六本木・SCHOOL LIVE & BAR TOKYO(以下、SCHOOL TOKYO)が立ち上げたオーディション。それが『KING OF SCHOOL 2025 ROAD TO CHINA』だ。優勝アーティストは、2025年12月に中国ツアーの出演権を得る。8月に前半戰、そして9月には2DAYSに渡る後半戦を開催した。前半戦と後半戦を勝ち抜いた優勝者が、2025年12月に行われる中国ツアーに出演する権利を得られる。この日の審査員は、下北沢ライブハウスGARAGE(以下、GARAGE)の店長という経歴を持つ、腕白舎(ワンパクシャ)代表取締役の出口和宏氏のほか、SCHOOL TOKYOスタッフの許宸氏と(株)バッドニュースの千葉和利氏。今回から観客投票も取り入れられ、よりオーディションらしい形になった。本稿では、2025年9月18日に行われた『KING OF SCHOOL 2025 ROAD TO CHINA 1st Round-後半戰 DAY1』の模様をレポートする。
自分の中で、今、鳴らしたい音をエネルギッシュに体現した、拉布Labob(ラボブ)

トッパーを飾ったのは拉布Labob。エレキギターとラップトップを携えたソロアーティストだが、サウンドはあくまでロック。ニューウェイブやポストロック、オーセンティックなルーツロック、ギターロック、ガレージロック、ラウドミュージック、オルタナティブロックなどを柔軟に取り込んだトラックに、ソリッドなギターが絡んでくる。ラップトップミュージックではあるが、バンド然とした音圧もあり、本人が目指すサウンドが明確に表れていたように思う。驚いたのは、拉布Labobの歌声だ。序盤のロックナンバーでは、低音から中低音を少し掠れたようなニュアンスを残しながら、荒々しく吠えるように歌う。客席からもわかる喉の太さが、そのまま歌声のダイナミズムに直結していると思った。高音のサビでも地声のまま、シャウトする姿は、まさに自分の中でのロックを咆哮しているようだった。ギターをハンドマイクに持ち替え披露したエレクトリックなダンスナンバー「虚无的世界年轻的我们」では、ファルセットも響かせ、ボーカルアプローチの多彩さを印象づけた。
キーボードの弾語りで登場したbiki(ビキ)。演奏と歌声の両方で高いポテンシャルを見せた

bikiは、ソロ、そしてバンドとしても活躍中のシンガーソングライターだ。クラシックやジャズなど幅広いルーツを持っている。この日はキーボードの弾き語りで登場した。「さっき楽屋で教えてもらった」と笑いながら中国語で挨拶し「あってますか?」と客席を見渡し笑顔を見せる。低音域から始まったバラードでは、喉を開き、呼吸をするように自然な揺らぎを出していく。高音では伸びやかなトーンを聴かせた。キーボードひとつでバラードでは流れるようなタッチから単音で余韻を作り出し、アップチューンでは“和音の打楽器”とも言われる鍵盤で、軽快で美しいリズムを刻む。ジャズを彷彿させる即興的なフレーズの中に、鮮やかなグリッサンドを取り入れた演奏には、拍手や歓声が起こった。彼女のボーカルで特筆すべきは、声の出し方を使い分けているところだ。例えば、高音のトーンでも、低音と同じように喉の奥から母音をひっぱりだすようなパターンもあれば、奥に母音を残さずに子音と一緒にスパーンと出すパターンもあった。おそらく、言葉やメロディーに合わせて発声をコントロールしているのだと思う。これからもっと手数が増えるだろうなと思わせる、ポテンシャルを見せてくれた。初めて自分が作詞・作曲をしたという「スポットライト」など全3曲を披露した。
本人が持っている誠実さがライブそのものに滲み出ていた、ひろみ

打ち込みのトラック&ハンドマイクでステージに立ったのは、ひろみ。「今日は楽しい夜になったらいいなと思います。よろしくお願いします」と挨拶。その表情が少しだけ固い。緊張しているのかと見ていたら、歌い出すとその表情がみるみる変わり、華やかになっていく。明るいメロディーの中に、アニソンを彷彿させるようなメロディーも挟み込むポップス。サビでは、クリアなハイトーンへ。そのハイトーンの中で、音符を転がすように歌う。アプローチというより、声質そのものが、鈴が転がるような愛嬌を持っていると思った。ピアノの柔らかな調べからのバラード「ナイトジャスミン」では、低音域での丁寧な処理で、言葉がはっきり伝わってくる。オーセンティックなギターをイントロに据えたミディアムバラードでは、高低差のあるメロディーを一音のぶれもなく歌うスキルを見せた。終演後、審査員やライブハウスのスタッフ、一人ひとりにお礼を言っていた彼女。その誠実さが、ライブそのものに滲み出ていた。
アコースティックギターの弾き語りからヒップホップまで。マーライオンが見せた、音楽の自由度

デビュー10周年を迎えたシンガーソングライター、マーライオンがステージへ。アコースティックギターの弾き語りだ。最初の曲「春を待ちわびて」から、繊細なアルペジオ、クリアなストローク、ボディをタップするなど、アコースティックギターに対する動作が己の中に染みこんでおり、活動歴を物語る。王道のグッドメロディーの中に、60年代後半~70年代の日本のフォークを思わせるメロディー展開があるのが面白い。歌声もどこか愛嬌がある。自らのハンドクラップと歌声だけというアカペラスタイルもあり。本人の音楽に対する自由度がわかる。この日、各アーティストの持ち時間は15分。MCで、自分は季節を歌った曲が多いと言ったマーライオンは「15分なので、春夏秋冬を駆け抜けていきたい」と、アップチューン「春夏秋冬」へ。各フレーズ最初の歌詞とメロディーのマッチングがインパクト大な1曲。本人の音楽への好奇心、遊び心を感じた。「弾語りをするのも好きだけど、ヒップホップも好きなんで。俺なりのヒップホップと作ってきました」と、アコースティックギターをハンドマイクに持ち替え、打ち込みのバックトラックとともにラップを披露。曲の途中で、1980年代半ばにロックとヒップホップをクロスオーバーさせた代表曲「Walk This Way (Run-DMC × Aerosmith)」の有名なギターのフレーズを、一瞬だけ口でコピーするなんて秘技(?)も飛び出した。
本オーディションのために結成されたFULL WATT (福禄瓦特/フルワット)。総勢7名。中国と日本の混合バンド!

続いてFULL WATTが登場。本オーディションに参加するために、結成された7人組である。ボーカル、ギター2名、ベース、キーボード、ドラムス、アルトサックスという編成で、そのうち、昭和音楽大学と洗足学園音楽大学の出身、在籍者が6名。7名中6人が中国出身で、ボーカルは女性。1曲目のイントロから魅せた。ボーカルがハミングのように歌ったメロディーを追いかけるサックス。フュージョンファンクやネオソウルを彷彿させるダイナミックで洗練されたサウンドが、恐竜のように立ち上がっていく。どのメンバーのスキルも申し分なしだ。歌詞は英語だが、ドメスティックな(時には昭和歌謡かと思うくらいの)フレーズが随所に挟み込まれているあたりに、このバンドならではのオリジナリティーを感じた。パワフルなバンドサウンドを、半ばねじふせるように君臨するボーカルのすごいこと。ピッチ、リズム感、声量、発声、レンジの広さ、ファルセット、ホイッスルボイス、全方位に死角なし、と言ったところか。特に、サウンドより少し前かジャストで合わせてくる歌い方で、ソウルやブラックミュージックとは異なる趣を出してくるところがいい。ビッグバンドならではのダンスロック調の曲もあり、賑やかにステージを盛り上げた。
バンドにとって必要なファクターを着実に布石にしていると感じた、New Love New Light (ニューラブニューライト)

最後にステージに上がったのはNew Love New Light。ギター&ボーカル、ギター、ベース、ドラムの4ピース。メンバー全員、早稲田大学に在籍中のバンドだ。マージービートなどのルーツロックを軸にして、ポップな曲を展開する。そんな中に、80年代初期のニューウェイヴを思わせるような、ちょっとひねくれたギターフレーズを取り入れるなど、音楽への好奇心や、メンバーそれぞれのルーツを具現化しようとする、頼もしいスピリッツがある。最初の曲の間奏では、ダブのアプローチをするメインギター、同時にスカのリズムを刻むボーカルのギターなど、音楽ルーツもディグっている最中であることも伺えた。2曲目では、バンドサウンドの音数の抜き差しでアレンジの緩急を作り出し、アウトロをアンビエントな音像につなげていく。ベースがリズムを刻み始めると同時に次の曲へ。見事なつなぎをみせた。また、2名のギターが向き合って弾くパフォーマンスも目を引いた。曲を作りライブをするだけでなく、様々な曲を聴き、多くのライブを観ることもバンドが成長するには欠かせないファクターだが、そこを着実に布石にしていることを感じさせるライブだった。伸びしろしかないバンドだと思った。
1st Round-後半戰 DAY1 の優勝はFULL WATT。結成1か月で獲得したその実力の背景とは…?

終演後、『KING OF SCHOOL 2025 ROAD TO CHINA 1st Round-後半戰 DAY1』の優勝者が発表され、FULL WATTがステージへ呼び込まれた。喜びの声をあげながらステージに並ぶメンバー。7名のうち2名は、本ステージ出演後、他のbarでの演奏がありSCHOOL TOKYOを後にしていた。「とても嬉しいです」とボーカルがコメント。他のメンバーにマイクを渡すと、中国語でバンドへの思いを語り始めた。以下に要約する。
「FULL WATT結成のきっかけは本オーディションだったけど、今日ここにいるメンバーは長年一緒に音楽をやってきた仲間たちです。5年以上、一緒にやっているメンバーもいます。今回の機会をいただけて、そんな仲間たちと一緒にステージに立てたことがすごく嬉しい。
決勝に進出してステージに立てる機会をいただけたこと、本当に感謝しています。今日はミスしてしまったところもあったので、次の決勝までは、もっとバンドの演奏を磨き上げて、より良い形を皆さんにお見せできるように頑張ります。ありがとうございました」
『KING OF SCHOOL 2025 ROAD TO CHINA』の決勝戦は、10月18日、土曜日。SCHOOL TOKYO にて開催される。中国ツアーの権利をつかむのはどのアーティストか。決勝戦当日のレポートも予定しているが、ぜひ、国という垣根を超えた熱戦を現場で体感してほしい。
執筆・取材:伊藤亜希
撮影:山田耕平









.jpg?w=265)









