Trooper Salute(トルーパーソリュート)は名古屋を拠点に活動する5人組バンドだ。ムサシ(Vo.)、小宮颯斗(Key.)、岩井純成(Gt.)、ロン三元(Ba.)、梅村祈穏(Dr.)が立ち上げるサウンドは、オルタナティブロック、エレクトロニカ、ポストロック、テクノなどの多彩なジャンルを取り込み、昭和歌謡や70年代シティポップに通ずるレトロポップなメロディーを放つ。しかしこのバンドのすごさは、別のところにある。既述したジャンルを横断しながらも、その文脈が既存のどこにもない新しい地点にあることだ。
2025年は『FUJI ROCK FESTIVAL’25』や『SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2025』といった大型フェスへ立て続けに出演し、飛躍の年となった。さらに、テレビ朝日系『EIGHT-JAM』では、川谷絵音氏が選ぶ「2025年のマイベスト10曲」に選出され、「天使ちゃんだよ」がバイラルチャート最高位6位まで上昇するなど、まさに今、多方面から注目を集めているバンドである。昨年12月に最新EP『Trooper Salute 2』をリリースした彼らは、東名阪でのリリースツアー『Trooper Salute 2 Release Tour』を開催。全公演チケットは完売し、追加公演が発表された。3月1日(日)に行われたツアーファイナル公演となる下北沢BASEMENT BARでのライブは、Gateballersを迎えた夜公演として企画されていたが、カラコルムの山々を迎えた昼公演が追加され、昼夜2公演が行われることになった。
本稿では、3月1日の夜公演の模様をレポートする。
しっかりしたグルーヴ、多彩なサウンドスケープ、緩急あるボーカル、そして盤石な演奏力でフロアをしっかり自分たちの色に持っていったGateballersのライブが終わると、セットチェンジへ。
セットチェンジの間、フロアに流れていたのは、大貫妙子、相良直美、石川ひとみ、久保田早紀など。開演前には80年代の女性アイドルの曲も流れていた。テレビのベストテン番組全盛時代を知っている人間(筆者です)には懐かしい曲ばかりだ。レトロを感じさせる選曲だが、そこに郷愁のムードはなかった。誰もが、今から始まる新たな音楽の体感を心待ちにしていたからだ。郷愁を上書きする期待が、フロアには充満していた。ステージに目を向ければ、ドラムセットの前には丸いアクリルシールド(丸い透明なアクリル板)が立てられている。シンバルなどの音がボーカルマイクに被り過ぎないよう調整するものだ。ポップス系やボーカルグループのライブでは見たことがあるが、いわゆるロック文脈のバンドではあまり見たことがない。特に、ステージの狭いライブハウスで見るのは、ヴァイオリンを軸にしたインストバンド以来だ。すでにセッティングから、Trooper Saluteの音に対するこだわりを目の当たりにする。
音のレイヤーが広がる序章ーーTrooper Saluteのサウンドスケープ
FLIPPER'S GUITAR(フリッパーズ・ギター)の「GROOVE TUBE」をSEに、メンバーがステージ上に姿を現す。大きな拍手。小宮が優美な旋律をゆったりと奏で出す。ムサシが語り掛けるように歌い出す。1曲目に放たれたのは「コロイド」だった。たゆたうベースのラインが、サウンドの内部を滑るように移動し、グルーヴを作っていく。ゆっくりとBPMを上げていくバンドアンサンブル。そんな中で、ギターはクリーントーンのコードを広げ、響きを空間に漂わせる。各パートの帯域が整理され、配置されているため、音が混ざり合わず、それぞれがカオスを立ち上げていく。後半はブレイクビーツをさらに分解したようなビート、トランシーなサウンドアプローチでフロアを圧倒した。

「Trooper Saluteです、よろしくお願いします」という小宮の言葉から次の曲へ。「思考回路」ではリズムの密度が一気に上がる。ギターはストロークでリズムの粒を細かく作る。リズム隊もシャープにリズムを刻んでいく。初期XTCなどを彷彿させる軽快なチューンだ。ボーカルのムサシは、発音の立ち上がりの良さを活かし、キビキビとキュートに歌を刻んでいく。カラフルなライトが踊る中、間奏ではムサシのレクチャーでフロアとコールアンドレスポンス。ムサシが「ドラムス!」と叫び、観客が「梅村祈穏(うめむらきおん)!」と返すという、アンタッチャブルなスタイルだ。何度か繰り返した後、観客の「梅村祈穏!」というレスポンスを合図に、梅村がハイハットで次の展開への入り口を作る。

安定したピッチでライドオンしていくムサシ。マイクスタンドをそっとつまむようにして歌っている。間髪入れず、メランコリックな鍵盤のイントロ。「幽体離脱」だ。音数を最小限に抑えた音像の中、ムサシの歌声が輝き出す。母音の抜き方で、フレーズ最後の余韻を操っていく。さらには曲中で篠笛を吹く。ムサシの安定した歌が曲を牽引する。トーンを長く伸ばさず、跳ねるように切り、楽曲にうねりを加えていく。楽器陣はフレーズ終わりに同じように跳ねるアプローチを重ね、楽曲が沈み込まないように支えている。後半、ムサシは吸い込むブレスも表現のひとつにして、滑らかで艶っぽいメロディーの輪郭に、朝露のような湿度と無重力のような浮遊感を加えていく。さらに、小宮と共に「幽体離脱だ」と繰り返す部分では、少し濁音を混ぜたような声、さらにフレーズ終わりの一音だけ母音を強くシャウトさせるようにするなど、アプローチを変えてきて、小宮とのバランスとサウンドとのコントラストをとる。アウトロでは、同じ曲とは思えない展開を見せた。次の一手がまったく見えない。これぞTrooper Saluteというサウンドの真骨頂だと思うが、一度聴く者を捉えたら離さないキャッチーなフックにもなっていた。
「ありがとうございます」と小宮。このひとことに大きな拍手と歓声が起こる。ムサシが<月の光に導かれ何度も巡り合う>と、美少女戦士セーラームーンの主題歌「ムーンライト伝説」のワンフレーズを歌う。<巡り合う>というフレーズがループし、転調していく。バンドアンサンブルがゆっくりと浮き上がる。エレクトロニカやミニマルテクノに通ずるサウンドスケープ。リズムが多くなり、大きな起伏を作っていく。大胆で斬新だが、どこか優雅。この、何をやっても品が残る感じも、Trooper Saluteの持ち味だろう。インタールードのような長めのインストゥルメンタルをイントロにし、「野菜生活」へ。軽快なポップチューンだが、湿度高めのメランコリックなメロディー、歌詞には<ノストラダムスの大予言><ギザギザハートは><ギロッポン>など、昭和を彷彿させる言葉も並ぶ。そんな中に<ライ麦畑でつかまえて>、さらに<教室カーテンの裏巻き付こう>と、世代を超えた言葉や描写を繰り出してくる。<優しい生活/野菜生活>など遊び心ある語感、そして同じフレーズのリピートで、リズム感も出している。実験性のあるポップさは、サウンドだけでなく歌詞にも表れている。
続く「浮世離れ」では、小宮の転がるような鍵盤と、ムサシのリズム感が発揮される。メロディーに対して言葉数が多い曲だと思うが、寸分のずれもなく、滑らかに言葉をつないでいく。後半では音域を変えずに、声の重心を変え、♪パラララッパ〜♪と繰り返す技も見せた。ビブラートをほとんど使わず、トーンもストレートに伸ばす。装飾を削ぎ落としたアプローチが、コケティッシュな楽曲に緊張感を宿していた。
ピンクに染まるステージ。「天使ちゃんだよ」。洒脱なリズムと、キャッチーなメロディーが特徴の1曲だが、ライブではリズムセクションの細かな設計がよりはっきりと聴こえた。ドラムはハイハットで細かい刻みを作りながら、スネアをわずかにディレイさせ、ビートに独特の揺れを生み出す。ベースはシンプルなラインを保ちながら、コードチェンジ直前で半音上がるようなアプローチを挟み、フレーズの推進力を高めていく。バンドサウンドの音数が一気に減る瞬間、そこで際立っていたのがムサシの歌声だ。バンドサウンドに溶け込まない強度を保ちながら、繊細なメロディーをしっかり届ける。曲が終わるとフロアから拍手と歓声が上がった。
「『Trooper Salute 2』、リリースツアー、満員御礼、ありがとうございます」と小宮がマイクを取る。1年前も下北沢BASEMENT BARでライブを開催したことに触れ、「その時もめっちゃ人はいたけど」と笑いを取りながら、今回2回公演になったこと、こんなにたくさんの人が集まってくれたことが嬉しいと話した後、両公演がソールドアウトしたことについて「信じられないです」と本音を吐露。今、アルバムを作っているという話が出ると、客席からは歓声と拍手。何月に出るかはわからないけど、それでまたこうしたライブがあるかもしれない、とも。さらに、この日フロアを温めてくれたGateballersについて、元々ファンだったこと、自分たちのレコ発で一緒にやれるなんてすごいことだと思う、これからもGateballersをずっと聴き続けます、と締めくくった。
ボーカルとバンドの説得力ーーTrooper Saluteのサウンドの核心
続いて「ホーリーナイト」。ダイナミクスの幅が広い楽曲だ。体感テンポをゆったり広げていく1曲。サビでは楽曲に光が差し込むようにコードが変わる。ムサシは子音を立てすぎない柔らかい発音で、メロディーに音符を軽く置くように声をコントロールしていく。声を張り上げず、サウンドとの共鳴を利用して音圧を高めるアプローチだ。間奏では鍵盤の小宮がサビと同じメロディーを弾くといった、ブルース文脈のアレンジも。ムサシは最後にホイッスルボイスにも似た高音を聴かせたが、驚いたのは、その後、中低音域に違和感なく降りてきて、安定した歌声を聴かせたことだ。ギターの岩井のロマンチックな音色がアウトロを彩った。
「忘れてしまいそう」は、この日のセットリストの中でもリズムパターンが大きく変わらない1曲だと思うが、ムサシはここでストレートに音圧で勝負に出る。それまで封印気味にしていたビブラートや、ちょっとしたフレーズ終わりのしゃくりなどで、楽曲の持つコケティッシュさをボーカルの緩急で多彩な表情へと変えていく。ブレスの量を増やしながら音程の中心を保つことで、声が、バンドが作り出したサウンドスケープの中に溶け込まず、メロディーを際立たせているのだ。小宮のうっとりするほど美しい鍵盤の旋律の後、バンドが再び太いグルーヴを立ち上げていく。ループされるフレーズが、どんどんダイナミックになっていく。Trooper SaluteがTrooper Saluteを謳歌している。生きた音楽を目の当たりにし興奮した。

繊細なギターのアルペジオ、華麗な鍵盤のアルペジオ、空気に母音を溶かすように歌い始めるムサシ。「埒」へ。高低差のあるメロディーを安定したピッチで歌いながら、フレーズごとにニュアンスを変えていくムサシのポテンシャルに驚く。後半のロングトーンのクレッシェンドも綺麗だったが、最後の最後では、シャウトともがなりとも取れるアプローチで、ラストは言葉を放り投げるように終わった。サウンドのレイヤーが増え、曲自体の個性が変わっていく中でも、埋もれず、変わる個性を理解し、しっかり歌の存在を際立たせる。ムサシというボーカリストがいるから、Trooper Saluteのサウンドは自由度が高いのだと思う。ゆえに、無二の独創性を再現できているのだ。
小宮のMC。「これからもいい音楽を作って、いいライブもしていきますので、見捨てないでいてください」笑いが起こる。

ミディアムバラード「不治」へ。静寂を味方にしたような鍵盤のイントロに、ノイジーなギターが重なってくる。クリアな声で歌い始めるムサシ。<羽ばたいて/触れないで>という2つの言葉を、同じ語感で聴かせるスキルは、ムサシ独特のニュアンスだろう。間奏ではベースのロン三元が大人っぽくジャジーなソロを聴かせる。後半さらにムサシは、<けるの>を数回繰り返す部分で、後半に向けて子音を強く発し、迫りくるようなアプローチも見せた。最後にはスタンドマイクを両手で握りしめ、じつに美しいハイトーンを披露。トーンの最中に、音の置き場所を喉の奥、口の前、口の中と変え、しっかりグルーヴを出していた。
21時22分。Trooper Saluteは「ありがとうございました」と、この日何度目かの御礼を述べ、ステージを後にした。拍手がすぐアンコールの手拍子に代わる。メンバーが再びステージへ。
「いいライブだったよね?」という小宮の声に、拍手が一段と大きくなった。ここでイントロにのせてメンバー紹介。メンバーが紹介される度、フロアがワッと沸く。イントロでムサシが篠笛を吹いた後、歌い始めたのは「美人」。キュートなリズム、少しノスタルジックなメロディーが、フロアをスキップしていく。観客の身体もリズムに合わせて揺れている。その顔に目を向けると、誰もが笑顔だ。途中、バンドサウンドがほぼなくなり、ムサシの声だけになるパートでは、フレーズ終わりにちょっとだけエコーがかかる。こういう、ライブ音像へのこだわりが随所に見られたあたりに、Trooper Saluteが目指しているライブのスケールを何度も垣間見た。ムサシは可憐な声から一転、<踊りましょう>で喉を開き、中低音域で母音を鳴らして、次のバンドサウンドへつなげていく。ジャジーなグルーヴ、篠笛、和のティストもあるダンサブルなアレンジは、令和版・チンドンジャズとでもいうべきか。観客もリズムに合わせ軽くステップを踏むように踊っていた。

鳴りやまない拍手。オーディエンスの気持ちに応え、再びステージに上がったTrooper Salute。本当に本当のラストソングは「十纏」。高揚した観客の表情が、この日の彼らのライブの真価を物語っていた。
Trooper Saluteのライブは、派手な演出や瞬間的な高揚だけで押し切るものではない。リズムの配置、音色の選び方、歌声のニュアンス、そして楽曲ごとに変化するサウンドスケープ。そのひとつひとつを緻密に積み重ねることで、他の誰にもまねできない音楽を、ライブハウスという距離の近い空間で鮮明に立ち上げてみせた。ジャンルを横断しながらも、どこにも回収されない独創性。それを“実験”で終わらせず、“体感したくなるポップネス”へと昇華しているところに、Trooper Saluteの真価がある。この夜、下北沢BASEMENT BARを満たしていたのは、過去の実績ではなく、ライブバンドとしての確かな説得力だった。新作アルバムの完成、そしてその先のステージで、この5人がどんな景色を更新していくのか。Trooper Saluteは今、さらに大きな飛躍の入口に立っている。
取材・執筆:伊藤亜希
撮影:スージー
setlist
- 01.コロイド
- 02.思考回路
- 03.幽体離脱
- 04.野菜生活
- 05.浮世離れ
- 06.天使ちゃんだよ
- 07.ホーリーナイト
- 08.忘れてしまいそう
- 09.埒
- 10.不治
- En1.美人
- En2.十纏
info
Trooper Salute LIVE & INTERVIEW 2026.3.1
- 『Trooper Salute 2』 Release Tour -東京公演-の模様を、3月29日(日)0時からスペシャオンデマンドにて独占配信!
- URL
- https://vod.spaceshower.jp/videos/0ef90c0b-7189-406a-bb64-46dbeed92da1
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- https://www.fujirockfestival.com/news/detail/ae699e785cc99a4

















