Text:飛内将大
君は豚汁にカレールーをぶち込んだことがあるだろうか?
前の日に作り過ぎて食べきれなかった豚汁に、カレールーを容赦なくぶち込む。するとどうだろう。そこに現れるのは、野菜や豚の旨味が凝縮され、味噌の風味が心地良い創作和風カレーだ。美味い。猛烈に美味い。
君はカレーに納豆をぶち込んだことがあるだろうか?
未体験だと薄気味悪さしか感じられない組み合わせだが、勇気を振り絞る。するとどうだろう。インドのスパイスとの未知の出会いに納豆の臭みはたちまち消え、まろやかで柔らかな大豆の食感は海を渡り、まるでこれは……ナマステ……
これが「サンプリング」である。
刺激的な化学変化を求めて、ありとあらゆる音素材を掻き集め、未知の組み合わせを探求する。なんてカレーみたいなんだ。あぁカレーが食べたい。
今回は見事な化学変化を遂げた、スパイシーなサンプリング楽曲たちを紹介したい。
Britney Spears - ToxicまずはBritney Spearsの代表曲のひとつでもあるToxic。タイトルであるToxic(=毒性のあるもの)の名に恥じぬ、イントロからグルーヴ感、メロディに至るまで見事な中毒性を放つこの曲だが。中でも妙に癖になるキレのいいストリングス、実はインドポップスからサンプリングされたものなのだ。こちらがその原曲なのだが、早速0:12辺りでその片鱗を覗かせる。
Tere Mere Beech Mein - Ek Duuje Ke Liye - Kamal Hassan, Rati Agnihotriなんなんだ、この海辺ほのぼのデートビデオは。ゆるい、ゆるすぎる。個人的には1:40辺りで彼女の顔面をタブラのように叩き、ネックレスを冷えピタ代わりに使い、お熱を冷ますシーンがたまらない。とにかく、曲を作り始める時からこの曲をサンプリングしようと思っていたのか、仕上げていく道中でこの曲に出会ったのかは分からないが、Britney Spearsを引き立たせるスパイスとしてインドポップスに出会い、インドポップスを選んだ。この曲のトラックメーカーは、さぞカレーがお好きなのだろう。あぁカレーが食べたい。
強烈なスパイスとしてサンプリング素材を全面にまぶしたToxicに対して、祖母に「ゲーム」とあだ名を付けられた、悪そうで怖そうなアメリカのラッパー“The Game”。この曲の1:06辺りでは、“隠し味”としてこの曲の歌い出し部分をサンプリングしている。
Baghon Mein Bahar Hai - Rajesh Khanna, Farida Jalalこれぞカレーの醍醐味。一聴しただけでは絶対に気付けない、奥深くから漂うほのかで確かな香り。作り手は時に、こんなことを仕掛けてはほくそ笑む。
サンプリングという文化は、音楽テープを切って繋ぎ合わせる実験的でプリミティブなものに始まり、レコードを擦ることでリアルタイムに素材を操るパフォーマンス性のあるものになっていき、今ではコンピューター上で自由自在に扱える、音楽作りになくてはならないひとつの身近な武器になった。
こんなにも気軽にサンプリングできる時代だからこそ、味わえるカレーを僕は食べたい。
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