2025年4月1日下北沢MOSAiCで開催された『アオキハルヘVol.12』に密着
下北沢MOSAiCとEggsがタッグを組み10代アーティストをメインにしたイベント『アオキハルヘ』。両者のインディーズシーンを応援したいという想いが作り上げてきた歴史あるイベントも、今回の開催で12回目を迎えた。4月1日、降りそぼる雨の中『アオキハルヘ vol.12』が下北沢MOSAiCで行われた。その模様をレポートする。
開場直後の下北沢MOSAiCのフロアに最初に入ってきたのは、出演バンドと同年代の男女だった。ステージ上にセッティングされたエフェクターを見つめ何かを話し、アンプを指さしながら会話をしている。2人も音楽をやっているのかな……なんて思いながらその様子を見ていた。フロアの後方からは男子2人の会話も聞こえてくる。最近観たライブの話、最近聴いているインディーズバンドの話など、ずっと音楽の話をしていた。本当に純粋に音楽が好きで、インディーズシーンが好きで、今、この場所に来ている。そんな空気がフロアには漂っていた。
トッパーはSheep Man(シープマン)。観客に何度も声を投げかけフロアをひとつにした!
トップバッターとして登場したのはSheep Man(シープマン)。メンバー4人が順番にステージに姿を現しスタンバイする。あまこー(Vo./Gt.)が「前に来てください!」と観客に声をかける。オープニングを飾ったのは彼らの1stシングル「君を迎えに!」。バンドサウンドが走り出す。サビでは「拳あがりますかー!」というあまこーの声に、フロアは拳を振り上げレスポンス。シンガロングも起こった。ブルージーなギターのイントロから新曲「あのバンドのせい」へ。リズム隊の力強いビートがしっかり楽曲を支える。真っ赤に染まったステージの中で、丁寧なバンドアンサンブルがしなやかに鳴り響く。あまこーの歌もしっかり聴きとることができ、言葉遊びをしている歌詞にこのバンドの探究心と挑戦を感じる1曲であった。「今日を目指して、2月、3月はライブをしてきました」と話始めるあまこー。しも(Gt.)、うた(Ba.)、寛太(Dr.)の3人がその様子を笑顔で見つめ、メンバー同士でアイコンタクトを取っている。今、彼らがどれだけ真摯にこのバンドに向き合い、音楽を謳歌しているのかがわかる瞬間だと思った。「寝顔とシャツ」では、寛太がドラムを叩きながら一緒に楽しそうに歌っている姿も印象的だった。あまこーが再びマイクを取る。今回の『アオキハルヘVol.12』の出演に際してインタビューを受け“10代を色に例えると?”という質問に灰色と答えたこと、その理由をコロナ禍で思った通りにバンド活動ができなかったこともあったからと述べた後、こう締め括った。「そんな僕の10代を全部青色に変えていきたいと思います!」この言葉を受けて最後に披露されたのが「19」だった。開演前、まだ手探り状態でシャイな雰囲気だったフロアに、何度も語り掛けるように言葉をかけたあまこー。そして、レスポンスした観客に目を合わせ、「いいね!ありがとう!」と表情でしっかり応えていた、しも、うた、寛太の3人。最後にはステージとフロアの境を感じさせないほどのムードを作り上げ、トッパーの役を見事に果たした。
setlist
- 01. 君を迎えに!
- 02. あのバンドのせい
- 03. 日常の行方
- 04. 寝顔とシャツ
- 05. 19

MCほとんどなし、曲間の静寂をも支配したカオスで圧倒したリチカ
次に登場したのは左藤優希(Vo./Gt.)と金子賢斗(Key./Gt./Cho.)からなるリチカは、サポートメンバーであるベースとドラムも含めて、全員黒の衣装だ。リハーサルを終えた後、ステージからはけることなくそのまま本番へ。薄闇に沈むステージ。ソリッドなギターとメランコリックで軽快な鍵盤が重なり「百合念慮」へ。スタッカート気味に単語を切るように歌唱していた平メロから一転、サビへ向かい低音から高音に軽やかに駆け上がる左藤のボーカルコントロールの見事なこと。間奏では金子がジャジーなキーボードを聴かせるなど、たった1曲で圧倒的な存在感を印象付けた。続く「disease」では金子がキーボートからギターへ。キーボードを前にしてストラップをかけギターを弾く姿は、それだけでこのグループの音楽への自由度、そして目指しているものが足る稲木サウンドだということを体現していたと思う。緻密でアグレッシブなバンドアンサンブルがフロアを飲み込んでいく。左藤は高音のトーンでチェストボイスからファルセットに移行するスキルを見せる。途中でリズムがどんどん変わっていき、ダンサブルになっていく楽曲構成には心底唸った。「天使模倣品」では金子がギターで優美なサウンドスケープを描き出す。ポストパンク、ニューウェイヴ、ゴシックインダストリアルを彷彿させるファクターが混在しながら、メロディーはとことんドメスティック。左藤のこぶしのアプローチも民謡に通じるものがあり、ともすれば湿度の高い重たいロックになりそうなのだが、そこをまったく感じさせないのは金子の軽快な演奏、そしてリチカの2人がメロディーとバックサウンドのバランスを考えているからだと思う。MCもなし、曲間のチューニングの静寂をも支配したカオスが、リチカというバンドの魅力だ。まさにアンファンテリブル。末恐ろしいと思わせるステージだった。
setlist
- 01. 百合念慮
- 02. disease
- 03. 天使模造品
- 04. 青に化ける
- 05. 模範的青春

風格ある存在感を放ったAkatsukinohate.(アカツキノハテ)にアンコールがかかった
この日、トリを飾ったのはAkatsukinohate.(アカツキノハテ)。ニノミヤ(Dr.)、ぽーつか(Ba.)、さとみん(Vo./Gt.)が順番にステージに姿を現し、一礼してスタンバイする。走り出すビートにフロアからクラップが起こる。オープニングを飾ったのは「意味」。サビ前にさとみんが「モザイク、行けますか!」と叫ぶと観客が一斉に手を挙げた。サビではぽーつかが綺麗なハモりで楽曲のスケール感を後押しする。後半のサビ前の“ため”では、ニノミヤがスティックを持った両手を高く上げ、ジャストタイミングでスティック振り落とすパフォーマンスを見せた。続く「君世界」では序盤から美しいサウンドスケープでフロアを魅了する。タイトなリズムとグッドメロディーが交差するように進行するメリハリあるミディアムナンバーは、最後にはギターのフィードバックノイズで迫力あるバンドサウンドを印象付けた。さとみんがマイクを取る。Akatsukinohate.では初めての『アオキハルヘ』の出演だと言った後、前のバンドで同イベントの初回に出演していたという話へ。少しざわめくフロア。さとみんは『アオキハルヘ』のタイトルにちなみ、春は寂しい、でも前に進まないといけない気持ちもある、すごく複雑な気持ちと述べた後こう締め括った。「そういう自分のきみとぉ思い出として切り取ってきました」この言葉を受け、新曲「春を刻んで」を披露。曲のリズムに合わせフロアでクラップがはじける。続く「嫌になる」はミディアムチューンのギターロックだったが、歌い始めをオクターブ上のファルセットで聴かせるなど、非常に高いスキルとこのバンドの表現の幅を感じさせた。赤に近いオレンジ……暁色にステージが染まった中で演奏された「あたたかい」など、視覚的にもサウンドのイメージを観客と共有しようとしているスタンスも窺えた。ステージを後にした3人にアンコールがかかる。再びステージに姿を現したAkatsukinohate.。さとみんの「背中をそっと支えるような曲をこれからも作っていきたい。しんどくなったり辛いことがあったら、また私たちのライブを観にきてください」という言葉を受けてアンコールで演奏されたのは、ダンサブルなロックチューン「都合のいい心」だった。
setlist
- 01. 意味
- 02. 君世界
- 03. 春を刻んで
- 04. 嫌になる
- 05. あたたかい
- 06. グッバイ
- En. 都合のいい心

終演後に感じたインディーズライブシーンの尊さ
終演後、地下1階のフロアから地上1階に上がると、ロビーは人で溢れかえっていた。出演者同士、観客同士が会話をしている。誰もが笑顔で、誰もが高揚して声が大きくなっている。10分くらいいろんな人の会話に耳を傾けてみたが、ほとんどが音楽の話だった。ミュージシャンとして、音楽リスナーとして、在るべき当たり前の姿がいつでもある。それがインディーズライブシーンの尊さだと思った。
※『アオキハルヘVol.12』に出演予定だったCozyLandはメンバー様の体調不良により出演キャンセルとなりました。
執筆・取材:伊藤亜希
撮影:岩本在夢(X:@arimu__iwamoto , Instagram:@arimu_iwamoto )