1987年に“心斎橋ミューズホール”としてスタートしたOSAKA MUSE(以下、ミューズ)。1980年代半ば~90年代前半の第一次バンドブームから大阪のライブハウスシーンを支えてきた老舗のライブハウスである。2018年にはミューズが入ったビルの2Fに、ライブスペースMUSE BOX(以下、ミューズボックス)をオープンさせた。バンドやシンガーソングライターなど、ジャンルを問わずインディーズシーンを応援し続けるミューズの制作・ブッキング担当の杉本佳寿麿氏に話を聞いた。
心斎橋のビルの2フロア。老舗ライブハウスミューズとミューズボックスの違い
――杉本さんのお仕事の内容は?
杉本:制作ですね。ブッキングもやっていますし、チラシを作ったり、まぁ、いろいろですね(笑)。うちのライブハウスって、まずミューズがあって、同じビルにミューズよりもミニマムな規模のミューズボックスっていう、アコースティックライブハウスがあるんですね。ミューズの方では主にロックバンドを中心に、ミューズボックスの方では、アコースティックのシンガーソングライターやシンガーをメインにブッキングしてます。
――ミューズとミューズボックスで、しっかりとカラーが分かれているんですね。
杉本:そうですね。設備も違いますから。
――ブッキングをするにあたり、心がけていることは?
杉本:そうですねぇ……地元アーティスト5組とか、多ければ6組、日によってはもう7、8組出演する日もある。そうやってミューズやミューズボックスに出てくれる人を応援しながらも、自分が知らない音楽、知らないアーティスト……そういう、新しい才能を見つけるために日々、いろんなところに顔を出して、たくさん音源を聴いていますね。
――杉本さんの中で、ブッキングの基準、こだわりは具体的にあるんですか?
杉本:元々、自分自身もバンドやっていたんです。今はゆる~く続けているんですけどね。で、昔、バンドをやってた時にですね、ブッカー(註:ブッキングを担当する人)って……ちょっとこう……僕もまだ若かったからかもしれないけど……ストレートに言っちゃいますけど、ちょっといろいろごたごたがあって、嘘つきやなと思うことがあったんですね(笑)。
――嘘つきと思うエピソードが、ひとつだけじゃなく、いろいろ重なった。そうじゃないと、そこまではっきり言えないかと(笑)。
杉本:それもありますけど(僕が当時のブッカーを)信じすぎたっていうのもあるのかもしれないなぁと、ブッカーになった今だから思いますね。本当にね、(バンドマンにとってブッカーは)妄信的な部分があったりするので。だから1番大事にしているのは、バンドに嘘をつかないことです。あとは、今人気があるかどうかとかよりも、自分がいいと思ったかっていうのをひとつの基準にはしてますね。自分の耳を信じて、そこを大事にするようにしてます。
――分かりました。少しつっこんでもいいですか?
杉本:どうぞ、なんでも!
――杉本さんにも好きな音楽、つまり音楽的嗜好とかがあるわけじゃないですか?
杉本:あります、あります。
自分の耳を信じる。その耳が探るのはバンドとしてしっかり楽曲に取組んでいるかどうか
――ですよね。そういう自分の音楽的な嗜好は一旦置いといて、耳を信じる時って、サウンドのどういう部分を聴かれていますか?例えば、出たいって送られてきたバンドの音源を聴いている時、どういうところを聴く?
杉本:そうですね。自分の中では、僕個人の趣味と、売れそうやな、今流行ってるなと思う音楽とは、結構分けて考えられていると思っているんです。今流行ってるバンドがいて、流行っている理由は分かるけど特別ピンとこないなっていうことが、自分の中では、結構あるんです。
――そうなんですね。では自分の中で良いと感じる音、心が動く音というのは?
杉本:具体的に言うと、4ピースなら4ピース、3ピースなら3ピースで、各メンバーが役割を理解してバンドとしてしっかり楽曲に取り組んでるかどうか。それが、僕の中では=完成度みたいなところだなと思っているんですよ。そこはパッと聴くと分かる。例えば、この曲は弾き語りから作ってるって分かる、そうするとドラムのリズムがサイドギターに合わせて、退屈やなとか。どの曲も全部8ビートで、君ら8ビートしか知らんの?みたいな(笑)。そういう話、よくバンドともするんですよ。
――今の言葉をそのまま、メンバー本人に言うってことですか?
杉本:言いますね。
――嘘をつかない、その一例ですね。
杉本:他にもいろいろ、いろんな曲を聴いた方がいいでぇとか、いろんなライブハウスに観に行ってみなとか。そういうところに成長のヒントあるんだよ、みたいな話は、アドバイスとかではないんですけど、ちょこちょこいろんなバンドに言ってますね。ただね、これは、地元のバンドあるあるなんですけど、ちょっと話が逸れて申し訳ないんですけども……。
――いえいえ、大丈夫です。興味深いお話です!
売れている音楽にはちゃんと理由がある。その理由に気が付いて欲しい。だからバンドとたくさん話をする。
杉本:ライブキッズから入るってバンド始める子が、SNSの普及で増えてきてるんですよね。僕がバンドをやってた頃は、CDを買って、アリーナとかにライブを観に行って。そういうバンドを目標にバンドを始める子が結構いた。でも今は違う。そんなに売れてないバンドをきっかけに、ライブハウスに来る子がたくさんいて、それでバンドを始める子が結構いる。それはそれで、めちゃくちゃいいことではあるんですけど、売れる曲を作る、作れない、売れない曲を作ろうとか悩んでいるような……そういうバンドを目標にしてバンドを始めると、そのバンド自体がステップアップするのに、悩んでいるバンドと同じところでつまずいちゃうんですよ。だから、できるだけ売れてるバンドのライブを観たりするのは、インプットとしてはとても大事だって話をするんです。売れている音楽には、やっぱり理由がちゃんとあるので。その理由に気が付けないと、活動していく中ですぐどこかで頭打ちになってしまうから。ただこれは、制作という立場の自分自身の中でも、いつも意識して思っていることですね。
――ライブハウスにすぐ観に来る子たちが増えている、と。その理由をどう分析なさってますか?
杉本:完全にSNSだろうなと思いますね。SNSでライブ動画を上げて、それを見て、観客がワーッってなってる。それを見て僕もやりたいってところに繋がってるんじゃないか、と。文化としてはとてもいいことだとも思っているんです。ライブハウスに来るきっかけの1個になってると思いますし、言葉を選ばないで言えば、ライブハウスが気軽に来れる場所になってるとも思いますね。
――リリック動画とかも、クオリティが高いものがどんどんアップされてますしね。
杉本:そうですよねぇ。本当にすごいですよね、若い子たち。あれ標準でできないともう話にならないみたいになってますから。若いバンドマンは、特に、一旦バズることを目標にしてるみたいな子がとても多いんです。そこも含めて、一緒にいろんな戦略を考えたりもするんですけど。でも……バズるってねぇ……そんな簡単に言われても、それが簡単にできたら苦労せんわっちゅう(一同笑)。
――おっしゃる通りです(笑)。
杉本:バズるだけで終わっちゃうバンドも、もちろんいるんですけど、僕からすると、今はもうバズるだけでもすごいことだから。一発、傷跡を残して良かったねぇと思います。そういう中でも、バズることを考える前っていうか……元々はもっとシンプルに、バンドが楽しかったり、ギター弾くのが楽しかったりっていうところから、始まってる子たちがほとんどなので。そこを大切にしようよっていう風に言ったりすることもあります。
ライブ中の定位置はフロアの1番後ろ。ステージ上のライブ、観客の様子、もうひとつ彼が見ているものとは?
――ブッキングの仕事をしていて、1番嬉しい瞬間は?
杉本:う〜ん……(真剣に考え中)……仕事的な面で言うと、理想の対バンの組み合わせを組めた時。もうちょっと進んだところで言うと、応援しているバンドの規模がどんどんどんどん大きくなっていく時。その瞬間を見ていく、そこに携われるって、やっぱりこの仕事をやっていてめちゃくちゃ嬉しいことですね。
――では、ライブを観ていてご自身が “今日の組み合わせ、成功した!”って感じるのはどういう瞬間でしょう?
杉本:僕、いつもライブハウスの1番後ろでライブを観るようにしてるんです。ライブをしてるバンドを観てるし、お客さんの反応を見てるのはもちろんなんですけど、対バンの子たちが、他のバンドのライブを観ている様子も見てるんですね。それで、その子たちが、感銘を受けているなと感じる瞬間があるんですよ。そういうのを見た時には、今日このバンドとこのバンド組んで良かったなぁと思いますね。
――いいお話ですね。
杉本:本当にライブハウスは楽しいなと思って欲しいから。いいライブ見たら楽しいですし、友達ができたらそれも楽しい。だからそこは本当に意識してブッキングしてるんです。
――Eggsがミューズさんと組んで、オーディションをやらせていただいたイベント『Eggsレコメンライブ+』や『心斎橋アーティスト見本市2024』について。感想をお聞かせいただけますか?
杉本:僕とは違う組み合わせが出てくるのが、1番面白いですね。こことここを当てるんやみたいなのもありますし、ブッキング会議の中で知らないアーティストの名前が出てくるので勉強にもなりますね。
ミューズがプッシュするインディーズバンドは?事務所のドアと本当に叩いたバンドも…
――今、おすすめのアーティストを何組か教えてください。
杉本:わかりました。まずは、ドミノンストップ。こちらはとてもおすすめのアーティストになっております。まだまだ駆け出しのバンドですが、音楽のジャンル的にはロックンロールでありながら、意外とポップな曲をやる。でも、持ってるハートは結構強くて、いいライブをするアーティストです。次にTRACK15ってバンド。大阪ミューズをホームにしているアーティストで、曲がドラマの主題歌とかにもなってましたね。本当にいい歌声といい曲で、今すごい人気です。下積みも長くて、お互いがグデグデになるような打ち上げも何度も一緒にしているバンド。やっと最近お客さんがついてきたんで、まだ出会ったことない人はぜひ出会って欲しいバンドです。他にはtoybee。このバンドは、地元が千葉県なんですけど、大阪ミューズによく来ていただいていて。11月には大阪ミューズで企画イベントもやりました。彼ら、前身バンドがあってなかなか売れない時期もあったし、今もめちゃくちゃ売れてるかっていったらまだまだこれからだと思うんですけど、こうね……本当に頑張り屋ですね。それこそ『心斎橋アーティスト見本市』にも出てくれているアーティストです。
――あと2アーティストくらいお願いします!
杉本:わかりました。では、Uncurtain。地元バンドで、本当にこいつらはまだまだなんですけども、とにかくスポンジのようにすごい吸収力がある。1個ダメ出ししたら、次の週にはそこをすぐ直してくるような、行動力もある。でも1番すごいところは、本当に曲の幅がすごく広いこと。ロックからもミクスチャー、あとはクラブミュージックっぽいエッセンスもありますし、曲ごとにバンド名変えられるで!ぐらいの幅広さを持っているので、本当にぜひ1度聴いてもらいたいアーティストですね。
――最後はミューズボックスに出演しているシンガーソングライターでお願いできますか?
杉本:はい。豆原百音というシンガーですね。大阪ミューズ主催で毎年『十代白書』という若手のアーティストのイベントを開催してまして、そこで出会ったんですけども。まだ20歳そこそこのシンガーですけど、キャッチーな曲を書くんです。結構、可愛らしい曲を歌うんですけど、ハートフルなライブをするんです。こう……観客に訴えかけるようなライブをする。私は今こう思ってます、あなた(=観客)のこと、こういう気持ちにさせたいです!みたいなことをMCで言う。そういうパッションのあるライブをするので、ぜひライブを観てもらいたなと思います。
――最後にアーティストの卵(Eggs)に向けて、メッセージをお願いします。
杉本:ライブハウスはすごく楽しいところです。音楽で売れたいと思って活動をしていると、つらい瞬間とかしんどいことがいっぱいあると思うんですけども、自分が信用できるライブハウスの方と一緒に頑張っていれば、楽しいことがいっぱいあるので、ぜひライブハウスにライブしに来て欲しいなと思ってます。
――ライブしたいけど、そこまで一歩踏み出せない人に一言お声かけるとしたら、何て言います?
杉本:事務所のドア叩きに来てください!Uncurtainは、本当に事務所のドア叩きに来ました。
――え!そんなことあったんですか?
杉本:あったんです。コンコンコンって事務所のドア叩いて来た。ヴォーカルの子だったんですよ。彼、ハーフなんですけども、パッと見、外国人が立ってるって思って(笑)。どうしたの?って聞いたら、ここ出たいんですけど、どうしたらいいですか?って言われて。まぁ、入りよって事務所に入ってもらって、そこでCDを貰って。絶対に聴いて連絡しますと伝えて、その日は帰ってもらって。で、CD聴いてから、後日、メールかLINEかどっちかで連絡して。そこからライブ出てもらってる。
――すごい行動力ですね。でも、なぜ直接来ようと思ったんでしょうね?
杉本:メール無視されたりしたら嫌や。絶対出たかった、みたいなこと、言ってた気がします(笑)。