Text:agehasprings Open Lab.
「水と油」ということわざがある。それぞれの質が異なるために、決して混じり合わないことを喩えた言葉だ。こと音楽に関しては、この「水と油」のロジックは全く通用しないことが多い。むしろ、本来は決して混じり合うことのないであろうジャンル同士のクロスオーバーが、音楽史すらも刷新してしまうような、刺激的で新しいサウンドの発明に繋がることが多々ある。例えば、ラブコメ作品でも往々のベタな展開として、学校一の美人で成績も優秀、清楚でスポーツも出来て、家はお金持ちという絵に描いたような才色兼備女子と、何かにつけて問題ばかり起こしている絵に描いたような不良男子(往々にして不自然なくらいの確率でイケメン)がくっついたりするのがお決まりのパターンだ。これも言わば「水と油」のロジックが通用しないクロスオーバーと言えよう。イケメンふざけるな。
それは、私がこよなく愛するポスト・ハードコア(以降表記PHC)やメタルコアを含めたヘヴィーミュージック(日本では主に“ラウドロック”と呼ばれる)でも同じである。2000年後半以降のPHC/メタルコアシーンは、むしろ「全くヘヴィーではない」ジャンルの音楽とクロスオーバーすることで、聴き手の想像を超えた進化を果たし、驚くべき速度で成熟してきたシーンと言える。例として、Linkin ParkやKorn、Slipknotを筆頭に「ニュー・メタル」という呼称で(日本では「ミクスチャー・ロック」という呼称が一般的)世界中を席巻したこのジャンルも、メタルやヘヴィーロックというヘヴィーミュージックに、本来対極に位置するエレクトロやヒップホップなどのジャンルをクロスオーバーして生み出された音楽だ。
さて、今回私が紹介したいのは、そんなヘヴィーミュージックの中でも前述した“PHC/メタルコア”と“R&B”をクロスオーバーさせたミュージック。しかも、そのサウンドの中心にいるクリーンボーカル(メロディーを担当するボーカル)にフォーカスを当てていこうと思う。海外のPHC/メタルコアシーンにおいて、R&Bとのクロスオーバーは2005年に結成したバンド・Dance Gavin Danceの初代クリーンボーカルJonny Craigの台頭を引き金としてムーブメント化し、彼を筆頭にR&B由来のボーカルスタイルを操る、数多くのクリーンボーカル達によって牽引されてきた。今回は、そんなガチのR&Bシーンで活躍するシンガー達にも比肩するような、圧倒的な歌唱力を誇るボーカリストを紹介していきたい。
R&B系ボーカリストのパイオニアであって、シーン屈指のカリスマ性を放つJonny Craig。その歌声は、R&B由来のソウルフルで色気のある歌い回しも然ることながら、全てを蹂躙するような圧倒的な攻撃力と破壊力も持ち合わせている。客演で参加した楽曲を、たったの1フレーズで喰ってしまう様は、まさにシーン最強のボーカリストと言っても過言ではないだろう。よりブラックミュージックに接近したソロ活動でも、そのオリジネーターっぷりを遺憾なく発揮しており、彼のよりドープな一面を見ることが出来る。シーンの第一線で活躍しながらも、生ける伝説と化すボーカリストだ。
メタルコアバンド・IssuesのクリーンボーカルTyler Carter。シーンの中でも、R&Bのテイストが特に色濃く反映された、メロウネスなボーカルワークと抜群のリズム感。そして、歌声に宿る記名性の高いポップネスが魅力のボーカリストであり、バンド活動と並行して行っているR&Bのソロワークでは、Adele「Hello」を本家に劣らぬクオリティーでカバーする若き天才である。
オーストラリア産PHCバンド・House Like Housesのボーカリスト・Trenton Woodley。R&Bからの影響を感じさせながらも、オルタナロックに接近した声質と、硬派でインテリジェンスな佇まいが魅力のボーカリスト。JonnyやTylerほどの特化したピーキーさはないが、技術に裏打ちされたテクニカルなボーカルワークとダイナミズムを生み出すパワフルさはシーン随一。
オーストラリア産のPHCバンド・Awaken I AmのボーカルであるAdam Douglas。PHCバンドのボーカルの文脈を受け継いだ、伸びやかな超ハイトーンボイスに、R&B由来のしなやかな歌い回しやビブラート、グルーブ感を取り入れた、ハイブリッドなボーカルスタイルが魅力のボーカリスト。
ドイツ産叙情PHCバンド・ALAZKA(アラスカ)でクリーンボーカルを務めるKassim Aualeの歌声は、前述したJonny CraigとTyler Carterの調度中間に位置するような、ソウルフルで色気に溢れながらも、確かな攻撃性を持ったボーカルスタイル。それでいて、モデルもこなせるようなスタイルとルックスの良さなのだから、グゥの音も出ない。更には、あの人気オーディション番組『The X Factor』にも出演した実績もあり、歌唱力には折り紙付き。今後のPHCシーンを牽引してくれることは間違いない、最重要ボーカリスト。
メタルコアバンド・VolumesのクリーンボーカルのMyke Terry。前述したボーカリスト勢のように、歌唱力で歌い上げるスタイルではなく、繊細なニュアンスまで表現できるテクニックと、太く強靭なバンドサウンドにも埋もれない記名性の高さ。そして、このビートを乗りこなすグルーブ力が魅力の、The Weeknd台頭以降のインディーR&B系のシンガーに近い質感を持つボーカリスト。
ボーカリスト達の歌唱力も然ることながら、注目して欲しいのはそのサウンドの多彩さ。日本で“ラウドロック”と言うと、ある程度の音像が想像できてしまう。しかし、海外シーンには前述したバンド勢のように、卓越したセンスと技術を持って、独自の進化を果たしているバンドが多数存在する。是非注目して欲しい。
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