Text:agehasprings Open Lab.
―青春を全部懸けたって強くなれない?懸けてから言いなさい。―
漫画『ちはやふる』にて競技かるたに本気になれない、中途半端な太一に向けて原田先生が放つ最高にして最強のパンチラインである。実写版である映画『ちはやふる-上の句-』の劇中では、原田先生役の國村隼さんが渾身の演技でこの台詞を言い放つわけだが、映画館で観ていた私は思わずこの言葉を聞き、ボロボロ泣いてしまったのを覚えている。その時、隣に座っていた小学生の女の子に不審そうな目で見られたのもよく覚えている。
さて今回のコラムでは、そんな青春全部を懸けて、いざシーンのど真ん中に走り出さんとする、若きミュージシャン達をレコメンドしていきたいと思う。彼らは現在行われている未確認フェスティバル2017にて、惜しくもファイナリスト選出を逃したものの、私が実際に音源を聴きLIVEを観て、確かなポテンシャルを感じ、あくまで「個人的な好み」というファクターが多めで恐縮だが、これからも推していきたいと思った3組だ。それでは早速紹介していこう。
突き抜けるような雲一つない青空の下、学校の屋上で制服のシャツのまま楽器を掻き鳴らし、将来への不安も大人への不満も気になるあの子への想いも、全部ひっくるめて歌う3人組。嫌味ったらしいあの教育指導の先生に気付かれるまでの、僅か数分間だけ使える音楽の魔法。思わず『階段途中のビッグ・ノイズ』という小説を思い出した。
奇跡のようにひたすらな青春を、Hi-STANDARDやWANIMAなどのパンクバンドにも通ずるような愚直なまでの誠実さで鳴らし歌うthe paddlesは、自身で銘打った「大阪寝屋川から、青春を叫ぶ」というキャッチコピーの通り、一瞬で過ぎ去っていく季節を丸ごと歌にしたような、泥臭くも青さに満ち溢れたギターロックサウンドと、Vo.柄須賀の男臭く力強い歌声が魅力の3ピースバンドだ。問答無用でカッコいいのが、前述したVo.柄須賀の歌声で、Eggsでフルサイズが公開されている「ファンファーレ」は、歌い出しから男の私でも思わず溜め息が出てしまうほど文句なしにカッコいい。
彼の歌声には、現在シーンを席巻しているハイトーンVo.擁するギターロックバンド勢ではなく、MONGOL800やTHE BOOM、そしてWANIMA等のバンド勢からのスピリットを確かに感じ、だからこそパーソナルな言葉を紡ぐのではなく、もっと普遍的なメッセージを届けられるポテンシャルを秘めているのではないかと思うし、それが出来るのは彼らであると私は信じて止まない。只今青春の真っ只中、この季節を走り抜けた先に、彼らは一体どんな景色を見せてくれるのか。今から楽しみである。
Vo.有明(ありあ)の気怠くもヒリついたエモーションが見え隠れするヴォーカルがグッとくる、神奈川県出身の4ピースバンド・レイラ。その歌声も然ることながら、私が特筆したいのは歌詞を含めたトータルでのコンセプチュアルな世界観。
「さよなら」「いとしい人」「あなた色に染まりたいの」など、公開されている楽曲はどれも“恋人と別れた直後の女性”の心境を切り取ったものばかりで、諦念のような悲壮感とやり場のない憤りがごちゃ混ぜになったようなニュアンスを多分に含む、Vo.有明の歌声がこの歌詞の世界観に面白いくらいにハマっていて、恋に疲れ果てた28歳OLが、一人部屋で缶ビールを呑む姿が目の前に浮かんでくるようなのだ。私は勝手にこのバンドのコンセプトを「レイラ」という、一人の主人公にまつわる恋愛のアレコレをストーリーテリングすることだと解釈しているのだけど、更に面白いのがこの歌詞を書いているのはVo.の有明ではなく、Gt.の三浦君というところで、パーソナルなことを歌っていながらも、やけにドライな俯瞰目線のニュアンスを感じるのはそういうことだったのかと勝手に納得。
男性が書いた女性目線の歌詞を、女性が歌うというメタ的な方法論は中々画期的で、ギターの音色やフレーズ、ヴォーカルスタイルから初期のクリープハイプを彷彿とさせるところも多々あり、歌詞の世界観、そしてVo.有明の表現力が進化していくにつれ、とんでもないバンドになりそうな予感だ。これからどんな恋物語を聴かせてくれるのか、非常に楽しみなニューカマーである。
女性シンガーは往々にして「〇〇ヴォイス」という、声に特化したキャッチフレーズを付けられがちだが、だとすれば“ディープブルーヴォイス”と名付けたくなるような、深く青い海に潜ったかの如きサウンドスケープを歌声だけで見せてくれる、熊本県出身の16歳シンガーソングライター実佑は、とにかくポテンシャルがヤバい。
アコギを携え弾き語る、いわゆる“ギタ女”と呼ばれるタイプのシンガーソングライターの彼女だが、北欧を感じる純度の高い透明感や、英語のように発音する独特な日本語の歌い回し、泡のように消える儚げなビブラートなど、これまでの日本の女性SSWの文脈に捕らわれないような個性が随所に光っているのが良い。それでいて、歌声自体は記名性が高く、圧倒的にポップという王道を行くには不可欠な要素も持っている。この声質で倍音が豊かなところも非常に魅力的だ。これで細かいニュアンスの付け方とか憶えればもう無双、ポテンシャルの鬼、鬼にアサルトライフルと言えよう。
個人的には、今のスタイルであるアコギ1本で弾き語るプリミティブな破壊力も推したいが、例えばまだまだ日本には馴染みがないÁsgeirやBon Iverのような、エレクトロニカに接近したフォークサウンドも聴いてみたいところ。絶対に合う。LIVEではループマシンも使っているようで、しっかりとEd Sheeran以降のシンガーソングライターの文脈も受け継いでいて、メロディーの作り方や歌い回しなどを含め、洋楽に多分に影響を受けているのだろうなと感じるところが多く、完全に次世代のシンガーソングライターと言えるだろう。個人的には一刻も早く、しっかりとアレンジされ、ミックスまでされた完パケのプロダクションを作って欲しいところ。
火花のように迸る若さと、溢れ出んばかりの心の熱量の赴くままに、ただひたすらにただひたむきに一心不乱に走り続けることは、確かに若者の特権であることは間違いない。
世界の全てがキラキラと輝いて、刺激的に見えるそれを、人は往々にして青春と呼ぶのであろう。しかし歴史学者・竹越與三郎は青春についてこうも言っている『青春は単なる人生の花盛りではなく、来るべき結実の秋への準備の季節である。』と。
例えば、拙いながらもこうして連載の企画を持たせていただいたことが、私にとって来るべき結実への助走だとするのならば、私は今、青春の真っ只中だ。
私は今、青春を再び謳歌している。それはこの記事を読んでくれている貴方にとっても、きっと例外ではないはずだ。音楽はいつもそれを思い出させてくれるのだ。ならば我々も、彼らのように青春を全部懸けて走ってやろうじゃないか。来るべき結実のために。
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