千葉県発の3ピースバンド、Pale Blue Dot(ペールブルードット)。メンバーは熊谷(Vo./ Ba.)、中村麟太郎(Gt.)、飯(Dr.)の3名。彼らが7月に「comet」「harbinger」の2曲をEggs内で配信をスタートさせた。
本稿では「harbinger」をレビューする。
「harbinger」を、J-POP、シューゲイザー、ドリームポップといった言葉で形容することはできる。しかし、この曲はジャンルで括ることができない。轟音で飲み込むわけでも、幻想的な浮遊感へ身を委ねさせるわけでもない。メロディーにはポップな部分もあるが、全体を通してシリアスな印象が強い。
ハイトーンの既存文脈を塗り替える――霧雨の中に異なる質感を立ち上げるボーカル
ジャンルの輪郭が、現れては消えていく。霧雨や濃霧を思わせる音像は、身体を徐々に浸食されていくような感覚さえ覚える。そこに異なった質感を持ち込むのがボーカル・熊谷の歌声だ。湿度が低く、かなりの高音域まで地声で歌唱するスタイルは、じつに珍しい。元々、キーも高いのだろうが、これまでの男性ボーカルとは異なる文脈で、高音を扱っているように感じる。メインとなるのは高音域だ。一般的にはハイトーンボーカルに分類される。しかし、その呼称だけでは収まり切らない違和感が、この歌声の個性になっている。
「harbinger」での熊谷のボーカルは、歌い出しではブレスを多めに混ぜた柔らかな声で、フレーズ全体を滑らかに流していく。子音を必要以上に立てず、語尾をわずかに滲ませることで、言葉としての意味よりも、まず音色として耳へ染み込んでくる。
興味深いのは、歌声がサウンドに埋没していないことだ。むしろ、残響の中で存在感を失うのではなく、輪郭だけを揺らがせながら空間そのものを書き換えていく。シューゲイザーというジャンルは、ボーカルを残響の奥へ沈め、ギターと一体化させるアプローチが少なくない。しかし本作では、声はサウンドよりも聴き手の近くに配置されている。それでいて輪郭だけが揺らぎ、ギターの残響やアンビエントな空気と自然に溶け合っていく。近いのに掴めないという、この絶妙な距離感こそがPale Blue Dotならではの歌唱表現と言えるだろう。
その独自性は、サウンドメイクにも貫かれている。幾重にも重ねられたギターはシューゲイザー的な残響をまといながらも、轟音で圧倒することを目的としていない。歪みは音圧を競うためではなく、空間へ陰影を与えるために機能している。そのため音像は厚いのに息苦しさがなく、楽器同士の隙間には静かな空気が流れているのだ。
一方で、ドリームポップのような甘美な陶酔感とも距離を置く。楽曲全体にはわずかなざらつきが残され、少し不穏さを宿した空気が漂い続ける。その不安定さが、歌詞に散りばめられた断片的な風景とも響き合い、「答え」ではなく「予感」を描いていく。
Pale Blue Dotのオリジナリティは、「声を主役にする」のでも、「音の壁を主役にする」のでもなく、その両者が互いの境界を侵食し合う関係性そのものを作品の核に据えたことにある。聴き終えたあとに残るのは、印象的なメロディでも轟音でもない。形になり切らなかった感情だけが、静かな余韻として心に留まり続ける――これこそが、「harbinger」が持つ美しさである。
文・伊藤亜希
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