東京を拠点に活動するEquinoction。「妬傷(やけど)」で浮き彫りになる実力
Equinoction(イクイノクション)は、東京発の4ピースロックバンド。彼らの初音源が「妬傷(やけど)」である。彼らの音楽は、シンプルなコード進行の中に細やかなニュアンスを織り込み、丁寧に静と動のコントラストを見せていくのが特徴だ。寄せては返す波のようにひたひたとサウンドが迫ってくる。ミディアムチューンを最初から最後までしっかりと聴かせることができる演奏スキル、繊細さとダイナミズムを使い分けるボーカル、楽曲全体を包むしなやかなグルーヴなど、1曲だけでその実力がわかる。
バックビートを感じるバンドアンサンブル。天賦の才が光るボーカルと歌詞
「妬傷」で驚かされるのはまずイントロだ。音数の少ないリズムで幕を上げるが、音数が少ないゆえに生じる無音の部分のバックビートでグルーヴを醸し出すことに成功している。これは、相当のスキルがなければできないことだ。このグルーヴの上に優雅なギターのフレーズが重なる。このフレーズは、楽曲の随所に登場するが、浮遊感ある音色を効果的に使った切なくもキャッチーさがあり、中毒性も高い。クレッシェンドとデクレッシェンドを繰り返すバンドアンサンブルも、揺れ動く感情を表現するためのアレンジなのではないかと考察する。こんな“表現力の塊”のような楽曲の中で、ひときわ輝きを放っているのがボーカルだ。言葉の響きをメロディ―に乗せるのがとても巧い。これは天賦の才と言ってもいいだろう。淡々としたメロディーの部分では、子音を強調することに加え、母音をほぼ弱音のように扱っている。他にもトーンを震えるように伸ばす、フレーズの最後の母音を少しためて引き延ばす、ブレスを震えるようにして次の発音に繋げるなど、繰り返し聴けば聴くほど才能が発見できる。サビの「ア行」の母音のトーンでは、発声の仕方をガラリと変え声音さえコントロールしており、この楽曲に広がりと奥行きを与えている。タイトル「妬傷」は「嫉妬」と「傷」の組み合わせとも解釈でき、ひとつの物語が終わった余韻と複雑な感情を象徴する素晴らしいタイトルだ。感情と語感を刺激する言葉が並ぶ歌詞にもこのセンスがしっかり現れている。1度聴いたら忘れられない、もっと他の曲も聴いてみたいと思わせるバンドの登場だ。
文・伊藤亜希