Text:agehasprings Open Lab.
私は楽器と呼ばれる類のものを全く演奏することが出来ない。思い返せば小学校の頃、音楽の授業で必須であったリコーダーの習得がとにかく他の友人たちより遅く、挙句の果てには授業が終わっても居残りをさせられていた程の体たらくだった。何故そこまで楽器が出来ないか。要するに、典型的な楽器音痴なのだろう。そんなトラウマもあってか、これまで音楽が好きであったにも関わらず、自分がプレーヤー側になることを積極的に避け続けてきた。
しかしながら、そんな絶望的な楽器音痴の私でも、楽器を使わずして音を鳴らすことが出来る。それは“ビート”であり“リズム”だ。例えば、ハンドクラップであったり、フィンガースナップであったり、舌打ちであったり、スタンプであったり、私達人間はその体の一部を打ち付けることによって、自在にビートやリズムを刻むことができる。それを技術や演奏方法として昇華し確立したのが、例えばボイスパーカッションであり、ヒューマン・ビートボックスと呼ばれるものだ。そもそも、人間というのは“心音”というビートの上で生き、そのビートと共に死んでいく。そう、人間は言ってしまえば全身がリズムマシーンなのである。
近年の音楽シーンにおいても、特に2016年以降は、この“ビート”がプロダクションの中で重要な位置を占めるようになって久しい。ストリーミングサービスが世界的に浸透したことによって、これらのプラットフォームにフレンドリーなEDMの新ジャンル「Tropical House」や、Hip Hopの比較的新しい潮流である「Trap」など、音数や音圧が極端に少ないミニマルな音像のジャンルが、トレンドのサウンドとしてメインストリームやヒットチャートを席巻。当然のごとく、このトレンド変遷の動向はプロダクションの構造にも多大な影響を与え、音数が少ないが故に、楽曲の中で鳴る1音1音へのこだわり(例えばキック1発の音色など)の重要度がかなり増してきたと言える。
Camila Cabello「Havana ft. Young Thug」現在、全世界で大ヒットを飛ばしているCamila Cabelloの「Havana feat. Young Thug」は、オーガニックなフィールが魅力のラテン音楽をベースにしていながらも、ビートは生演奏ではなくリズムマシーンとして名高いTR-808(通称ヤオヤ)による打ち込みのものが起用されており、プロデューサーであるFrank Dukesのビートへのこだわりや意匠が光るワークスになっていて、このこだわりこそが、同楽曲を単なるラテン音楽ではなく、メインストリームでも十分に機能するウェルメイドなポップスに押し上げることに成功している。
※「Havana」の楽曲解説をもっとチェックしたい人は【コチラ】
The Evening「Bad」メタルコアバンド・The Word Aliveの元ドラマー・Luke Hollandの新プロジェクトであるベースレスな3ピース・The Eveningは、プロダクションこそエレクトロ色の強いディスコポップの体を成しているが、ビートはもちろんLukeの人力ドラムによるものになっており、Lukeの出自であるメタルコアの独特なフィールを多分に含んだアタックと、センスフルなフレーズやフィルインによって生み出されるグルーヴ感によって、同ジャンルのプロダクションでは聴く事が出来ない、唯一無二のテクスチャーを体現している。
Frank Ocean「Lens」また“ビート”という範疇において、既にそのレイヤーから解き放たれているミュージシャンも存在していて、現行のシーンにおいてはFrank Oceanがおそらくその筆頭。2016年にリリースされ、世界的なバズを巻き起こした彼の最新アルバム『Blonde』は、R&Bの範疇にありながらも全曲を通してビート(リズム)の存在感が限りなく希薄ながらも、絶えずメロウなグルーヴが漂っているというプロダクション。昨年リリースされたシングル達もその文脈を辿っていて、この「Lens」などは、楽曲が始まって2分を過ぎたところで、ようやくビートが顔を出すという構成。
Cashmere Cat「Wild Love ft. The Weeknd, Francis and the Lights」また、ノルウェーのプロデューサー/トラックメイカーであるCashmere Catも、ポップスというフィールドにおいて、既存のビートの概念を突拍子もないアプローチで刷新する音楽家の一人。R&Bシンガー・The Weekndと、トラックメイカー/プロデューサーであるFrancis Farewell Starlite率いるプロジェクト・Francis and the Lightsを客演に迎えた、上記の楽曲「Wild Love」では、キックの音の代わりに某有名ゲームのキャラクターのジャンプ音のようなものが刻まれるという、アクロバティックなビートのアプローチを導入。
さて、音楽解体新書5回目となる今回は、前述した内容からも既にお察しの通り、ビートやリズムというところに着眼点を置いて、3組のアーティストをピックアップした。そして、Cashmere Catのそれに倣い、今回はかなりアクロバティックなキュレーションになっているのでご了承いただきたい。それでは早速、紹介していこう。
楽曲の配信を中心に活動している、歌、作曲、デザイン担当の3人からなる名古屋のエレクトロポップユニット・SWEESWEESWEETS。CAPSULEやShiggy Jr.、livetune+などにも通じるエレクトロポップに、ノイジーなギターを乗せたという、一味違うサウンドを体現する彼女達。ビートに関しては、エレクトロポップなどのダンスミュージックをベースにしているだけあって、日本人にも耳馴染みのある明快な4つ打ちのキックが主軸だが、それは一回置いておいて、とりあえずこのLIVE映像を見ていただきたい。
お分かりいただけただろうか。Vo.の女の子がやけにデカいぬいぐるみを持っているのだ。ぬいぐるみが大きいのか、女の子が小柄なのかは分からないが、とにかく気になるサイズ感である。一人暮らしの部屋にあったら、そこそこ圧迫感があるレベルのデカさ。デートでゲームセンターに行った際に、彼女にクレーンゲームでせがまれ、頑張って獲ってはみたものの、まだ昼過ぎで帰りの時間まで持ち歩くのは結構しんどいし、何より馬鹿みたいに目立つレベルのデカさ。これは一体どういうことなのか。
例えば、世界的な人気を博すカナダのDJ/プロデューサー・deadmau5は、ステージに立つ際に彼のトレードマークである、ネズミを模したキャラクターのマスクを被ってパフォーマンスを行う。日本で言えば、顔はオオカミ、身体は人間の生命体によるバンド・MAN WITH A MISSIONも、その系譜に当たるだろう。そういった意味で、アニマルモチーフのアイテムを前述したアーティストのように“被る”のではなく、“手に持つ”ことで、独自のキャラクター性を確立しようとするアティチュードは、彼らのような被り物系ミュージシャンの文脈から枝分かれした亜種と言っていいのではないだろうか。
では、それがビートやリズムに何か関係してくるかどうかと言えば、現状では不明だ。あくまで想像の域を出ないのだが、例えば、あのぬいぐるみ自体に相当な重量があり、それをLIVEであえて抱えて彼女自身の重心を矯正し、横へのブレを無くすことによって、4つ打ちの縦のビートへよりノリやすくする、であるとか。あるいは、あのぬいぐるみ自体にNASAかどこかが開発した、特殊な最新技術が搭載されており、スピーカーから発せられる打ち込みのビートを、あのぬいぐるみを媒介することによって倍増させる効果を持っている、だとか。それとも、本体はぬいぐるみの方で、彼女自身は地上で活動するためのただの入れ物である、だとか。まぁ、あとはただ持っているだけか、のどれかだ。
もはや、後半から完全にビートの話ではなくなってしまっているが、楽曲良し、ルックス良しで、現状でかなり高いポテンシャルを誇っているユニット故、今後の活躍にも期待したい。
次回の後半では、少し真面目にもう2組のアーティストを紹介していこう。
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