも存在し続ける。この時間の二重性を、夕張工業団地は歌詞ではなく、異なる役割を持つ音のレイヤーによって描いているのだ。
言葉がないからこそ、それぞれの「終わらない夏」が、聴く人の今の中に立ち上がる。夕張工業団地は、演奏の確かさだけでなく、音を重ねることで物語を生み出せるバンドだと思う。
文・伊藤亜希
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